第4話 小鳥の囀り亭ととある図鑑
最近急激に総合pやお気に入り登録件数が増え、嬉しい気持ちと戸惑いの気持ちがせめぎ合い、気を落ち着けようと思って日間ランキングを眺めていたら39位にこの作品を見つけてしまい戸惑い側が圧勝してしまった作者です。
これからも頑張ります!
長くなりましたが、第4話です。どうぞ。
小鳥の囀り亭は、木造五階立てでなんとなく落ち着く雰囲気の宿だった。
中に入ると、受付の様なカウンターに中々麗しい女性が一人。受付だよな?
「いらっしゃい、泊まりかな?」
「はい」
「一泊大銅貨3枚、朝夕ご飯付きなら大銅貨4枚だよ」
ちなみに通貨を円に直すと、
¥1→石貨1枚
¥10→鉄貨1枚(石貨10枚)
¥100→銅貨1枚(鉄貨10枚)
¥1000→大銅貨1枚(銅貨10枚)
¥10000→銀貨1枚(大銅貨10枚)
¥1000000→金貨1枚(銀貨100枚)
¥100000000→白金貨1枚(金貨100枚)
という感じ。大銀貨と大金貨は昔はあったけど今は無いらしい。
ちょっと高い気もしないでもないけど、宿のクオリティに期待しよう。雰囲気は良い感じなんだし。
「とりあえず二日分お願いします」
「了解。うん、これお釣り」
銀貨で払ってお釣りをもらう。うぅ、早く自分で稼がなきゃ。
「部屋は二階の203号室だね、こっち来て」
そう言って階段を上がっていく女性に着いていくと、部屋に案内された。
広過ぎず、狭過ぎず。そんな言葉が合いそうな大きさの綺麗な部屋だ。
雰囲気は宿自体とあまり変わらず、ベッド、机、イス、そして服をしまうクローゼットみたいなものがあった。
「ここが君の部屋だね、えっと……」
「あ、シンです」
「そっか、シン君か。よろしく、あたしはニーナっていうの。何かあったら受付か厨房に来てくれれば対応するから」
特に荷物を持っていない、というかアイテムボックスに入れている僕は置いておく荷物もないので、部屋を確認したらニーナさんと連れ立って再び階段を降りる。
「ご飯はもう食べられますか?」
「夕飯は五回目の鐘から六回目の鐘までだから食べられるね。ちなみに朝ごはんは一回目の鐘から二回目の鐘までだよ。まぁお金払ってもらえれば時間外でも昼のお弁当でも作るんだけどね」
「分かりました。っていうか、ニーナさんって受付だけじゃなく厨房もこなしてるんですか?」
「まぁね。厨房は夫のジェフに任せてはいるんだけど、まぁ二人の方が回せるしね。受付は娘のリアがやってることも多いわ」
そんな会話をして小鳥の囀り亭の従業員事情を聞きながら(誰得)、受付の横を通って食堂に行った。
せっかくなので、ジェフさんという人と話せそうなカウンター席にする。
……仲間がいないせいでテーブル席が使いにくかったわけじゃないんだからねっ!
カウンター席から覗ける厨房に大柄でマッチョな褐色の男性を見つけたので、早速話しかけてみる。
「こんにちわ、今日から泊まらせていただいてるシンです。よろしくお願いします」
「おう、随分丁寧なやつだな。俺はジェフだ、よろしくな。もうすぐだから待ってろよ」
「はい」
うーん、やはり冒険者はもっとワイルドに挨拶を交わすんだろうか。丁寧過ぎかな? 他の冒険者さんって初対面の人にはどうやって挨拶してるんだろ。
そんなどうでもいいことに対する方策を考えていると、漂ってきた肉汁の良い匂いがその思考を中断させた。
「ほらよ、これが今日の夕食、ラビラビットの甘煮だ」
そう言ってジェフさんが僕の前に置いてくれたのは、浅めの皿に注がれた茶色の液体に浸かった肉の塊だった。セットとして、サラダとスープもある。
ラビラビット含め見たことのない食材ばかりだったけど、その唾液を誘う美味しそうな見た目もあって僕が躊躇することは無かった。
「ん……これは、うまい!」
せっかくだからと主菜であろう甘煮から食べたが、とても美味しい。宿で出てくる様な肉だから固いかとも想像していたが、全くの杞憂だったようだ。柔らかい肉は歯でも簡単に噛みちぎることができ、それでいてしっかりとした歯応えがある。何で味付けしているのかは分からないが、甘い味のこの茶色い液体も肉に染み込んで良い味を出している。
サラダもスープも同じくらい美味しく、僕の異世界初食事は大満足に終わった。
「ウサギなのにラビラビットってうまいんですね」
「そうだな。足が速いだけで新人冒険者でも狩れるぐらい弱いんだが、それでいて肉はうまいんだから最高だよな。ランクの低い魔物は基本的にまずいんだが、こいつはうまいんだよ」
ランクの低い魔物はまずいのか、野営の時とかに参考にしよう。いや、猪あたりを狩れば済む話か?
