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怨みの花  作者: 桐生初
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さよならレーベン

レーベンを連れ、その後も、町の人の暮らしを見て回っていたアレックスは、空からのただならぬ殺気を感じ、町から一気に、消えた村まで走り出した。

レーベンも空を見上げ、その理由が分かった。

ワイバーンの空飛ぶ船が出力最大で2人を追って来ている。


「アレックス、私を引き渡せ。」


「お前はもう怨みの花人間では無い。八つ当たり的に殺されるだけだ。」


「構わない。ここであいつらに襲われたら、いくらアレックスが強くても、無傷では済まない。」


船は近づき、矢の雨が降って来た。

アレックスが大剣で全て払うと、今度は見た事も無い様な、動くノコギリを持った兵隊が大挙して降りて来た。


「なんだありゃ。」


「あれは、力を入れなくても、大木でも一気に切れてしまうノコギリだ!」


電動で動いているらしく、ウイーンという機械音がしている。


「はあ…。なんて情緒の無い。」


「アレックス!?そんな事を言ってる場合では…。」


アレックスは馬から飛び降りるなり、電動ノコギリを持った兵の手を、下から浚う様に、まとめて5人分斬り落とした。

叫び声を上げて、のたうち回る兵を介抱する様子も無く、他のノコギリ部隊が一斉にアレックスに襲い掛かって来た。レーベンを庇いながら、10人を相手にするのは、流石のアレックスでも苦労した。


残り1人となり、一瞬背中に注意を払うのを忘れてしまった時だった。


船に残っていた兵が放った矢を見逃してしまった。


「アレックス!」


レーベンが叫び、最後の1人を真っ二つにした時には、レーベンがアレックスをかばって、矢を受けていた。


「レーベン!」


アレックスがレーベンを抱きかかえた時、彦三郎達が馬で駆け付け、船の中の人間を矢で攻撃し、船はドスンと、何も無くなった村に落ちた。


「レーベン…。」


レーベンが受けた矢は、左胸に刺さっていた。


「アレックス…。無事か…。」


「ああ…。」


レーベンは満足そうに微笑み、アレックスの手を握った。


「ありがとう、アレックス…。私はずっと、羽根の無い事を恥じ、それしか考えて来なかった。

父上が羽根の無い王子が必要だと仰る意味も分からなかった。

でも、今日こうして、普通の人の暮らしを見て、分かった気がする…。

羽根が有る無しで人間の価値が決まるなんて、小さいアーヴァンクだけの事なんだ。

みんな羽根が無くたって、貧しくたって、精一杯生きている。

それを守るのが、上に立つ者の役目なんだな…。

それが一番大切な事なんだ。

その罪も無い人達を、私は羽根欲しさに殺してしまった。

本当に愚かだった。

きちんと裁かれるべきなのだが、もうダメな様だから…。」


「レーベン…。」


「教えてくれてありがとう、アレックス…。アーヴァンクを正してくれ…。」


レーベンの身体の力が抜けた。

その死に顔は、満足そうに微笑んだままだった。




アレックスは、レーベンをあの棺桶に入れ、イリイでアーヴァンクに向かった。


レーベンの亡骸を見て、国王と王妃は泣いていた。

死に際の様子やレーベンの最後の言葉を伝えると、更に泣いた。

やはり、殺してくれと依頼してきても、我が子なのだと、アレックスの心も少し和らぐ。


「レーベンには、もう少し生きて、この国とワイバーンを変える手伝いをして貰いたかったのですが、それも叶わない。私達だけでやり遂げなくてはなりません。」


「ーどうすればいいのだ、アレックス…。」


国王が手袋をした手をさすりながら、すがる様な目で、アレックスを見つめた。


「先ずは、今回の一件、全て隠し立てせず、国民にお話しになる事です。そのお手の事も、全て。」


国王はハッとなって、手を隠した。


「レーベンが誤って、一部を灰にしてしまったのでしょう。」


「そうなのだ…。」


国王は、手袋を外し、アレックスに見せた。

その手は、薬指と小指が無くなっていた。


「あの時、然るべき措置を講じるべきだった。だが、国民が我が国でタブーとなっている全てを灰にしてしまう病にレーベンがかかっていると知ったら、ただでさえ、羽根の無い王子と忌み嫌っているレーベンを更に嫌い、殺せと暴動が起きるかもしれないと隠してしまった。その挙句の出来事だ。罪は全て私にある。」


「ならば、いざとなれば、国王を退くご覚悟もあると?」


「うむ…。それで肩がつくのであれば…。」


「いつまでも過去の怨みを抱えて、全てに対して攻撃的なワイバーンも問題ですが、レーベンも言った通り、この国の羽根の有る無しで人間の価値を決めつける風潮もどうかしている。ここは、陸地ではワイバーンとしか繋がっていない。だからこその偏見でしょう。つまり、ワイバーンとアーヴァンクが一つの国だった時の状態に戻せばいいのです。」


「ワイバーンにこの国を明け渡せと?」


「それだけでは上手く行かない。ワイバーンにも問題が山積しています。対等に合併し、その上で、どちらが国王になるかを決めればいい。」


「しかし、ワイバーンはうんとは言わぬであろう?国の大きさから言っても、ワイバーンの方が今は我が国の何倍もある。」


「ワイバーンが強引に接収した国は元に戻させます。そうすれば、国の大きさは同じ。ワイバーンの土地は痩せているから、アーヴァンクに頼らねばならぬ部分も大きい。対等になれます。」


「しかし、あのワイバーンだぞ…。そんな事を受け入れるのだろうか…。」


アレックスはニヤリと笑った。


「まあ、やってみなけりゃ分からない。少々揉めるかもしれませんが。」




「ワイバーンに乗り込むってえ?」


帰るなり、殿様に告げると、殿様は笑いながら首を捻った。


「如何にも竜国人のお前さんが行ったら、それだけで 敵扱いだ。段取りつけてやるのは構わねえが、いかんせん危なかねえか。」


殿様の隣で脇息にもたれていたエミールが笑っている。


「ワシも行ったが、こうしてこの年まで生きておる。心配無いわ。」


「あの絵本、本当だったのかい。流石だな、元国王。しかし、ワイバーン国王は一度会ったが、なんともなあ…。」


「ワシは今の国王には会った事が無いが。」


「あなたが脅して大人しくさせたのは、前国王だよな?あれはまだマシだったと、俺の親父も言ってた。今の国王になってからだろ。手荒な真似して、小国を次々に制圧して行ったのは。」


「そうじゃな。麒麟殿は、会った事があるのか。」


「一度な。我が国には手出ししない、その代わり、ワイバーン人も平等に商いさせるという条件と、竜国の後ろ盾で、なんとか占領は免れたが、あの国王…。人間とは思えねえような邪悪な面してやがったぜ。」


「邪悪な面ですか…。まあ、一度拝んでみますよ。話が通じないなら、話さなきゃいい。」


殿様は、エミールを見つめてニヤニヤと笑った。


「似た者親子なんですなあ。」


エミールは妙な高笑いをし、誤魔化していた。








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