第1話 ~精霊視程都市~
連投シリーズその1。
時は21世紀、2100年。21世紀最後の年。
あたしは東京都の上空に浮かぶ天空都市・空撒街に住む、桜舞学園の2年生、宗谷岬輪。
「……にしても、本ッ当アンタってバカよねー」
「なんでだよ!だから本当に精霊はいるんだって!
今朝のニュースで見たぜ!この街は精霊視程都市、つまり精霊の見える都市に認定されたって!!」
こいつは中1の時からの友達という付き合いの、箱舟渡。
昔ッから魔法は存在するとか精霊はいるとかUFOはあるとか、本当バカみたい。
……まぁ、あれから88年で、街が空を飛ぶようになったから、なくはないのかも…なーんて☆
(ちなみに説明しておくと、この街が宙に浮いているのは魔法云々ではなく、科学的技術で。)
「とにかく、そんなくだらない話してないで、さっさと学園祭の出し物を決めるわよ!」
「くだらなくねェし!!」
そんなこんなで19時、下校路。
「おっ、こんな所に穴を発見!
この中にきっと精霊がいると、俺の勘がツげている!」
渡が地面に、怪しげな穴を見つける。
「まーたバカ言って。そんなのほっといて、さっさと帰るわよー。
だいたい、そんな穴もし這入って出れなかったりしたらどうすんのy…って」
渡の体は、もう半分ほど、穴に這入っていた。
「ちょっと!アンタ人の話聞いてた!?」
「違うんだ!体が勝手に!!」
「とにかく引っ張り出すからしっかり掴まっ……ってあたしもぉぉ!?」
* *
目が覚めると、そこは。
あたし達が住んでる地球(――否、完璧に、絶対に地球とは言い切れないけど。だって宙に浮いてるし。まぁその話はおいといて)とは別の世界。
魔法世界。
獣人が行き交い、人が箒で宙を飛ぶ、そんな世界。
「ほらほらー!精霊はいなかったけど、魔法はあったーーーッッ!!」
頭痛がした。なんでこいつ、こんな状況でこんな小学生みたいに無邪気にはしゃげるんだろう。
「うっさいわね!アンタこの危機的状況を理解できないの!?
どうやって帰ったらいいか、わかんないのよ!?」
「なーにが危機的だよ!こーゆーのはwktk」
ごっ。
「人の話は聞けっつーの。」
渡の脳天に踵落としを喰らわせてやった。勿論手加減はしたけど。
と、そこに。
「あらあら、宗谷岬さんに箱舟さんじゃありませんこと?」
一人の女子が歩いてきた。
「あ……、琴南ちゃん!?」
「誰だ?」
渡が訊く。
「琴南楓雅。隣の2-Dの学級委員長で、去年あたしと同じクラスで親友だったの。
勉強に関してはかなりの実力者で、前期中間テストの順位は学年252人中なんと5位!
更に日本の経済を担う財閥のご令嬢サマって設定付きよ。
3日前、失踪したってニュースでやってたけど……成程、こういうことだったのね」
「ふーん……」
「こうして久しぶりにお会いできて嬉しい限りですわ、宗谷岬さん。
それに……箱舟さん、噂のあなたをお目にかかれて、私とっても光栄ですわ♡」
「え……なんで」
あ。
そうだった、忘れてた。
渡、こんな痛い趣味もってる割には、運動神経抜群のパフォーマーで、
女子や下級生にも優しくクールで、テストの点数も……『悪い!』と言える程でもない、
『良いほう』だし(あたしのほうが上だけど)、おまけにルックスの評判もいいから(あたしにはよくわからないけど)、
女子からは結構人気だったんだ。
でも、お目にかかれて、って。合同体育の時とか普通に見れると思うけど?
まぁいいや。とりあえずこの状況を整理しよう。
「で……これって一体どういう状態の、どういう状況なのよ。
アンタは3日前に既にこっちに来てるんだから、あたし達よりはなんとなく理解るんじゃない?」
「ええ、勿論ですわ。私とてこの3日間、何もせずただ傍観していたわけではありません。情報収集に繰り出してました。噛み砕いて説明致しますね。
まず、この魔法世界……んん。少し長いですわね……
では、魔法世界、魔法の国…マジカルカントリー。略して『マジカ』と呼ぶことにしましょう」
「……」
世界名勝手に略しやがった、こいつ。
しかもなんか『マジか!!』って、驚いてるみたいだshゲフンまぁそれはどうでもいいよね。
「とにかくこのマジカは、東西南北4つのエリアに分かれてるんです。
そしてそれぞれのエリアには、それらを治める王がひとりずつ、計4人いて……
その中でも西の王が、権力を悪用して国民に対して暴虐を繰り返していたんですの。
それを知った東の王――王としては正直なところ落ちこぼれで、権力とかもあまりなく、
一般住民とほぼ同じ扱い、故に東エリアもあまり栄えていないが優しさだけはこの世界、つまりマジカの中では一番と言われるお方――が、西エリアに戦争を仕掛け――」
おいおい。
世界一優しい王が、戦争仕掛けちゃったよ。
「栄えていなかった東エリアが、勿論、敗北。東なのに敗北というのも少し可笑しな話、ですけれど。
そこで東エリアは人間界の至る所に、ここ東エリアに通じる、魔法の資質のある者を吸い込む穴を設置した、って訳ですわ」
「勝手に巻き込むなーーーっ!!」
あたしは叫んだ。力いっぱい。
道行く人何人かに振り向かれたけど気にしない気にしない。あっはっは。
「ま……まぁ、そう思うかもしれませんけれど……
で、北エリアと南エリアはというと、この戦いに関しては見て見ぬ振り――ではなく、見て楽しんでいる、と言ったほうが……」
「賭けをしてる、ってこと?」
「そういうことです。あくまで戦い自体には非干渉。
そして、殆どが西エリアに賭け、東エリアに賭けるのは物好きな一割程度、というのが現状です」
「あーもうわかったわよ。今回は魔法に目覚めて東エリアに加担して、西エリアを止めるってストーリーでしょ?
ほら渡、さっさと行くわよ」
「…………」
「……どうしたの?」
「……帰る」
「はぁ?」
「いや本当魔法とかは実に興味深いんだけれども、なんかこう……そういうのはずっと幻想のままにしておきたかったな、みたいな。現実にあるとなんかな、って」
「帰る、って……帰る方法もわかんないのに」
渡がわけのわからないことを言っている。普段こういう変なこと言う奴じゃないのに。
楓雅ちゃんが口を開く。
「あらあら……もしかして、戦うのが怖いから逃げているんじゃないですの?
今までずっと平和な世界でのうのうと生きてきた自分のようなちっぽけな存在が、ひとつの世界を覆すほどの大それたことを成せる訳がない――とお思いで?」
こいつ、さっき『お目にかかれてとっても光栄ですわ♡』とか言っておきながら、なかなかきついこと言うなぁ。
「違いますーマジでリアルにあるもんなのかよーって思っただけですー!!」
「とにかく、渡。あの穴は資格のある者が吸い込まれるものなの。Do you understand?
アンタが興味深いとか興味浅いとか関係なく、修行とかなんかすれば自分が魔法を使」
「行っきまーす!!」
乗っかった。
単純な奴。
まぁなんというか、こっちの世界でやらねばならない事が出来たらしい。
ていうかこれ、もしかして終わらせるまで帰れないの?