第5話 初遭遇?part3
すいません、遅れました。
第5話です、どうぞ。
異世界二日目を迎えた僕は、一回目の鐘で目を覚ました。
アラームの魔法は7:00にセットしておいたんだけど、よく考えたら大きな鐘の音で起きれるじゃん。
「ふぁぁ。んー、よく寝た」
体を伸ばして、頭だけでなく体も目覚めさせる。
今日は冒険者として活動を始める日だ。子供っぽいかもしれないけれど、心のワクワクが止まらない!
……まぁ、Fランクの依頼って唯の雑用なんだけどね。
「よしっ」
声とともに気合を入れた僕は、アイテムボックスから出した紅蓮の天衣を着て、一階の食堂に向かった。
「ジェフさん、おはようございます」
昨日ので慣れてしまったので、今日もカウンター席で食べることに。
「おうシンか、昨日はありがとうな。てか朝早いんだな」
「まぁ今日から冒険者ですからね。ワクワクしちゃいまして」
「なるほどな。飯はもう少し待っててな」
そう言われた僕は、改めて食堂の中を見渡した。
食堂には既に結構な人数の人がいて、テーブル席では冒険者らしき人達が朝ご飯を待ちながら何か話し合っていた。
今日の予定とかだろうか。ちょっと羨ましい。僕には話し合う相手もいないからね。
「やっぱり仲間が欲しいなぁ。Eランクになったらリンダさんのエルマー商館に行ってみよっかな」
とかなんとか一人寂しく今後の予定を漠然と考えていると、ジェフさんが朝ご飯を持ってきてくれた。
「ほらよ、朝飯だ。メニューはまぁ、肉と野菜炒めってとこだな」
目の前に出されたのは、恐らくラビラビットであろう肉とまだ見たことのない野菜が一緒に盛られた炒めもの。それにスープとパンだった。
組み合わせとかは考えないんだろうか?
「冒険者は合う合わないなんて言ってられないからな。昼飯を食べられないことも多いから、朝からなるべくたくさん食うもんだ」
どうやら僕の考えていたことを読まれたらしい。ちょっと悔しい。
でも、冒険者ってそういうものなのかぁ。僕的には、朝はパンとサラダとスクランブルエッグとかが良いんだけど。まぁ先輩冒険者に従うべきなんだろうな。いつか自分用のシェフとか雇って、朝昼晩食べたいものを食べられる生活とかしてみたいな。
まぁ重めの朝食であってもジェフさんの料理にまずいものはないだろう。それぐらい、昨日の甘煮にやられてしまった。
案の定重いだけで味は普通に美味しい朝食を食べ、悪くないなぁと思いながら宿のトイレで用を足した。
ちなみにこの世界のトイレの標準はボットンらしい。お尻を拭くのも紙ではなく、硬めの葉っぱを加工したものだ。
ボットントイレの方はまだしも、葉っぱで拭くのは耐えられなかったので僕はGIからトイレットペーパーを召喚して使っている(なんで入っていたのかはご想像にお任せする)。多分、異世界に来て一番GIが役に立った時だと思う。
ただ、トイレは匂いが気になるため僕は使う度に毎回魔法で綺麗にしている。
複合属性下級魔術≪清潔化≫を使って。
この魔法、部屋に使えば下手な掃除よりも綺麗になるし、体に使えば垢はもちろん、土汚れなんかでも一瞬で落とせる。同じ理由で洗濯にもとても便利。
しかし、火・水・風と三属性も用いるため、そう簡単に開発されないであろうことが想像できる。残念極まりない。その内この魔法を込めた魔道具でも作ろうかな。
あ、ちなみに使用後の紙は燃やして証拠隠滅しています。
部屋に荷物がない僕はそれで出発の準備が出来てしまうので、鍵を預けて冒険者ギルドに行くためニーナさんがいるであろう受付に向かった。
受付に向かった僕は、なぜかニーナさんに抱きしめられた。
いや、僕にも状況がよく分からない。
えっ、なにこれ、フラグでも立ったの?