っていうか。
「ジェフさんってもしかして元冒険者だったりします?」
「まぁな。つーかだいたいの男は一度は冒険者に憧れるもんだろうがよ」
「まぁそうですけど。でもじゃあなんで宿屋をやってるんですか?」
「宿屋をやりたがったのはニーナなんだがな、まぁいい。よくある話だよ、怪我だ怪我。右脚を魔物にやられちまってな。日常生活にはそこまで影響はねぇが、冒険者はできなくなっちまってな」
言われてみれば歩き方も少しぎこちない気がしないでもない。まぁカウンター席からじゃあ上半身しか見えないけどさ。
「んで、もともと料理の腕はそれなりでな、たまに露店出してたりもしてたんだ。だからその延長で食堂でも開こうかと思ったんだが」
「ニーナさんに捕まった、と」
「まぁそういうことだ。ここで暴れる荒くれ者を止めるのに難儀するってことを除けば、この脚でも宿屋くらいはやれたしな」
「ふむ……」
怪我なら多分僕でも治せるけど、大して困ってないのかな。
「なんで治療しないんですか?」
「当たり前だろ、金だよ、金。教会に行くと治療費とか言いながらぼったくられるだろ?」
「あーなるほど」
いや全然知らないけど。
どうやらこの世界の、少なくともミーネの街の教会はろくでもない所のようだ。
「治せるもんなら治してぇけどな。高い金払うほどでもねぇし」
「もしよければ治しましょうか?」
「は?」
多分いけるよな、うん。
回復魔法は有れば便利かと思って、ちゃんと魔法陣も作ったもんな。
腕をくっつけるとかも出来るんだから、怪我の後遺症なんてちょちょいのちょいだ。
「馬鹿にしてんのか?」
「いや、超真面目なんですけど」
「お前は教会のもんだったっつーことか?」
「いやそんなろくでもなさそうな奴と一緒にしないでくださいよ」
「……マジで治せるのか?」
「まぁやってみないと分かりませんが、多分治せますよ」
僕は立ち上がってカウンター席側から厨房側へと回る。
「少し見せてもらいますね」
しゃがんでジェフさんのズボンの裾を捲ると、大きな切り傷の跡が踝あたりに見つかった。
「これですよね?」
「……ああ」
「じゃあ行きまーす」
ジェフさんに軽く声をかけて、【回復魔法】により中級魔術を行使する。
「≪大回復≫」
ジェフさんの右脚にかざした僕の右手の先の空間に小さな魔法陣が現れ、そこから溢れた光が踝あたりを一瞬眩いほどの光量で覆う。
光と魔法陣が消えた時、ジェフさんの右脚の踝から、あの切り傷は消えていた。心なしか脚のバランスも良くなった気がする。
「どうですか? 多分治ったと思うんですけど」
てか治ってなかったら修正しなきゃだよ。
「……お前、すげぇな。いや、助かった。完全に元通りだ。これなら全力疾走も出来そうだ」
「ふふ、なら良かったです。また冒険者でもしますか?」
「いや、この宿主生活も板についてきたしな、もう冒険者はやらねぇよ。それだけの腕があるお前が、俺の分まで頑張ってくれ」
「なら頑張らせて頂きますかねぇ。あ、明日もご飯楽しみにしてます。それじゃ」
傷が治ったらしいジェフさんに別れを告げ、僕は自分の部屋に戻った。
「うーん、やっぱりカオスだったなぁ……」
ここは僕の自室、というか僕が借りた部屋。現在時刻は22:30頃だ。
ジェフさんと別れ部屋に戻った僕は、いくつか魔術の編集・開発を行った後、GIで創造神様の倉庫を整理していた。
ちなみに時間表示だが、時計を探すまでもなく問題は解決した。
時空魔法の下級魔術で現在時刻を指定した空間に表示する魔術を開発したのだ。よく考えれば、腕時計したまま戦闘とか出来ないしね。
その時ついでに目覚ましの魔術も作った。自分の脳を直接揺さぶる(と言ってももちろん軽くだけど)ので、音は出ないけどパッチリと起きられるはずだ。
ちなみに魔法名はそのまんまで、≪時計≫と≪目覚まし≫にした。うん、Simple is best.だよね。
そんなわけで倉庫を整理もとい漁っているのだけど、やはりというか何というか、カオス過ぎた。
特にお金はやばい。白金貨が数千枚とかある。よほどのことがなければ手を出さない方向で。
