月光竜
狭い通路にたちこめる煙。砂混じりの分厚い煙幕の中には、脛鎧となったムカデに運ばれる幻雷迅が。
右腕はサメの背ビレ。
左腕には亀の甲。
そしてサルの額当ての混沌とした姿を煙に隠して走る鵺の忍。
数撃てば当たるとでも思ってか、煙の中に打ち込まれる大量の狙いの甘い矢。
それを幻雷迅はセンミンの甲羅で逸らして、張り巡らされた糸の罠の間を壁走りにすり抜ける。
合わせて砂の分身を、わざと糸の罠に引っかけて矢の狙いもかく乱しておくことも忘れない。
分身を引っかけた糸をめがけて飛ぶ矢。
見当違いの場所を正確に狙うそれをしり目に、幻雷迅はあお向けに煙幕の内を駆け抜ける。
そして走り抜けた通路の先。煙りに浮かぶアラクネとフクロウの影。
慌てて構えた矢の向きを変えるフクロウの人形。
だがとっさのことで狙いも甘いまま放たれた矢を、幻雷迅はやすやすと盾で弾く。
煙幕の中に硬質な響きが残る中、弾いた勢いのまま滑り込んで盾の縁を叩き入れる。
回転を加えた盾の一撃は、陶器のようなフクロウのボディをやすやすと割り砕いて真っ二つに。
上半身と下半身で泣き別れになったそれに一瞥もせず、幻雷迅は足甲のムカデ足で高速旋回。投げつけられた蜘蛛糸の網を背ビレの刃で真っ向から切断。
さらにその勢いを緩めるどころか逆に加速。独楽のように回転しながら奥に構えるアラクネ人形を目掛けて突撃する。
煙と砂を渦巻かせる旋風。
その中心点とすれ違ったアラクネ人形は、濃密な煙の中堅い足音を鳴らして振り返る。
しかし何のダメージも受けていないかのようなその動きの直後、硬質なその体の上半分が滑り落ちる。
ガラスの割れるような音を響かせ崩れるアラクネ人形。
それをよそに幻雷迅は両手足を広げ、回転をブレーキ。崩れた二体の残骸を背にした形で制止する。
直後、幻雷迅は砂分身をこの場に残して左へ。
鵺忍が横っ飛びに逃れるとほぼ同時。煙幕を破って降った拳が砂の分身を押し潰す。
硬質な巨拳は果たして、トカゲ人形であるアラタのそれ。
確かに倒したにも関わらず、もう復活して追いかけて来た拳の持ち主。
復活の事実とスピードに、幻雷迅は内心舌を巻きつつも体を反転させる。
手応えの違いを認識する間も与えず、鰐鮫の一太刀で手首を切断。
さらに間髪入れずに足鎧のムカデ足で巨体の足元に滑り込み、組みつく。
そこから無数のムカデ足の蹴りによる、絶え間ない心命力の注ぎ込み。
蹴りの連打にアラタの足は脛から削り砕けてバランスを崩す。
支えを失い倒れていくアラタの巨体は、削れ割れた足の傷口から広がる赤い光に呑まれて消えていく。
「……ったく! キリが無いッ!」
復活した端から潰したそれを一瞥し、忌々しげに吐き捨てる。
『孝志郎! 裕香嬢ちゃんの気配を見つけたぞ!』
「エッジか!? よくやった!!」
そこで右腕の鰐鮫から上がる報告に、一も二も無く飛び付く。
手早く決着を付けるための、出し惜しみなしの混沌態。
全力を注ぐその性質上、どうしても時間は限られて勝負を急ぐしかない。
そんな中でエッジからもたらされた知らせは、まさに幻雷迅にとって起死回生の光明という他ない。
『こっちだ! 気配はこっちからする!』
「ああ、わかった!」
右腕ごと引っ張るような鰐鮫からの導き。
幻雷迅はそれを受けて、足鎧に備わるムカデ足を走らせる。
入り組んだ通路から迷い無く正解の道を選び取り進む幻雷迅。
やがて煙幕の中心点は広々とした空間に辿りつく。
軽く腰を浮かした正座の姿勢で、煙を振り切りつつブレーキ。
煙を払って完全制止する幻雷迅。
その正面には艶めいた白い蜘蛛糸に縛られた裕香が吊るされて。
「裕ねえ!」
囚われた恋人にすぐ見て分かるような傷は無い。
だが縛られ捕まえられた思い人の姿に、幻雷迅は堪らず跳ぶ。
