-INTERVENTION- 介入行動 3
中世/オルレアン郊外/ヴィンセント
ヴォルールの放った矢は街の外れで円陣を組むフレアデリスのうち一機に命中し、その頭部を大きく凹ませた。恐らく中の魔導兵はバイザーの内壁に圧迫され、骸となった筈だ――残るはあと三機。
「命中! 敵フレアデリス、一機沈黙!」
少し遅れてメルの報告が入る。
「メル、後続に攻撃開始の合図!」
ヴィンセントはそう指図すると、望遠鏡を手放し、バイザーを閉じた。操縦室に闇が訪れ、スリットから差す僅かな光がヴィンセントの瞳を照らす。
間も無く木々の合間からヴォルールが躍り出た。その後方から二機のドライグと、ドーンスターの歩兵、騎兵戦力が追従する。
「しかし、あの火球の墜落した方向に来てみたらフランスの別働隊を見つけるなんて、思いもしなかったな」
「だから言ったじゃない。火球は不吉の前兆なんだってば」手旗を振り、後続へと合図しながらメルが答える。
「不吉? まるで俺達が負けるみたいな言い方じゃねえか」ヴィンセントは鼻で笑った。「見ていろ、メル」
矢の再装填を終えたヴォルールが、再び弩を掲げた。メルが座席に座ったのを確認してから、ヴィンセントは操縦桿を操作――間もなく第二射が空を切り、ようやく立ち上がり弩の装填を始めたフレアデリスのうち、最前列に居た一機の胸部に突き刺さる。
ヴォルールの脇から一機のドライグが躍り出ると、同機を抜かし、前面へと駆けてゆく――ホランだ。接近戦を好むホランはドライグの背部装甲を極限まで削り、弩を小型の物に変更する事で、同機の機動力を底上げしている。
二機のフレアデリスが弩を構えた。だが、そのうち一機はホランのドライグが放った矢が右肩部に命中した事で――致命傷にはならなかったものの――矢を明後日の方向へと放ってしまう。
もう一機は矢を放ち、それはホランのドライグに真っ直ぐ向かったものの、同機が膝をつく形で停止して掲げられた盾によって弾かれ、空しく地面に落ちた。
ホランのドライグは既に立ち上がり、手にした弩を捨て、モーニングスターを構えていた。そして全速で体勢を崩したままのフレアデリスに駆け込み、胸部に渾身の一撃を叩き込むと同機を転倒させた。
その頃にはヴォルールも村の外れまで到着し、数秒で敵フレアデリスの所まで到達出来る距離まで達していた。しかし、後方のドライグ――オードリーの機体から放たれた一筋の矢が最後に残ったフレアデリスの装甲を貫いたことで、ヴォルールの仕事はなくなった。
「敵戦争機械、全て沈黙!」メルが叫ぶと、後方に合図を飛ばす。「残りの歩兵はどうすんの?」
「普段通り、歩兵の掃討はマクダネルに任せる」
ヴォルールの側を、歩兵と騎兵が追い抜いていった。沈黙するフレアデリスの周囲に蠢く人影が、まだ抵抗勢力がいることを示している。
「で、俺達は――」
ヴィンセントはそこでようやく、自分達が倒した四機のフレアデリスの中央で頭を垂れたまま沈黙する、目当ての品――異形の戦争機械に気付いた。
「お頭! こいつが例の、戦争機械ですかね?」
ホランがドライグのバイザーを開くと、疑問を口にした。
「答えの分かる質問をすんなーーそうだ」
バイザーを開いたヴィンセントはホランのドライグの横に並ぶと、その戦争機械を望遠鏡で覗き見た。
白銀の装甲は夕日を受けて艶光りしている。現存する戦争機械――イングランド、フランス、どちらの国の意匠も見受けられない。
改めて見ると、恐ろしい程華奢だ。そして角張った外見により、初見では宗教的な意味合いを含む像かと勘違いしてしまいそうだ。
いや、そもそも本当にこれは戦争機械だろうか? 空から降ってきたのは見たが、そもそも空から火球として降ってきたのはただの像で、ヴィンセントを始めとして、皆が戦争機械と錯覚しているのではないだろうか?