確かに大きな胸を持つニーナさんにそうしてもらえるのは何というか気持ちいいけれど、いろいろまずい気がする。主にジェフさん的に。
「あの、ニーナさん」
「……ありがと」
「へっ?」
「ジェフの脚、治してくれたんでしょ?」
あぁ、それか。なるほど。
やっと解放してくれたニーナさんが落ち着くのを待って、返事を返した。
「別に気にしなくていいですよ。大したことじゃありませんし」
「そんなことないわ。少なくとも、あたしとジェフにとっては大したことよ。だからせめて、これでお礼をさせて」
言葉と共にニーナさんから貰ったのは、布に包まれた長方形の箱。
「これ、なんですか?」
「お弁当。本当は追加料金のサービスだけど、君はタダで利用出来るようにしてお礼にしよう、って昨日ジェフと話し合ったの」
お弁当か。ジェフさんのお弁当がタダなんて、これは良いかもしれない。
「ありがとうございます。じゃあお弁当が必要な時は、声をかけさせてもらいますね」
「ええ、そうしてね」
「それとこれ、鍵です。では、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
うーん、小鳥の囀り亭も中々に居心地が良いなぁ。この、〝行ってきます〟に〝行ってらっしゃい〟が帰って来る感じがいい。
帰ってきたら〝ただいま〟って言おう、と考えながら、僕は小鳥の囀り亭を後にした。
「Fランクの依頼って、意外とたくさんあるんだなぁ。どれでも良いような気もするけど、効率的に済ませられそうなのが良いかな」
冒険者ギルドの下位ランク用依頼板の前で唸る真紅のローブに黒い髪の青年が一人。
まぁ言うまでもなく僕だ。
ちなみに依頼が貼ってある依頼板はDランク以下用の下位ランク用と、Cランク以上用の上位ランク用がある。
ていうかCランクからが上位なのか。知らなかったよ、メイリーンさん。
「取り敢えず、こんな感じで良いかな」
僕が取った依頼は7枚。
建物の解体や荷物の配達など、簡単な仕事だから7個受けることにした。
多いかなとは思うけど、一つ一つは簡単だから多分大丈夫だ。
「メイリーンさん、これお願いします」
列の前の人が抜けたので、メイリーンさんに依頼の受注手続きをしてもらうべく、依頼書をカウンターに差し出す。
ていうか受付前の列がどれも長い。まぁ受付嬢がみんな美人っていうのも原因なんだろうけど。
「これ……7枚全部、ですか?」
「あれ、複数ってダメでした?」
「いえ、ダメではないんですけど……。どれも期限が今日なので、依頼失敗となって違約金を払うことになる確率がとても高いと思うのですが」
「ああ、そういうことですか。大丈夫だと思いますよ。依頼されている時間帯は一応ずらしてありますし、余裕も見ていますよ」
「まぁそうですけど……」
「取り敢えず任してください。最悪失敗しても違約金の額は小さいですし、それもいい経験ですから」
いや、自分で稼いだお金なんて無いから小さくても払えないけどね。
「……分かりました。ですが受注する以上、失敗前提はやめてください。やるなら、ちゃんとこなしてくださいね」
「勿論です」
なんとかメイリーンさんを言いくるめて7枚受注。まぁ一日一個なんてやってたら面倒だしね。
効率的に進めて、さっさとランクをあげたいのだ。
「ええと、まずは……」
効率的な昇進の第一歩として、僕は荷物配達の仕事の依頼主を探し始めた。
「ガンジュさんのお店って、この辺りだよな」
取り敢えず依頼主に会ってみると、鍛治師であるガンジュさんのお店に荷物を届けることに。
依頼主の説明に従って、僕はガンジュさんのお店ーーーつまり武具屋ーーーを探していた。
「っとと、あれかな、多分」
石造りで無骨な感じのお店を発見した。依頼主に聞いていた通りの看板もある。
まだ朝だからか、店の扉は閉まっていた。
「依頼がある以上、呼ばないわけにはいかないし。あまり気乗りしないけど仕方ないか。ーーーすいませーん!」
ドアを叩きながら大声で呼ぶ。こんな時はこれに限る。
案の定、店の中からドタドタと足音が聞こえた。
「うるっさいわい! なんじゃ朝っぱらから! 儂は今いそが……おい坊主、その箱は?」
中から出てきたのは、身長が小さくてひげもじゃのお爺さんだ。ドワーフって奴だろうか。
「その通りです。ガンジュさんへのお届け物ですよ」
「おお、来たか! こんなに早く来てくれるとは! さぁ、入れ入れ!」
頼んでいた荷物を運んできたと分かると態度を一変させ、ガンジュさんは僕を店の中に通してくれた。
「いやぁ、助かったわい。最近金属の流通に何かあったのか、インゴットにする金属がいつもの相手から手に入れられなくてな。にも関わらず急に武器の増産をする様に領主様から通達されてな。金属が足りんかったんじゃ。これでなんとかなる」
「そうでしたか。でも、なんで急に武器なんて必要になったんですかね?」
「分からんのう。また隣の迷宮都市が盛っているのかもしれんの」
「迷宮都市?」
迷宮都市ってなんだ?
