第3話 初遭遇part2
遅れてしまいすいません。
「じゃあ、リンダさんって魔法も使えるんですか?」
「ええ、昔はこれでもDランク冒険者でしたから。水と風の魔法が得意なんですよ」
「この馬車に護衛がいないのも?」
「その通りです。イシュタル〜ミーネ間のこの街道にはあまり強いモンスターは出ませんので。Eランクがせいぜいですから、私の魔法でもなんとかなるのですよ」
あれから、馬車はミーネの街を目指して軽快に走り続けている。
青い空の下、時折吹く涼しい風を感じながら草原を進むのも結構楽しい。
最初はお尻が痛かったけど、慣れると風景が流れて行くのを楽しめたりして、馬車もいいなと思えてくる。
リンダさんはミーネの街に本店を構える商人さんで、別の街から商品を仕入れて帰る途中だったらしい。
「にしても、冒険者ランクCになるって結構大変なんじゃないですか? そこまでいかなければ商人を継がせるって、なかなか厳しいお父様なんですね」
「まぁそうかもしれませんね。冒険者ランクCと言えば、努力の限界とも言われますし」
リンダさん曰くこの世界には冒険者ギルドなるものがあって、街を越えて移動する場合に必要な身分証明書代わりに冒険者登録をする人は多いんだとか。
冒険者というのは、ギルドから斡旋された依頼を受けてお金を稼ぐ人のことを言うらしい。まぁ迷宮っていうもので稼ぐ人も多いから一概には言えないらしいけど。
ちなみにランクとその目安は、
F→冒険者見習い
E→新人冒険者
D→一人前冒険者
C→努力の限界
B→才能だけの限界
A→才能と努力
AA→天才
AAA→国軍レベル
S→もはや魔王
となっているらしい。実際Aランク以上なんて国全体でもそういないんだとか。
リンダさんと話していて、身分証明書の無い僕は門で犯罪歴が無い事を証明したあと入場料を払って、取り敢えず冒険者ギルドに行ってみよう、ということになった。
冒険者ギルドで身分証明書となるギルドカードを作れば、それを見せることで門番から入場料を返金してもらうことも出来るそうだし。
GIのお金にはあんまり手をつけたくないけど、こればっかりは仕方ない。最低限稼げる様になるまではお世話になろう。冒険者になってすぐ稼ぐつもりだけども。
「冒険者は子供の頃からの憧れでしたからね、最終的には商人を継がせたとはいえ、一人息子の私が危険な冒険者になることを許してくれていたんですから、そういう意味では良い父親だと思いますけどね」
「確かにそうかもしれませ……ん?」
【空間掌握】に反応がある。まだ慣れなくて適当な感じにはなっていたけど間違いない。200mくらい先に魔物がいる。
「どうかしましたか?」
「この先に魔物がいます。その、大きく左に曲がる所にあるあの小さな森の様なところですね」
「ふむ、結構近いですね。何体か分かりますか?」
「一体ですね、でも多分雑魚じゃないです」
「そんなことも分かるんですか?」
「ええ、他の奴に比べて魔力量が高いです」
僕のレーダーには魔力感知も含まれているから、敵影の大きさを魔力量に準じて表示することもでき、そこから考えると敵はまぁまぁ強いはずなんだけど。
「ここって、せいぜいEランク、なんですよね?」
「ええ、少なくとも個体でDランクになるような魔物はいなかったはずですが……」
うーん、これがEランクだったらショックだな。僕あんまり強くないことになる。
取り敢えず様子を見てみようと、臨戦態勢を取りながら街道を進むと、あと100mくらいという所で、ソイツが現れた。
遠目にも分かる大きさ。5mはあるかもしれない。
赤い皮膚に包まれた筋骨隆々な体をしているが、お腹は出ている。あれか、お相撲さん体型か。
右手にはこれまた大きな剣を持ち、明らかにこちら目掛けて走って来ている。
「リンダさん……あれ、Eランクですか?」
「なんで、なんで、オーガが! オーガは単体でCランクの魔物ですよ! なんであんな奴がここに!」
確か魔物のランクは、D以下の場合同じランクの冒険者が一〜三人いれば倒せて、C以上の場合は最低でも五人はいるんだっけか。
ってことはオーガはCランク冒険者が五人は必要だから、強敵か?