同機の最大の外見的特徴――下半身から突き出した四本の脚部を改めて確認し、ヴィンセントはその疑いをますます強めてしまった。
蜘蛛の様だ、と改めてヴィンセントは思った。四方に飛び出した脚部は人間と同じ、膝と思われる関節部分はあるものの、それらが蜘蛛の脚の様な形で四方へと伸び、屈折し、鳥類のそれを思わせる足部を地面へと接地させている。
胴体部分も剣の一振りで簡単に折れるのではないかと思うほど華奢だ。しかしその針金細工のような胴体が、奇跡的に上部に紐付く盛り上がった両肩と両腕、そして頭部を支えている。
美しい――これまで目にしたどんな宝石よりも、どんな武具よりも、どんな戦争機械よりも――その像は淡い光沢を放ち、村と森とを隔てる空間に佇んでいる。まるで神聖な場所を静かに守る、聖なる天使のように。
ーーこれほどまでに美しい戦争機械がこの世に存在するだろうか?
名前の通り、戦争機械が主に用いられるのは宮廷行事でもなく、農作業でもない。戦争だ。戦争で敵兵の命を消し飛ばす為にこの武具は用いられる。
敵を殺す武具に凝った意匠は不必要だ。もっとも貴族や騎士は権力を誇示する為に戦争機械に装飾を加える傾向にはあるが、それらは実戦では何の意味もないか、あるいは命取りとなる直接の原因となるかのどちらかだ。
「所属を示す明確な紋章は描かれていないようです、お頭」ホランのドライグは近寄ると、そうヴィンセントに伝えた。「そもそもこれ、本当に戦争機械ですかい? 俺はこんな形のを見たことがねえもんで」
ヴィンセントの中ではほぼ結論付いていたーーこんなに美しく、かつ実戦的とは思えない形状のものが、戦争機械である筈はない、と。
「あれを見て」
脇から身を乗り出したメルが一点を指差す。その方角には、自分達が倒した四機とは別の、一機のフレアデリスが倒れていた。
「――俺達が倒した奴じゃねえな」
腹部に剣を突き刺されており、もう動く事はないだろう。頭部のバイザーが開かれているので、搭乗していた魔導兵は脱出したようだ。
「まさか、こいつが?」
視線が再び眼前の異形へと向けられた。
よく見ると、肩部に幾つかの真新しい傷が見受けられる。
単なる経年劣化や摩耗では、これほどの傷は付かないーー戦闘でついた傷であることは間違いない。
「この機体は寸前までフレアデリスと戦っていたというのか?」
「そうだと思う。傷や倒れ方を見る限りね」ヴィンセントの問いに、メルが答えた。
「私が知る限り、既存の戦争機械とは明らかに一線を画しているわーー特に、この脚部。多分蜘蛛みたいに四本の脚を動かして、這う様に移動するんだろうけど。脚が増えるって事は、それだけ複雑な動きが要求されるということ――内部構造に合わせて魔導技師が装甲と武器を作成するのでさえ骨が折れるというのに、こんな手の折れる物を作るなんて」
戦場に戦争機械が現れ始めたのはそう昔の話ではない――ここ一、二年の話だ。尤も、ヴィンセントが目撃するよりも数ヶ月前から、既にイングランド側が鋼鉄の巨人を戦場に持ち込み、フランスが占領していた砦や城の奪取に一役買っているという噂こそ聞いてはいたが。
戦争機械は外部装甲こそ各勢力の意匠をふんだんに盛り込み、プレートアーマーのような鋼鉄の鎧を纏う。だが、戦争機械が実際どういった仕組みで動いているかについては、全くと言って良いほど情報が出ていなかった――破壊された戦争機械の残骸に目を通しても、内部の構造についてはどの部品がどのような働きをするかについては各国の魔導技師でさえほぼ理解できていない。
結果として現在ヨーロッパ地方における全ての戦争機械は、イングランド、フランス、両国の生産拠点で生産された物であり、それ以外の場所で新たにこれらの巨人が産声を上げることは有り得ないそうだ。
魔導技師の仕事は、内部フレームのみの状態で生産拠点から送られてきた手足のない、骸骨のように貧相な状態の胴体部分に外部装甲を圧着し、武装を加えることだ。噂によれば製造工程を専門に扱う騎士団をどちらの国も保有しているらしいが――内部フレームの開発、そしてそのさらに内部の駆動部分に関しては、どこの生産拠点で一体誰が、どのような作業を行い製作しているのかさえ分からない。




