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怨みの花  作者: 桐生初
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依頼調査開始

「まずいなあ。そろそろちゃんと仕事しないと、イリイ達に食わせる肉が買えない。仕事を探して来る。」


アデルが思った通り、アレックス家の財政は厳しくなっていた。


いつもの雑貨商のオヤジの所に行くと、オヤジが嬉しそうに笑った。


「旦那、ちょうどいい所に来なすった。」


「何かいい仕事でもあるのか。」


「アーヴァンク王子失踪。探してくれってよ。えらい大金だぜ?」


「ほお。いくらだ。」


「金貨600枚。」


金貨600枚といったら、一生遊んで暮らせる額だ。

ただし、大鷹二羽に、大フクロウ一羽が居なければの話だが。


「ーいくら王族探しといっても、随分弾むな。裏があんだろ?」


「あー、実はねえ…。」


オヤジは言いづらそうに頭をかいた。


「なんだ。早く言え。」


「その王子ってのがね。危ねえ奴なんだと。近づいたら命取られちまうんだとさ。だから大金だし、誰も受けねえのよ。」


「近づいたら、命を取られる?なんだそりゃ。魔導師なのか、そいつは。」


「いや、そういうんでも無えらしいんだけど。怒りっぽいんだか、まあ乱暴者なお人なんじゃないの?。アーヴァンク国でいづらくなったとかさ。」


「でも、探せという事は世継ぎなんだろう?確か、あそこは、王子は一人だったはず。他は皆王女だ。」


「流石、旦那。詳しいね。」


「いや。一応親戚だからな。叔母上の嫁ぎ先だ。」


「ああ、そっか。エミール様の姉上が…。じゃあ、その切れまくりの危ねえ王子は、その方の子供なわけだ。」


「そういう事になるが…。しかし、アーヴァンク国は、翼を持った人間の国。性格は温厚で争いを好まない筈だ。どうしてそんな暴れん坊が産まれたんだろうな…。」


「でも、ほら。エミール様の姉上が嫁いだのもそうだけど、鳥人間ばっかの血じゃあ、弱えし、長生きしねえっていうんで、普通の人間との婚姻を国として進めてんだろ?その影響じゃねえの?」


「ーそれにしても妙だな。多分、その王子には一度会っているはずだが、おとなしい王子だった気がする…。」


「旦那に比べたら、みんな大人しいガキだったんじゃねえの?」


アレックスは、クスリと笑った。


「それもそうだな。竜国の人間は、騎士魂といえば聞こえはいいが、要は闘争的だからな。叔母上の血が濃かったのかもしれないな。」


「ふんふん。で?受けてくれる?」


「他が誰も受けないとなったら、仕方がない。受けよう。」


「助かったあ。」


アレックスは、一度山の中の家に戻り、準備を済ませ、マリアンヌに大人しくしている様に言い含めてから出立した。


イリイでアーヴァンク国の山に入ると、一緒に乗せて来た黒馬、ラグナに乗り、城下に出た。


方々に、行方不明の王子の似顔絵と、見付けた者には金貨100枚の褒美を出すという触書きが貼ってある。


アレックスは酒場に入り、王子の噂話を聞いた。


酒を奢ってやりながら、肉屋だという男にいつもの様に話を聞く。


「あの気弱な王子様かい。ありゃあ、ダメだろう。ずっとご病気で北の塔に篭ってたと思ったら、行方不明だもん。どっかで死んでんじゃねえのかい。誰も見たって聞かねえよ。」


「本当に誰も見て居ないのか。」


「誰だって、金貨貰いてえもの。見たら直ぐとっ捕まえて言いに行くが、誰も見ちゃいねえよ。」


誰も見た者が居ないのは、夜更けにこっそりと城を抜け出たからという事も考えられるが、その後全く目撃されていないというのも、少々不可解な話だ。


一人で城を飛び出し、馴染みのある土地で準備もせず、他国へ出たという事なのだろうか。


「隣国ではどうなんだろうな。やはり見たって人間は居ないのかな。」


薬の行商をしているという男が答えた。


「梨の礫だ。だーれも見てねえってよ。俺も、100金貨あったら、店構えて商売できっからさ。行商のついでに探し回って聞いて回ったりしてみたが、見かけた奴なんざいやしねえ。」


「それは妙だな。人間の足、まあ、馬だとしても、一晩の内に移動出来る距離は限られている。」


「んな事あ、知らねえよ。隣のワイバーン国、その向こうのフェンリル国まで聞いて回ったけど、誰も見て無えっつーんだもの。」


アーヴァンク国は、地続きなのはワイバーン国だけで、後は全て海に囲まれている。

城を抜け出し、直ぐに港から船に乗ったという事も考えられるが、例のウロボロス島が中身の大蛇が無くなったため、地盤が一気に下がったせいか、海流が変わり、小舟では直ぐに沈没してしまう荒れ狂う海になっている。


従って、大きな船で無ければ、海に出られないが、そういう大きな船に王子が乗ったとすれば、直ぐにバレるはずだ。

だが、そんな報告も無い様だから、多分、船には乗って居ない。


「大体よお、王子は、この国に居たら直ぐ分かるんだよ。羽が無えからさ。」


「ーそうなのか。」


アーヴァンク国の人達は、20歳を過ぎると、羽が生えるのだそうだ。酷い痛みと熱で三日三晩苦しむそうで、耐えきれず、亡くなる者も多いと聞く。


だから、アレックスが会った王子の子供時代には、羽は生えて居なかった。


行商人は、自分の白い羽を自慢げに撫でながら言った。


「いくら、寿命が短くなるとか、羽が生えるときに死ぬ奴が居るから、国民が少なくなっちまうって言われてもさ。やっぱり、この羽は俺達アーヴァンク国民の誇りなんだよ。王女様方全員、羽生えてんのに、次の王様の王子には無えってえのはさ…。俺達国民にとっちゃ、寂しいんだよな。竜国との友好の証。混血の象徴なんて意図はあるみてえだけどもさ。」


肉屋の男も同様に、自分の羽を愛しそうに撫でた。


「そうそう。いくら王様がそうおっしゃっても、俺は、娘が例え竜国の騎士様連れてきたって結婚には反対だ。農民でもいいから、羽の生えたアーヴァンク国民じゃなきゃな。」


竜国の騎士は、アーヴァンク国では、かなりの人気らしいが、それでも、羽の生えた男には敵わない様だ。

それほどに、アーヴァンク国民にとって、羽は大切なアイデンティティーなのだろう。


その羽の無い王子。


いくら新しい王国の方針の象徴という使命を背負っていたとしても、国民の認識が変わって居ない以上、国王として即位した所で、威厳は保てないし、民はついてこないかもしれない。

自信を無くし、失踪したとしても、不思議では無いが、それにしても、失踪経路が全くの謎だ。


当初、アレックスは、王子に羽があると思っていたから、どこにも目撃情報が無いという話を聞いている内に、飛んで行ったのかと考えた。

だが、羽が生えていないのなら、それは不可能だ。


アーヴァンクは、皆に羽があり、自由に空を飛べるので、大鷹の様な飛行動物も飼って居ない。


アーヴァンク国王と女王には、縁戚という事で、恐らく会える。


明日の朝話を聞きに行こうと決め、アレックスはラグナに乗って山に戻り、大鷹のイリイと共に休んだ。


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