良かった、僕弱くない。
いや、そんなこと言ってる場合じゃなかったな、うん。
「ああ、終わりだ。オーガ相手じゃ……。こんなことなら護衛も雇うんだった」
「リンダさん、馬車の方をお願いします」
「そうですよね、もう諦め……へ?」
「何呆けているんですか。万が一があるといけませんから、馬車を見ていてください」
「えっ、シンさんは!?」
「やるだけやってみますよ。死ぬまで指を咥えて待ってるなんて癪ですし」
止まった馬車から降りて5mほど離れ、魔法の準備をする。
武器があったら戦ってみるんだけど、あいにくそうもいかないし。あ、GIから出せばあるか。まぁ今回はいいや。
使う属性は……火と土は周りへの影響が甚大だからあり得ないとして、風か水にするか、基本だし。
取り敢えずオーガの勢いを止めたいから水でもぶつけておくか。
そう考えた僕は一つの〝魔術〟を準備する。
常識本と天星眼を使って各属性の上級魔法までは覚えているけど、今の僕に始原魔法は使えない。というか全て最適化してしまったので、既に元の始原魔法の魔法陣は存在しない。いやまたコピーすれば使えるけどさ。
ちなみに最適化とは、馬鹿みたいなMPを考慮して覚えた魔法を僕が一番使いやすい形に編集することだ。
MPは有るのでMPを多く消費する代わりに、威力が高く規模が制御しやすく、加えて魔填も出来るだけ時間がかからないように編集した。これが僕の〝最適化〟だ。
「取り敢えず水で受け止めますよーっと」
そんな僕が準備したのは、元は水属性中級魔法、大量の水を敵にぶつけて物理的にダメージを与えつつ、敵を近付けない魔法。
最適化により、一本の太い線の様に収束した水を敵に高速で放つ水属性中級魔術になった。
「まだ、まだだ。もっと引きつけて……」
魔填の完了した僕の魔法陣は既に発動可能で、待機状態にある。
「グォォォオオオッ!!!」
オーガとの距離はどんどん近付いている。まぁ向こうは全力で走っているみたいだし。
雄叫びをあげながら走るオーガを冷静に観察し、距離を図る。
その彼我が20mを切った瞬間、構えていた右手の掌の先に浮かぶ魔法陣が一際眩く輝き、魔術を発動する。
「≪水流線≫!」
その瞬間、掌と同じくらいの直径を持つ水の円柱が、凄まじい勢いでオーガに放たれる。
あまりの速さに僕自身も驚いたがそれはオーガも同じだった様で、反応していない。
その結果、水流はオーガの胸に直撃しーーーーー貫通してしまった。
「あれ? 嘘、貫通した? えっ?」
予想外の出来事に僕が驚いている内に、オーガは呻き声を上げながら、その巨体を横にした。
「え、倒しちゃったの?」
念の為レーダーで確認するも、魔力感知は出来ても気配は察知出来ない。つまり死んだっぽい。
「うーん、まだまだ制御が甘いかなぁ」
反省の言葉を口にしながら死んだオーガに近付くと、改めてそのおおきさを認識出来る。4m、下手をすれば5mはあるかもしれない。
胸に掌大の穴が綺麗に空いている。まぁこの大きさでこんなとこ貫通したら死ぬよね……。
少し落ち込みながらもオーガの死体をアイテムボックスにしまい、リンダさんの待つ馬車に向かった。
リンダさんは御者席から立ち上がったまま、口をパクパクしていた。男がやっても可愛くない。
「あのー、終わりましたよ?」
「…………へっ? あれ? オーガは?」
「無事倒せました」
「えっ、ああ、本当ですか。良かったです。ってオーガを!?」
「はい。取り敢えず進みませんか?」
「っ、ああ、そうですね」
こうしていても仕方ないのでリンダさんを急かして、僕達は改めてミーネの街に向かった。
「いやぁシン様、本当にありがとうございました! おかげで助かりましたよ」
「いやリンダさん、様とかやめてください。今まで通りでいいですって」
あれから僕達はさらに進み、もう街が見えるところまで進んで来ていた。
オーガを倒してからというもの、リンダさんにひたすら感謝されてそろそろ困っている。しかも様付けだし。
「僕も馬車に乗せてもらいましたし、お互い様ですよ」
「そうは言っても、私が救われたのは命ですからね。同じにはなりませんよ」
「ええー」
「まぁまぁ良いじゃないですか。そうだ、街に着いたら私の商館に来てください。お礼にお好きな奴隷を一人差し上げますよ」
「奴隷?」
リンダさん曰く、この世界には奴隷制度があるらしい。
奴隷には三種類あって、借金奴隷、犯罪奴隷、永久奴隷となっている。どれも主人に解放されない限り死ぬまで奴隷であることには変わりないが、扱いが異なるらしい。
