ゴールデンウィーク 二日目 パート1
寝室の窓から温かい太陽の光と共に小鳥の囀りが聞こえてくる。
元々寝起きの良い私は、それによって気持ちよく起きる事が出来た。
やっぱり目覚まし時計で叩き起こされるより、太陽の光で健康的に目覚めるのはとてもいい。
私は気分良く、リビングへと続く扉を開けた。
突然だが、私はジャージ派である。
寝る時もそうだが、部屋にいる時も基本的にジャージ。寮の同室者には「女としてそれはダメでしょ!」と言われるが、楽なのだから仕方ない。
因みに叔母さんは着物か寝巻用ワンピースである。
何故こんなどうでも良い事を語ったかと言うと、自分がジャージ派で良かったと心底思ったからだ。
「おはようございます、紫信様。よくお眠りになりましたでしょうか?」
「……はい。おはようございます。よく眠れました」
そこには輝く笑顔で挨拶をするメイドさんがいらっしゃった。
夜閉めたはずのカーテンを開けた誰かが居る事に気付かなかった私が悪いのか。
それとも気配もなく迅速に仕事をこなすメイドさんが悪いのか。
うん。私だ。取りあえずジャージ万歳。
「それはようございました。どうぞ、こちらでお顔をお拭きください」
メイドさんは寝起きで酷い私を見ても表情一つ変えず、うっすらと湯気の上がるタオルを差し出した。
「あ、ありがとうございます!」
反射的に頭を下げながらタオルを受け取る。
メイドさんは「いえ」と言い、爽やかに微笑むと、私が起きてくるまでにやっていたらしい朝食のセッティングを始めた。
「あの、朝食は別々に取るんですか?」
昨日は叔母さん達の仕事が終わらなかったと言う理由で昼食を別々に取った。つまり、普段は一緒に食事をすると言うことなんだろう。
昼と夜は一緒に食べるのに朝食だけ別って可笑しくないか?
「はい。梗也様が朝は色々忙しいだろうと仰って、朝に限り別となりました」
「そうですか」
確かに女の朝は色々大変ではある。
でも、それは理由になっていないだろう。華宮は全寮制だから朝食を学食で取る生徒だって少なくない。
事実、私は料理が出来るので自炊していたが、同室者は毎朝食堂に行っていた。
別に理由があるのではないかと考えていて、ふと、柳咲弟の顔が浮かぶ。
「彼方君と梗也先輩は一緒に食事を取られるんですか?」
「はい。お二人はご一緒になります。本当は、紫信様と籠目様も一緒の方が宜しいのではないかと思ったのですが、昨晩籠目様にお伺いを立てた所、別々がよいと仰られましたので」
「解りました。ありがとうございます」
「お役に立ちましたなら幸いです。どうぞ、お食事の用意が整いました。お待たせして申し訳ありません」
メイドさんはそう言い、私の使用済みタオルを受け取った後、態々椅子まで引いてくれた。
頭を下げ、椅子に腰かける。
朝食は、白米、味噌汁、漬物、卵焼き、アジの塩焼き、肉じゃがと言う豪華な日本食だ。
昨日の夕食の後に、朝はパンが良いか米が良いか聞かれ、米と答えたからだろう。
手を合わせ「いただきます」と言い、食事に手を付ける。
メイドさんは給仕をしてくれようとしたが、庶民の私にそれはつらい為、謹んで辞退させて頂いた。
そして、私が食べ終えた頃戻ってきたメイドさんに入れていただいた緑茶を今は飲んでいる。
久々に飲んだが、やはり玉露は美味しい。
高ければ良いってものではないと言う人もいるが、私は食べ物に限っては高い方が良いと思っている。やっぱり、安いものよりも高い物のほうがそれ相応の手間を掛けてるからだ。
お茶を飲み、一息つきながら思う。
……流石、金持ち。作り方も素人の私とは違うのだろうが、何よりも材料の質が違いました。
***
着替えも終わると、ジェントルマン・イン・ウェイティング(以下ジェルントル)の人が、柳咲弟の所に案内すると言い、迎えに来てくれた。
黒い髪を短く刈り上げた、爽やかな青年である。
彼に案内されたのは、初めて訪れる部屋だった。
部屋の中には昨日使ったトランプからテレビゲームまで幅広くそろっている。
「おはようございます。紫信さん」
「おはよう。彼方君」
部屋には昨日と変わらず美少年な柳咲弟がソファーに座っていた。
私も彼の正面のソファーに腰かける。
ノックから扉を開けるまで全てしてくれたジェルントルの人は、私達に紅茶を入れると静かに部屋を出て行った。
「早速ですが、トランプ、しませんか?」
柳咲弟は紅茶をひと口飲むと、トランプを手に取りそう言った。
「私はそれでもいいけど、彼方君は詰まらないんじゃない?」
私も紅茶をひと口飲んでからそう告げる。
昨日散々負けたのにやりたいとは……。柳咲弟はマゾっけがあるのだろうか。
「今日は1勝ぐらいして見せますよ」
柳咲弟はそう言うと、挑発的に笑った。
まあ、元が美少年なので、どんな顔をしても可愛いだけだ。
しかし、その笑みを見て思う。
昨日、柳咲弟は偶々柳咲兄に話しかけ無かったのではなく、意図的に話しかけ無かったのではないか、と。