そもそも迷宮って、ダンジョンみたいなものかな?
「冒険者なのに知らんのか?」
「いや、昨日なったばかりなので。というか、これが初仕事だったりします」
「それなら知らなくても仕方ないの。なら荷物を早く届けてもらった礼に、儂が少し教えてやろう」
お、これはいいかもしれん。どうせ常識本に載っているんだろうけど、今聞けるならそれに越したことはないし。
「迷宮都市とは、迷宮を管理することでそれに付随する益を得て栄えた街のことじゃ。隣街のルーラは、ファラード国の中でも有名な迷宮都市じゃよ」
「ふむふむ」
「迷宮都市には多くの冒険者が集まる。それを目当てに、商人なども集まる。それにそもそも、冒険者達が迷宮から持ち帰った所謂『迷宮品』が市場に及ぼす影響も大きいしの。はっきり言って、領地内の迷宮を適切に管理すればその街は勝手に栄えるんじゃよ。これが迷宮都市じゃ」
うーん、残念ながら、なんとなくでしか分からないな。やっぱり百聞は一見に如かず、かな。
「まぁ、ランクが上がったら行ってみるといいんじゃないかのう」
「そうですね。お話、ありがとうございました」
「いやいや、礼を言うのはこっちじゃ」
「では、僕はこれで失礼します」
ガンジュさんに頭を下げて挨拶をしてから、無骨なそのお店を出た。本当は鍛治師としての面識も欲しかったけど、多分迷宮都市にはもっとすごい鍛治師がいるだろうから今はやめておいて、依頼をこなすことに集中した。
それから僕はガンジュさんの件と同じ様にどの依頼もスピーディー(僕主観で、だけど)にこなし、ギリギリ昼前にはメイリーンさんの待つ冒険者ギルドへ帰還することが出来た。
「はい、どうぞ」
僕が受付でメイリーンさんに渡したのは、依頼完了書とギルドカードだ。
依頼が完了したことを確認すると依頼主が発行してくれるそれは、ギルドでは依頼完了証の役割を果たす。
発行って言っても、依頼書に完了の旨を書くだけなんだけど。
ちなみにギルドカードには、どんな魔物をどれだけ倒したとかどんな依頼をこなしたか、といったことが記録されているらしい。
「……確かに。では少しお待ちください」
メイリーンさんは少し不服そうにしていたが、昨日みたく奥の部屋に入っていった。
「この後はどうしようかなぁ。取り敢えずお弁当食べて……」
軽く予定を考えていると、メイリーンさんは割とすぐに戻ってきた。
「確認しました。7件合わせて、銀貨2枚と大銅貨1枚が報酬になります」
お金とギルドカードを受け取り、一応確認しようとカードに魔力を流すと、なぜか僕のランクがEになっていた。
「あの、メイリーンさん。ランクが上がってるんですけど、こんな簡単に上がるものなんですか?」
「ランク昇進に必要なのは、依頼を一定数こなすこととギルドからの信頼をある程度得ることです。Eランク昇進には5〜10個ほどが一定数ですし、午前中だけで7個も達成出来れば実力は問題ないでしょう。依頼の見通しを立てるのも必要な実力ですから」
「そういうものなんですね」
「ええ。新人にあたるEランクへの昇進ですからそこまで難しくはありませんが、それでも凄いことですよ。ただ、Eランクからの討伐依頼はそう上手くもいきませんから気を引き締めてくださいね」
まぁ討伐依頼はそもそも、生息場所と自分の拠点との往復に時間もかかるしな。
「どうしますか? Eランクの依頼を受けて行きますか?」
「うーん、取り敢えず昼ご飯食べたいからそれからでもいいですか?」
「構いませんが、討伐依頼は期限が長いものが多いので、今受注してお昼を食べてからでもあまり変わりませんよ?」
「あ、そうなんですか? じゃあそれでお願いします」