借金奴隷とは所謂身売りで、貧しい村の者が家族のためになることが多いらしい。商館においても借金奴隷は衣服や食事といった面では決して悪くない待遇であり、戦闘能力が高い者や見目麗しい女性なんかは戦闘奴隷や性奴隷という役割も兼任することでさらに待遇が良くなるとか。
犯罪奴隷は前世で言う服役に近い。犯罪を犯し捕まった者が、その罪を償うためになる身分。しかし奉仕期間などは無いため解放されない限りは奴隷であることは変わらない。ある意味無期懲役だね。待遇としてはあまり良いものじゃないらしい。僕もいくら奴隷とは言え前科持ちを傍に置きたくはないし。
そして永久奴隷。これは身分としては最低に当たり、重い罪を犯した者が処刑されない場合に限りなる身分で、扱いとしては最低のものを受ける。服も食事も最低限で、働く場所も採掘場などの命の保障が出来ない場所ばかりらしい。
まぁ仲間集めという意味では奴隷もありなのかな? 一応今度行ってみようかなぁ。
ちなみに、非合法で捕まり奴隷にされた者は借金奴隷扱いになるんだとか。何故なら、通常借金奴隷が商館に買い取られる時の値段分や商館から奴隷として売れた時の代金の一部は奴隷の指定した人間(家族など)に送られるが、非合法の奴隷ならば商館に入る時はもちろん代金は0だし、それが商館から売られればその代金は全て商館のものになるからだ。それゆえ、非合法の奴隷化は収まらないらしい。
「まぁそこまで言うなら分かりました。一度行ってみます」
「ええ、それがいいでしょう。シン様にぴったりの奴隷を選びますよ」
あ、様付けは直らないんですね……。
そんな阿呆らしいやりとりをしていると、遂にミーネの街に到着した。
魔物から街を守るため街全体を高い石壁が覆っていて、半径どれくらいになるのかも想像つかない。
しばらく列に並んで待っていると、あっという間に僕らの番が来た。
リンダさんが、僕が記憶喪失っぽいことを話してくれている。頑張れリンダさん。いけいけリンダさん。
「おい、ちょっとこっちに来い」
「へ?」
心の中で応援していると、門番らしき兵士に誘導されて、小さな部屋の様な所に通された。
「これに触れろ」
「これは?」
「鑑定石を知らないなんて、本当に記憶喪失みたいだな……。これは『鑑定石』と言って、触れた奴に罪歴があるかどうか確認するものだ」
そういや罪を犯していないか確認するってリンダさんも言っていたな。あれはこのことだったのか。
「ほい、っと」
「……よし、罪は無いな。一応入場料として銀貨1枚貰うぞ。後で身分を証明してくれれば返金するからな。えーと……」
「あ、シンです」
「分かった。俺はラークだ。返金の時は詰所を尋ねてくれればいい」
「分かりました」
「ようこそ、ミーネへ」
GIで転送しておいた銀貨を1枚アイテムボックスから取り出してラークさんに渡し、俺はリンダさんがいる方へと向かった。
「おぉ、これはすごいですね……」
「ふふ、ここがミーネの街ですよ。ここを真っ直ぐ行って右に曲がればさっき説明した看板のある冒険者ギルドがありますから、分からないことはそこで聞いてください。私のエルマー商館の位置もそこで聞けますから」
「はい、ここまでありがとうございました」
「いえいえ、それはこちらのセリフですよ。ではまた」
そう言って去っていったリンダさんを見送って、改めて街の様子を観察する。
一言で言えば、中世ヨーロッパ風だろうか。あくまで〝風〟だけど。
建物はどれも木と石とレンガで構成されている。パッと見た感じでは、そこまで住みにくそうではない。
道はもちろんコンクリートなんかじゃなくレンガに似た石材で固められていて、互い違いのレンガ模様がおしゃれだ。
前世の街とは全くと言っていいほど違うその街並みに、僕は落胆よりも興奮を感じていた。
「で、冒険者ギルドは真っ直ぐ行って右、だったな」
リンダさんの言葉を思い出しながら歩いて行くと、赤い旗を背景に剣が二本クロスしている看板を見つけた。リンダさんに聞いていた冒険者ギルドの看板だ。
周りの建物より二周りほど大きく、やけに頑丈に作られている。
冒険者ギルドの建物は三階建てで、入ってみると中も思ったよりも華やかな作りだ。
僕のイメージだと酒場と変わらない感じだったんだけど。
いかにもな丸テーブルとカウンターがギルドカウンターの横にあるから酒場も兼ねているみたいだけど、決して下品な感じではない。うん、いつかお世話になろう。まだ17歳だけど。