『いかん、孝志郎! あれは餌だ!』
額当てのヨナキからの警告。
その通りに、幻雷迅の体を四方から飛んできた糸が絡め取る。
忍の両手足を縛る蜘蛛糸。
それに続いて宙に固定された的を目掛けて風切る矢が襲いかかる
「そんなのは!」
だが幻雷迅は仲間たちの力を受けた四肢に力をこめて、たちまちに糸をひきちぎる。
「言われなくたって!」
そして飛来する矢を、額当てに触れる直前に指二本でキャッチ。
『うぉおいッ!?』
ヨナキの上擦った声を皆まで聞くことなく、矢じりを反転。射手のいる方向へと投げて返す。
矢を受けてぐらつくフクロウのシルエット。
それを視界の隅に認めて、幻雷迅は手のひらに固めた雷手裏剣を四方へ。
雷手裏剣は再びの蜘蛛の糸とぶつかり合い消滅。
そうして作った間隙に、幻雷迅は裕香を取り戻すため再度前へ。
しかしそんな幻雷迅の目の前に素早く割り込む影が一つ。
「ぐあッ!?」
割り込みと同時の斬撃。
センミンの盾を割り込ませる間もないその一撃に、幻雷迅は大きく後ろに吹き飛ばされる。
受け身を取り、吹き飛ばされた勢いを殺して起き上がる幻雷迅。
切られた胸を抑えながら起き上がる鵺の忍。
同時にその頭上にさしかかる影。
幻雷迅はそれにとっさに左腕の盾をかざす。
振ってきた巨拳が盾とぶつかり合い、止まる。
「ぐ……ぐぐ……ッ!?」
しかしそれは、盾を屋根に幻雷迅が柱と支えているからこそ。
この拮抗を生んでいるのは、幻雷迅の全身全霊を込めての押し返しなのである。
動こうとすれば潰され、跳ね返すには力が足りない。
完全な膠着状態に持ち込まれた幻雷迅は、それでもなお力を振り絞ってアラタの拳を持ち上げ続ける。
『ようやく捕まえられたよ。手こずらせてくれたものだね』
そこへのんびりとした高い声が投げ掛けられる。
幻雷迅がきしむ体に歯を食いしばって目を向ければ、そこには刀を二振り左右それぞれに握った少女が。
肩の下にまで届く黒髪。
背が低く、華奢な体。
そして目が大きく、小動物然とした愛らしい顔立ち。
「望月? 望月なのか?」
その両腕は陶器人形ような小手に包まれ、刀を二刀流に携えて。表情も見たことの無い嘲るような笑みに歪んでいる。
しかしそうした違いはあっても、幻雷迅の目の前に現れたのは間違いなく望月つかさ本人であった。
「え? その声……?」
幻雷迅に名を呼ばれたつかさは、余裕を帯びた笑みを驚愕一面に塗り替える。
しかしそれも瞬く間のこと。
幻雷迅が続けて言葉を投げかけるよりも早く、つかさの顔は嘲笑に歪む。
『なるほど。そう言うこと……これは思っていた以上におもしろいことになりそうだね』
そう言ってクックッと喉を鳴らすつかさ。
やはりその所作、その言葉に普段学校で見る彼女の面影は無い。
『孝志郎……コイツは! コイツが!』
「ああ、望月をしゃべらせてる幻想種がいる!」
少女が放つ気配から悟って、額当てのヨナキが声を。
それに幻雷迅もまた、つかさの様子から見切った状況を口にする。
『しゃべらせてるだなんて人聞きの悪い……これは正当な契約に基づいた権利だよ』
喉を鳴らしてそう言うつかさ、否、その体を乗っ取っている幻想種。
対する幻雷迅はかかり続ける重圧に踏ん張りながら、つかさの奥に潜んだ幻想種をにらむ。
「だまれ! それも契約に抜け穴を作ってやった事だろうがッ!」
何も知らぬ無知なる者。それを食い物にして利用する悪らつさへの怒り。
しかしその煮えたぎる怒気をぶつけられても、つかさに現れた表情は涼しいもの。
『よくないなぁ、決めつけは』
幻雷迅の断定を批判しながら。しかしその表情と足取りは悠々と、幻想種に操られたつかさは裕香へ歩み寄る。
『それに、君は自分の立ち位置もきちんと理解した法がいい』
そしてその手に持った反り身の刃を、糸に吊るされた裕香に突きつける。