「はい。依頼に何か希望はありますか?」
希望かぁ。どれでも問題無い気がするけど。
「討伐依頼で、新人にも十分出来そうなもので」
「となると、これになりますかね」
メイリーンさんに手渡された依頼書には、ラビラビット5体の討伐、と書かれていた。
報酬は銀貨1枚。やはりFランクとは桁が違う。
ギルドカードも渡して、受注してもらう。
「脚は速いですが力は強くないので、落ち着いて対処すれば大丈夫ですから」
「はい、じゃあ行ってきます」
そう言って僕は、ギルドを後にした。
ギルドを出た僕はお弁当を食べてから、門番の詰所で入場料の返金をしてもらって街を出た。
「やあ、そこの君。もしかして新人だったりしないかい?」
街を出て少ししたところで柔らかい声でそう話しかけてきたのは、茶色の髪をツンツンと立てている優男っぽい人だ。
その後ろには、斧を背負った山賊みたいな厳つい顔をした男性とローブを纏った褐色の肌を持つグラマラスな女性がいた。
「ええと、まぁそうです」
「やっぱりか、見ない顔だもんね。ようこそ、ミーネの街へ。俺の名前はヤリィ。後ろの二人は、ルオとネネだ」
優男がヤリィ、山賊がルオ、グラマラスがネネっぽいな。
「えっと、シンです。で、何の用でしょう?」
「用ってほどのことでもないんだけど、これから依頼かな?」
「まぁそうですけど」
「何の依頼?」
「ラビラビットの討伐依頼です」
「良かった、なら丁度良い。その管理官、僕らが勤めてあげるよ」
管理官? なんだ、それ。
「分からないって顔してるね。説明してあげよう。最近冒険者ギルドで、新人がすぐに死んじゃうのが問題になってるんだ。身の丈に合わない依頼を選んだりしたとかで」
「ふむふむ」
「そこで先輩冒険者達が考えたのが、管理官という制度だよ。非公式だから知らないのも無理はないけど」
ヤリィさんはラビラビットが出るという森の中に僕を案内しながら、説明をしてくれる。ちなみにヤリィさんと僕が前を歩いていて、ルオさんとネネさんは後ろからついて来てくれている。
「何回か新人と一緒に先輩が依頼を受けて、新人に技術や心構えなんかを教えるのが目的かな」
「なるほど、それは良さそうですね」
ていうか、ラビラビットっててっきり草原に出るんだと思ってた。森だったのかぁ。
「取り敢えず今回は、僕達が管理官になるから安心して」
「はい、ありがとうございます」
そうしてずんずん森を進んでいく。
段々と日の光が届かなくなり、いつからか森が不気味な気配を持ち始めた。
「こんな所に、ラビラビットって出るんですか?」
「まぁね。ーーーそう言えば、君は珍しい武器を装備しているね」
「珍しいですか?」
僕の腰には、一応冒険者っぽく見える様にGIから召喚した『鉄の剣』が装備されている。
鉄の剣は珍しくはないけど、神様お手製だから少し違うのかな?
「もし良かったら、俺に見せてもらえる?」
「ええ、いいですよ」
僕は腰の剣を外し、ヤリィさんに渡す。ヤリィさんは受け取った剣をまじまじと観察した後、ニヤリと笑って言った。
「これはーーーーーご愁傷様だね」
なんとも場違いに思えるその言葉を聞いて僕は一瞬首を傾げそうになるが、その時突然僕の背中に鋭い悪寒が走り、僕は本能に従って体を捻った。
「ッ!!」
ヒュッ、と音がして、僕の体の横すれすれを斧が通過する。
振り返った僕に見えたのは、背負っていたはずの斧を振り切った姿でニヤニヤ笑うルオさんと、その後ろで魔法を組み始めているネネさんの姿だった。
主人公の3番目の初遭遇は、冒険者ではなく……?
感想、誤字・脱字・誤用法報告など、お待ちしております。