貧乏は嫌…by イリイ
その頃、アンソニー達は途方に暮れていた。
アーヴァンク国に、アレックスを追いかけて行ったものの、もう居ない。
気配を探ろうにも、猛スピードで、麒麟国の方へ戻っているようだが、その後が分からない。
ダリルの大鷹は、イリイの旦那だから、イリイの居所を聞いてみたが、麒麟国からは離れている様で、分からない様子だ。
「はああ、困ったな…。」
ダリルの呟きに、アンソニーがのほほんと答えた。
「我ら、アレックス様に、追いかけっこやかくれんぼで、勝った事は無いからなあ。」
「アンソニー!そんな呑気な事を言ってる場合か!」
「まあ、そう怒るな、ダリル。その内分かる。しばし待て。」
アンソニーは笑いながら、手を広げ、空中を探る様な手付きで、アレックスを探し始めた。
また、彦三郎は、麒麟国の消えた村で、まだ調べを進めていた。
茶屋で、団子とお茶の休憩をとっていると、いきなり真ん前にイリイが降り立ち、茶屋の娘が吃驚して仰け反ってしまった。
「大事無い。知り合いの大鷹だ。」
「は、はあ…。お侍さん、竜国人に知り合いがいらっしゃるだか…。」
「ああ。」
彦三郎は、イリイがズイと出した左足を見た。
手紙が結んである。
「おお。アの字からの文を届けてくれたのか。すまぬな。」
読むと、アレックスが分かった事全てが書いてあった。
「ふむふむ。流石アの字。成る程な。下手人は女装した王子の線が濃厚と…。確かにな。」
そして、捕獲に彦三郎の手を借りたいと書いてあった。
「ボの字では役に立たぬであろう。捕獲となれば、老中の報奨金も上乗せされるであろうし、手伝いに行くか…。ん?」
イリイが必死な目で、彦三郎を見つめている。
なんだか涙ぐんでいる様に見えない事も無い。
「どうしたのだ、大鷹よ…。」
手紙の最後を読んで、彦三郎は、情けなさそうに、頭を抱えてしまった。
イリイに肉を食わせてくれと書いてあるのだ。
ー1キロ位でいいから…。
賞金が入ったら返すとある。
「アの字…。大鷹の餌代に事欠くほど遊び呆けておったのか…。マの字と夫婦になってから、変わったものだのう。仕方ない。大鷹よ、ここで暫く待っておるのだぞ。」
彦三郎は林に入ると、目を閉じ、刀の鞘に差し込んである小柄というペーパーナイフの様な物を手に取ると、暫くして、何も無い所に素早く投げた。
ギャッという様な声がした方向へ、刀を抜きながらすかさず走る。
その先には、猪が暴れながら走っている。
今度は猪目掛けて、刀を投げ、猪の頭に命中。
ドスンと倒れた猪を引き摺って、さっきの茶屋にとって返すと、茶屋の親父に頼んだ。
「ある程度食って構わんから、捌いてやってくれぬか。」
親父は驚きながらも喜び、捌いた1番肉を彦三郎に渡した。
彦三郎が、イリイにやると、やけに美味そうに食べている。
切なくなりながら、アレックスに返事を書く彦三郎は、返事の文末に、思わず書いてしまった。
ーアの字…、もそっとマメに働け…。
満腹の為、ご機嫌で戻って来たイリイを見て、彦三郎の手紙を読んだアレックスが、イリイに平謝りに謝ったのは言うまでもない。