「よせッ! やめろッ!?」
愛しい恋人に向けられた刀に、幻雷迅は動揺も露に叫ぶ。
対するつかさに潜む幻想種は、口元をニンマリと歪めさせて、無言のまま裕香に突きつけたのとは逆の手を耳に添えさせる。
「……止めて、ください! ……お願いしますッ!」
無言での言い直しの強要。
それに幻雷迅は屈辱を噛み殺しながらも、丁寧な言葉を選んで裕香の助命を願う。
『孝志郎……』
相棒の内心を。
囚われた恋しい人を前に、その命を救うため卑劣な敵に頭を下げるしかない自分への憤りを。
それを流れ込んでくる心命力から感じ取って、ヨナキは契約者の名をつぶやく。
『ハッハハハハハッ! 我が契約者の思い人に、そうまでお願いされたら聞いて上げたくなってしまうねぇ!』
そんな幻雷迅の懇願を、つかさに潜む幻想種は上機嫌に笑い飛ばす。
『だがダメだね。これは我が契約者が心から発した願いだ。この女の抹殺は譲れないね』
「なにをッ!?」
しかし変わりなく裕香に刀を突きつけての言葉に、幻雷迅は拳の下で声を上げる。
「裕ねえを殺す事が願いだなんて、ウソをつくな! 望月がそんな、そんなことを……!」
『ところがどっこい。これがウソ偽りゼロの真実なんだよねぇ』
つかさの裕香への殺意。それをウソだと否定する幻雷迅だが、つかさに潜む幻想種が他ならぬ彼女自身の口で、真実だと一蹴する。
『我が契約者がお前をどう思ってるかは知ってるだろ? で、その恋心を独占する他の女がいたら? そりゃあ殺したくなるくらい嫉妬するさッ!』
「ぐ!?」
嫉妬心が生んだ暴走。自分自身の過去の過ちでそれを知るがゆえに、幻雷迅は言葉につまる。
『契約者の心ならある意味契約者以上に詳しくなれる。それはそっちもよく知ってるよな、ジャパニーズ・キマイラ?』
『うぐ……!? だが、お前がウソを言っていない証拠にはならんぞ!!』
同じ幻想種として引き合いに出されて戸惑うも、額当てのヨナキは真実の証明にはならないと返す。
『そうかいそうかい。ま、信じる信じないはそっちの勝手さ』
それにつかさに隠れた幻想種はあっさりと認めて引き下がる。
『だが……お前の男友達まで排除しようとした、つかさの依存っぷりを知っててもそう言えるっていうならたいしたものさ』
しかしすぐさま、以前に早人を幻想種に襲わせた行いを上げて、つかさの秘めた衝動を明かす。
「な、に……!?」
『こっちは契約者の心に従っているだけなのさ。本人が認めたがらない押し込めた本心まで汲んでるだけで、ねぇ』
「そんな……いくらなんでもそこまで……!?」
信じがたい言葉からの衝撃に、幻雷迅は呆然とつぶやく。
『いかん! 孝志郎!?』
「な!?」
被せるようなヨナキの警鐘。それに幻雷迅は集中を取り戻す。だが一瞬遅く、重圧に負けた膝は角度を深くする。
『こうして隙を作らせるつもりだ。気をそらすな!』
『そうでもあるけど、ウソは言っていないさ』
またもあっさりとヨナキの言を認めるつかさの契約幻想種。
『こちらはこの女に刃を入れて殺すだけさ』
そしてやることは変わらないと、裕香へ向けた刀を振りかぶる。
「よせ! そんなこと、させて……たまるかぁッ!」
その動きに幻雷迅は全身から雷光をみなぎらせ、のし掛かる巨拳を押し上げる。
『ハハハ! さすがにやるじゃないか!』
しかしほとばしる稲光が輝き、吼えるにも関わらず、幻想種に憑かれたつかさは楽しげに笑う。
『まだそれだけの心命力を振り絞れるくらい大切な相手なんだ。少しでも傷つけたりしたら誰だって許せないよ、ねぇ?』
「当たり前だ! 今すぐお前も叩き潰してやるッ!!」
怒りを煽るような幻想種の問い。それに幻雷迅は心を燃やすため、逆らうことなく乗りかかり、全身の雷をさらに強めてのし掛かる拳を吹き飛ばす。