入り口から入って正面にギルドカウンターが五個あり、その両サイドから上の階へ続く階段が伸びている。上の方もだいたい同じ作りだろう。
僕はその内の一つのカウンターに向かった。
「すいません、冒険者登録をしたいんですけど」
「はい、少々お待ちください」
そう言って応対してくれたのは、人族の女性だ。
腰まで届く長い深青色の髪が特徴的な美人さん。まさに大和撫子!という感じの女性だ。
「こちらの用紙に必要事項を記入してください。代筆はどうしますか?」
「大丈夫です」
【異世界言語】のおかげで僕は読み書きだって問題ないのだ。
用紙の必要事項は少なく、名前・年齢・住所・特技の四つだけだ。特技というのは、要するに『剣が得意』とか『魔法撃てます』とかで良いらしい。
「宿をまだ取ってないんですが……」
「それでしたらその欄は空白で構いません。後日改めてお聞きしますから」
「すいません」
とりあえず、シン・17歳・魔法、とだけ書いて渡した。
「はい、ではこちらに魔力を流して頂けますか?」
「これは?」
「門にある鑑定石に似たような物ですね。魔力を流した者の能力値を記録するように出来ています」
「能力値? スキルは記録しないんですか?」
「はい、冒険者にとって手札を隠すのは当たり前のことですからね。本来は能力値もそうなんですが、それも隠されてしまうと依頼を斡旋出来ませんので、こういった形になっています」
「なるほど」
大和撫子さんと話しながら【能力隠蔽】で能力値を20%程度まで下げ、ついでにヤバそうなスキルも一応隠しておいた。魔力も一応300くらいにしてから、その装置に魔力を流し込んだ。
一瞬光ったその装置から、紙っぽいものが出てきて、それを大和撫子さんは受付の奥の部屋にさっきの用紙と合わせて届けた後、また戻ってきた。
「ギルドカードが出来るまでの間、冒険者ギルドについて説明させて頂きます」
「はい」
大和撫子さんの説明は、リンダさんから聞いたものとほとんど変わらなかった。要するにランクは九個あって、僕はFからスタートする。ギルドから紹介・斡旋される依頼をこなして上を目指しましょう、っていう話だ。
ちょうど説明が終わったあたりで奥の部屋から男のギルド職員っぽい人が出てきて、大和撫子さんのところへ何かを置いていった。
「こちらがギルドカードになります」
木の皮の様な色をしたその何かは僕のギルドカードだった。
ギルドカードはランクごとに全体の色が異なり、F(木),E(灰),D(紫),C(緑),B(赤),A(銀),AA(金),AAA(黒),S(青闇)となっているらしい。
「ギルドカードは身分証明書であると同時にギルドに預けたお金を引き出すことにも使えますから、なるべく無くさない様にお願いします。再発行にはお金もかかりますので」
「ギルドにお金を預けられるんですか?」
「はい。冒険者は一獲千金に近い仕事なので一気に大金持ちになることも少なくありません。その管理をするための制度です」
「なるほど」
確かに大事かも。僕も稼いだら基本預金の方向で行こう。
魔力を流して自分の名前や年齢が表示されることを確認してから、ギルドカードをアイテムボックスにしまった。
「登録は以上になります。何か質問はございますか?」
「ギルドに関する質問じゃないんですけど、良い宿を紹介してもらえませんか?」
「構いませんよ。そうですね、シンさんの場合は『小鳥の囀り亭』がオススメです。ご飯も美味しいですし、宿主も親切な方ですので」
そう言う大和撫子さんに小鳥の囀り亭までの道のりを教えてもらった。ていうか〝大和撫子さん〟って長いよ、しかも迂闊に呼べないし。
「えっと、質問はもうありません。これから宜しくお願いします。良かったら、名前教えてもらえませんか?」
「はい、こちらこそ。メイリーンと言います」
「メイリーンさんですね。では、また来ます」
そう言って僕は冒険者ギルドを出た。日が既に暮れ始めている。
「僕がアヴァスに来て目覚めたのが多分正午くらいだから、今は18:00くらいかな。ていうか時計欲しいな、後でGI探してみよう」
AM6:00〜PM9:00までの間、3時間に一回鳴る(つまり日に六回)鐘の音を聞いて自分の推測が間違っていないことを確認した僕は、早く宿のご飯を食べるためにも早歩きで小鳥の囀り亭に向かった。
感想、誤字・脱字・誤用法報告など、お待ちしております。
・リンダさんのランクが分かりにくかった様なので、修正しました(3/4)
・【レーダー】→【空間掌握】(3/5)