武器や防具もヤバそうなのがたくさんあったけど、それぞれ一つずつだけ召喚してアイテムボックスに送った。
ちなみに武器は、『天幻紅蓮筒』という、真紅をベースに金色の装飾が施された掌サイズの筒だ。
円柱型で底面は両方とも開いているその筒は、魔力を流すと使用者のイメージに沿った形の武器を生成する。頭の中でイメージした武器を魔力で作り出せる武器なのだ。
分かりやすく説明するなら、某光のセーバーの柄だ。あれをもっと自由な感じにして、両側から出せる様にするとこの武器になる。
ただ毎回イメージしながら魔力を流すのは面倒だなぁと考えながら弄っていたところ、どうやら『モード』として登録すればその必要がないと分かったので五種類ほど登録してみた。
薄刃の長剣をイメージした『剣形態』。
短剣をイメージした『短剣形態』。
中二心を刺激する両剣をイメージした『両剣形態』。
打撃系も必要かと思って作った『槌形態』。
冗談でやったら出来てしまった『弓形態』。
この五つだ。
とは言ってもこの武器どう考えても強いので、ある程度実力(能力値じゃなく経験的な意味で)が付くまではアイテムボックスで封印しようと思っている。
というか、鍛治師の知り合いとか欲しいじゃん!
お前のための剣だ!とか憧れるじゃん!
……すいませんちょっとテンション上がりすぎました。
まぁそんなわけなので暫くは封印。
そして防具の方。
最初はフルプレートメイルとか考えていたけれど、よく考えたら僕は防御力よりも素早さ重視で戦いたいタイプだからそれは違うかなぁ、と。
ていうか魔法が最大の武器なんだから僕は魔法剣士か魔術師だろうと。
部分的な鎧とローブで迷った結果、ローブの方がミステリアスでかっこいいと僕の中二心が結論を下したのでローブで行くことに。
結局選んだのは『紅蓮の天衣』という、全体が天幻紅蓮筒に似た真紅で染まり、ローブの裾と大きめのフード部分に真っ黒いふさふさなファーが付いたローブだった。
このローブには、【最適環境】【自動修復】【認識阻害】【障壁】というスキルが付いている。
一つずつ説明していくと、まず【最適環境】は、着用者の外的環境(温度、湿度など)を常に最適な状態に保つというもの。夏に汗をかくことも冬に凍えることもないのだ。
【自動修復】は、ローブが破れても大気中の魔力を吸収することでひとりでに直るというもの。ただしすぐ直るわけではなく、数時間単位の時間が必要らしい。
【認識阻害】は、このローブ自体とその着用者をごく一般的なものに見せることで注意を逸らすスキルだ。しかし目にした者の技量が高かったりあまりに着用者が知られすぎている場合は効果が薄くなるらしい。
そして最後に【障壁】だが、どうやら着用者に攻撃が迫った場合にその攻撃に対して不可視の障壁を自動展開するスキルであるらしい。障壁は物理攻撃も魔法攻撃も防ぐというから便利だ。ただ、あまり強力なものは防げないため、あくまで暗殺防止くらいにしか使えないらしい。
若干魔王ルックな見た目もかっこいいし、魔法で代用できる武器と違って防具は無いといざという時に困るので、このローブは封印せずに装備することにした。いや、今は部屋の中だからしまっているけれど。
そんな感じであーでもないこーでもないと倉庫を弄っている内に、一冊の本ーーーというか神器ーーーに気付いた。
「モンスター図鑑……?」
GIを経由して召喚したそれには、そういうアイテム名が付いていた。なんだろうと思いながら中を開いてみると一枚の手紙が挟まっていた。
◇◆◇◆◇
〝やあ、久しぶりだね。僕だよ、って書かなくても分かるよね、僕の倉庫から出してるんだし。
普通に手紙を入れてもつまらないから、本に挟んでみたよ。
自分が本を開けなかったらどうしたのか、って? 聞かないでよ、そんなこと。ぐすん。
あれからアヴァスではどうかな? こっちで見てる限りは楽しそうだけど。
こっちもいろいろあってね、………。
(中略)
話が逸れちゃったね。ごめんごめん。
今回はモンスター図鑑というこの神器の使い方を説明しようと思ってね。
初めは幻獣創るかーとでも考えていたんだけど、あまりにもそれじゃあ芸がないでしょ?