だがその光景に、つかさに潜んだ幻想種は、笑みを深める。
『……だとさ、つかさ』
憤怒にたぎる幻雷迅とは対照的な、冷やかな声。
嘲笑を含んだその呼び声に続いて、冷笑を浮かべていた少女の顔が強ばり震える。
「……そう、だよね……こんな、こんなことしでかした私なんて……」
言葉を口に出す度につかさの大きな目は涙に滲んで揺れる。
やがてその目を濡らす涙は収まりきらずに溢れ出る。
「……ちが、それは……」
『だから言っただろう? こんな薄汚いお前を受け入れるのはこのワタシだけだとね!』
幻雷迅が伝えようとする否定の言葉を遮って、つかさの首から現れた白い靄が叫ぶ。
『両親ともバラバラ、他人を邪魔だとしか思って無いお前なんて、どんなお優しい奴でもお断りさ!』
月明かりに透ける薄い雲。
それを思わせる靄は、つかさをさらに追い詰めながら凝縮。その形を確かにしてゆく。
『この月光竜イナーヴァルナと、我ら二人で作る世界以外ではねぇ!? はははははははははッ!!』
つかさの耳元で哄笑する一羽の白ウサギ。
否、ウサギに見えるがその実態は違う。
赤い両目の上から伸びる二本の角。
背中から生えた白い皮膜の翼。
そして丸い毛の房を先端に付けた長い尾。
幻想の中にしかいないはずの生物。
自ら月光竜と名乗ったウサギもどきは、笑い声も高らかにつかさの周りを飛び回る。
「あ、ああ! ああああああああああッ!」
そしてついにつかさは頭を抱えて丸くうずくまる。
それはまるで、貝がおのれの殻を閉じてこもるかのように。
直後、膝に顔を埋めて閉じたつかさの体を中心に、部屋の様子が変わりだす。
波のように広がる玉虫色の彩り。そして床や天井に亀裂が入り、崩れ始める。
しかし足場を失いながらも、丸まったつかさの体は落下することなくその位置を固定。
『はははははッ! 閉じた、心が閉じた! これでワタシの世界が、ワタシの幻想界が生まれるッ!!』
つかさ以外が崩落していく中、イナーヴァルナは狂喜のままに叫び、宙を舞う。
そしてふと羽ばたく翼はそのままにつかさの頭上でホバリングをはじめると、弓なりに細めた目を幻雷迅へと向ける。
『お前はワタシの狙い通りに決定的な一押しをしてくれた。いくらか邪魔はされたけれど本当に感謝するよ。つかさの心を折ってくれてありがとう。はははははははははははッ!!』
礼を告げてからの哄笑に続けて再び狂い舞い始める。
そう、つまりすべてはこの月光竜の仕組んだ罠だったのだ。
孝志郎との繋がりを求めていたつかさの恋心を断ち切らせ、孤独感を増長させるための。
つかさが求める孝志郎に、裕香という恋人がいたことそれ自体はただイナーヴァルナにとって都合の良い偶然に過ぎないだろう。
孝志郎の境遇がどうあれ、つかさが心を閉ざす引き金にさせるように仕組んでいたに違いない。
しかし、それはただきっかけに過ぎない。
イナーヴァルナにとっては、通過点に至るための仕込みでしかないのだ。
「なんの……いったい何のためにこんなことをッ!?」
幻雷迅が厳しい声で問うと同時に、崩壊はその足元にまで到達。鵺忍の体は確固たる足場を失い揺らぐ。
崩れた足場を蹴り、落ちてきた天井の破片へ移る幻雷迅。
そして空間の崩落と共に支えを失い、落下するままにされた裕香へ向けてさらに跳ぶ。
人質を奪い返そうとするその動きに対して、イナーヴァルナはこれを放置。
丸まった宿主の頭に下りて、幻雷迅の腕が裕香を横抱きに抱きとめるのを傍観する。
『さっき言ったよねぇ? ワタシの世界を生みだすためだって』
幻雷迅もそれに対する人質も、もう用済みだと言わんばかりにほったらかしに。イナーヴァルナは投げかけられた問いに対して呆れたような声を返す。
同じことを繰り返し言わせるとか、耳か頭が不自由なのか?
