冒険は続く
アレックスは、マリアンヌと共に、彦三郎の家に招かれていた。
「ほら!どうだ、アの字!欄間も襖も脇息もあるだろう!」
「ああ、本当だ。でも、殿様のところの襖の絵の方が見事だったな。」
「それを言うでないわ。殿の大広間の襖は、有名な絵師の手によるものだ。」
不貞腐れてしまったので、マリアンヌが慌てて褒めた。
「でも、こちらの襖の絵も、私は好きですわ。水墨画と言うんでしたっけ?渋くていい感じです。」
「うん!マの字はわかっておるな!」
アーヴァンクは、羽根のない者を捨ててきた罪悪感からか、アンソニーの怨霊脅しが効いて、ワイバーンと1つの国家となり、何とか仲良くやりだしている。
両国を隔てていた森も、怨みの花を根絶やしに焼いたせいか、突然開け、明るくなり、行き来もしやすくなった様だ。
「お手柄であったのう、アの字。我が殿が褒めまくっておるぞ。世界の王に相応しいとな。」
「勘弁してくれ。世界の王だなんて。俺はこのままがいい。金も山程入ったし、暫く働かずに済むしな。」
「貴様はまだ懲りんのか!大鷹が飢えて危うく牛を襲いそうになったのだろう!?」
「そこまで無くなるまで働かないってのは、止めるよ。」
「全く…。マの字、こんな男でいいのか。」
呆れ顔の彦三郎がマリアンヌを見つめたが、マリアンヌはにっこり笑うだけだ。
「はい。私は幸せです。」
アレックスとマリアンヌは微笑み合うと、立ち上がった。
「招待ありがとう。また来るよ。」
「なんだ、もう帰るのか。飯は食って行かんのか。」
「今日はマリーを連れて、旅行に行くつもりなんだ。」
「ほう。どこへ?」
アレックスはニヤリと笑い、庭に出て、口笛を吹いてイリイを呼んだ。
そして、マントを翻し、マリアンヌを抱きかかえ、イリイに乗った。
「秘密だ。帰って来たら教えるよ。」
飛び去って行ってしまったアレックスを見送りながら、首を傾げる彦三郎の横に、お腹の大きくなった奥方が立った。
「あら、もうお帰りに?」
「うむ。旅行と申しておったが、あれは半分仕事だな。」
「あら。そうなんですか。」
「まあ、大剣はいつも手入れをしているから、いいとしても、ボウガンまで持ってる上、あのボウガンの矢には、痺れ薬が塗ってある様だ。かなり慎重に準備せねばならん所へ行く様だな。」
「奥様連れでですか?珍しいですわね。」
「女房連れでないと入れぬ所なのかもしれぬな。」
「そんなお仕事があるんですか。」
「あるにはある…が、かなり恐ろしい仕事だ。確かに誰も引き受けん。」
「まあ…。心配ですわね…。」
「うむ…。」
暫く奥方と共に心配そうに空を見上げていた彦三郎であったが、突然笑った。
「まあ、アの字だ。何と言っても、アレキサンダー王の生まれ変わり。神聖な大鷹に選ばれし男だからな。なんとかやるだろう。」
「そうですわね。」
奥方も安心した様に微笑み、台所に引っ込んだ。
「何か困ったら言えよ、アの字。」
彦三郎も空に向かって呟いてから席を立った。
おしまい