だから、君にも『創って』もらおうと思ってね。
魔物を倒すとそいつが持っていた魔力が空気中に霧散するのは知っているよね?
モンスター図鑑は、それを吸収・錬成することで君の使い魔となる魔物を作り出す神器だ。
使い魔とか、ちょっと興奮しない?
君の強さなら、ドラゴン100匹の部下とかでも余裕で作れるね。
いや、ドラゴンと言わず、いっそのこと……。
(中略)
また逸れちゃった。君に手紙を書くのは楽し過ぎていけないね。
図鑑に収納している時は『カード』になっていて、呼び出したい魔物の該当ページを開くかその魔物をイメージしながら召喚すれば呼べるよ。
ちなみに魔物を一体倒すと同じ魔物のカードが一枚作れる。
ただこれだけだと面白くないし、『作る』だけで『創る』とは言えないから、少し機能を追加したんだ。
元々あった『カード錬成・一覧・召喚』に、『カード合成・売買』を加えてみたから。
一覧は、今まで倒した魔物の記録だね。どの魔物を何枚カードに錬成できるかもここから確認できるから。
錬成・召喚はそのまんまだから、合成・売買について説明するね。
合成は、カード同士を掛け合わせてより強力なカードを作る機能だよ。同じ魔物でもたくさん合成すれば上位存在に進化するし、異なる魔物をかけあわせれば新種の魔物だって創れるかもしれない。
この機能を生かして、新種の魔物を創ってくれると面白いから、待ってるよ。
売買はどちらかと言うとご褒美に近いかな。要らないカードを『売る』で売って図鑑Pを手に入れて、そのポイントでカードがランダムに入った『パック』を買ったり、強力なカードを『単買い』すると良いよ。
魔物はどこまで合成しても魔物だから、もし幻獣が欲しかったから図鑑Pを貯めて単買いしてね。まぁパックで出る可能性も0ではないけど。結構面白いのも用意したから期待してる。
まぁ長くなったけどモンスター図鑑はそんな感じだから、使う時は気を付けてね。せっかく創ったから出来れば使って欲しいけど。
じゃあまたね。
By 創造神
P.S. 野生の魔物を使い魔にしたかったら、【契約術】ってスキルを取れば解決するから〟
◇◆◇◆◇
「相変わらず……手紙が長ぁぁぁい!!」
もう夜中なのに思わず叫んでしまった。隣の部屋の人に壁をドンッってされたので「ごめんなさい!」って必死に謝るハメになった。
しかし本当に長い手紙だな。有用だったけどさ。
けど使い魔って響きが好きな僕的に、この神器『モンスター図鑑』は中々良いものだな。
「ふぁぁ、眠い。初異世界で疲れたし、今日はもう寝るかー」
さっそくアラームの魔法をかけた後ベッドに入った僕は、モンスター図鑑を使ってどんな魔物を創るか考えている内にいつの間にか眠りに落ちていた。
やっと主人公の異世界1日目が終わりました。展開遅過ぎですかね? まぁ主人公は割とマイペースなので。
感想、誤字・脱字・誤用法報告など、お待ちしております。
・図鑑参照と一覧が被っていたので、図鑑参照の機能を一覧の機能とし、図鑑参照をなくしました(3/27)