そんな思いを鼻息混じりの態度にのせるイナーヴァルナに、幻雷迅はその額当て共々に歯ぎしり。
対するイナーヴァルナは、いら立つ幻雷迅の様子に笑みを深める。
『新しい幻想界が必要だから作るのさ。ワタシのすむ世界は無いからねぇ』
「バカな! 幻想界は崩壊したらしいが、ルクスとアムが生け贄になって新しい幻想界を……!」
ウサギもどきの言葉に、幻雷迅は新生しつつある幻想界の存在を告げる。
しかしそれにイナーヴァルナは鼻を鳴らして嘲り笑う。
『せっかくいけすかない白竜と黒竜の支配する世界が滅びたというのに、なぜわざわざあんな小僧どもの下に入らなくてはならないのさ? 仮に連中が腹を見せてきてもお断りだね。もっとも、体はもう無いんだったけれど』
そう言って言葉尻に鼻息をもう一つ。
そして再び白い霧へと姿を変えると、うずくまる契約者の身を包む。
『それに、泥で出来ていると分かっている舟に乗りこむバカがいるものかね』
さらにルクスとアムへの嘲笑を重ねて、靄になったイナ―ヴァルナはつかさの体へ滑り入っていく。
「クソッ! 好きにさせてたまるかッ!」
対して幻雷迅は強い口調で吐き捨てると、腰の蛇縄で抱えた裕香を背中に固定。周囲に浮かぶ瓦礫を跳び移ってイナーヴァルナへ。
いつの間にか虚空に浮力を得て、足場と浮かぶ飛び石を八艘跳びに渡る幻雷迅。
「ぶった斬って望月を解放させてもらうッ!」
そして月光竜が動き出す前に決着をと、大きく振りかぶった鰐鮫を振るう。
しかしその一撃は、不意に間に割り込み振るわれた丸太のようなモノに迎かえ撃たれる。
出鼻をくじくそれを、幻雷迅はとっさに割り込ませたセンミンの甲でブロック。
合わせて腕の力で自ら体を後ろへ送り、ダメージを軽減。後ろ回りに宙返りして飛び石の一つに着地する。
「なッ!?」
『んなアホなッ!?』
そして顔を上げて見えた光景に、額当てと揃って驚き絶句。
そこにはイナ―ヴァルナとその依代を庇って浮かぶアラタはもちろん、フクロウやアラクネの人形がそろい踏みに。
しかも、その数はそれぞれ一体ずつではない。
一種が十体。いや二十、三十とまだまだその数を増やし続けている。
限りなく群れの規模を増すその中心で、イナ―ヴァルナを宿したつかさが、丸めていたその身を伸ばす。
『ここまできてワタシの邪魔出来るものならやってみるがいいさ』
そしてつかさの顔を愉悦の笑みに歪めて、幻雷迅へ手招きして見せる。