竜国では…
「陛下、またでございます。」
竜国国王であるアデルの下に、ダリルが深刻な顔で告げに来た。
「我が国か。」
「いいえ。ペガサス国の南東の小さな町でございます。」
アデルは地図を広げ、新たなバツ印を付け、ダリルとアンソニーと共に、地図を睨みつけるかのように見た。
「場所に法則性は見て取れ無いな…。
1番最初は我が国の北東の小さな村。
次が麒麟国の北東。
今回のペガサス国…。
どれも小さく、国境の小さな村や町。
然も一晩で、住民が消え去り、草木まで枯れるとは。
一体、どういう事だ。アンソニー、黒魔法か?」
魔導師のアンソニーが、深刻な面持ちで、首を横に振った。
「いいえ。斯様な魔法は聞いた事がございませぬ。古代の文献を全て当たり、父や他の魔導師にも聞きましたし、ジュノーにも聞きましたが、そんな魔法はこの世には無いと。」
「では、軍隊が…と考えても、この様な技…。いくら小さな町とはいえ、住民は50人は下らない。それを一晩で移動だなどというのは、人間には出来ぬ…。
我が国の消えた村の調べはどうなっておる。」
ダリルが答えた。
「我が国と申しましても、大鷹を飛ばしても3日かかる場所。また、生き残りもおりませぬ故、相当難儀しておる由。しばしご猶予を。」
「ーうん…。しかし、この7日余りの間に、既に3つだ。あまりのんびりともやって居れぬぞ。」
「は。」
ダリルが出て行くと、入れ違いに、拙い足取りでフィリップが入って来た。
その後をエリザベスが慌てて追いかけて来る。
「フィリップ!駄目ですよ!?父上はお仕事中です!」
アデルは笑いながらフィリップを抱き上げた。
「構わん。」
約束通り、またアデルの所に生まれて来たフィリップは、そろそろ1歳になろうとしていた。
「おじしゃま、来ないのですか。」
おじしゃまとは、叔父様、即ち、アレックスの事だ。
「どうだろうなあ。そろそろ仕事しないとならないんじゃないか。ここへ遊びに来ている訳にも行かないだろう。」
アレックスは、ウロボロスの一件から2年近く、仕事もせず、アデルからの小遣いも受け取らずにいた。
何せ大鷹というのは、よく食べる。しかも生肉しか食べないから、イリイとミリイにカレンの大フクロウまでとなると、相当な食費だ。
この間のウロボロスの一件でいくら稼いだとはいえ、もうそろそろなくなっているはずである。
今までのようにここへ来て、マリアンヌと2人してフィリップと遊んでいるという暇は無いはずだった。
アデルの机の上を見ていたエリザベスが、悲しそうな顔になっている。
「どうした?」
「また消えた村が出たのですね。おいたわしい事です。」
「全くだ。」
エリザベスは、アデルの顔を心配そうに見つめた。
「相変わらず、何も分からないのですね…。」
「そうなんだ。目的すら分からない。」
「ーアレックス殿に頼まれてみては?」
「それも考えたんだが、魔法でも無いとなると、いきなり近付いたら、アレックスまで消えてしまうのではと考えるとな…。」
エリザベスは、くすっと笑い、からかう様な目でアデルを見た。
「相変わらず、過保護なお兄様です事。」
アデルは咳払いをすると、フィリップと遊び始めてしまった。