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平凡な私と可愛い彼、そして時々ファンタジー?  作者: 成露 草
第一章 兄弟と宿題、そして時々イカサマ
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第一回保護者達の会談 パート2

 眠った状態から一気に覚醒し、私に触れようとしたのであろう手を素早く左手で掴んだ。

 警護の為に常に常備している警棒を右手で取ると、遠心力で畳んだ状態から伸ばす。20センチほどだった警棒は60センチほどまで伸び、腕の持ち主の首にぴたりと当てられた。

「緋乃、食事だ」

 だが、当てられた本人、梗也は慌てることなくそう言った。とても詰まらない。

「梗也君、もう少し言うことは無いのかな」

 手を離し、警棒をしまいながらそう言うと、梗也は苦笑を洩らした。

「これでもかなり驚いているんだ。勘弁してくれ」

 どうだかね、と思いながら私は起き上がった。

 梗也の度胸と胆力は、武芸科にも負けないほどある。驚きを表に出していないだけだとしても、私には解らない。まぁ、弟関係は別の様だけれど。

 ソファーの前にある机に目を向けると、オムライス、ビシソワーズ、温野菜サラダが2人分並べてある。

「紫信と彼方君は一緒に食べないの?」

「……もう、昼はとっくに回っている。何度呼んでも緋乃が起きなかったんだ。だから彼方には先に食べるように言っておいた」

「ああ、私寝起き悪いんだよね。2人分って事は梗也君は待っててくれたんだよね。ありがとう」

「いや、別にいい。まだ話も終わっていなかったしな」

 そう言い、前のソファーに座った梗也の目は、私が寝てしまう前よりもぎらついている気がする。先に言った、「彼方には先に食べるように」と言う言葉からも梗也が相当紫信の存在が気に食わないことが分かった。

 思わず口元に笑みが浮かびそうになり、それを誤魔化す様に食事に手を付ける。

 普段大人びた青年に、この様な子供らしい――いや、年相応と言うべきだろうか?――一面を見せられると弄り倒したくなるのは私だけだろうか。

 ネタが『弟』だと言うことが少々詰まらないが、まぁ、彼女が出来た時も弄れると思えば楽しさ2倍と言うことで良しとしよう。

 口に入れたオムライスは、お金持ちのお抱えシェフが作っているだけあって美味しい。

 梗也が言ってくれたのだろう。肉を口にしない私の為に、私の分のオムライスだけソーセージが入っていなかった。こう言う気遣いが出来るから人気があるんだよな。

「で、彼方と緋乃の姪の気が合いそうだと言っていたが、何がしたいんだ」

 梗也がオムライスの半分ほどを食べ終わったところでそう言った。苦笑気味な所を見ると、少しは冷静になった様だ。

 それにしても、なぜ男の人は食べるのが妙に早いのだろうか。私はまだ5口しか食べていないのに。

「何がしたいんだ、と言われても、特段目的があった訳では無いんだよ」

 ビシソワーズをひと口。うん、少しチーズが入っていて美味しい。

「目的が無くとも、考えがあるのが緋乃だろう」

 梗也、綺麗に食べているのに、なぜサラダがふた口で無くなるの?

「まあね。でも本当に大したことではないよ。それに彼方君は嫌いではないから傷つけることをする気もないし」

 あ、サラダのドレッシング、オリーブオイルと塩胡椒のみだ。シンプルだけど美味しいって、高級だね。

「それぐらい解っている。緋乃は子供には優しいからな。だが、大したことで無くとも気になるものは気になるんだ」

 おお、ビシソワーズも完食か。スプーン動かすの早いね。

「そう言われても、確固とした何かがあって紫信を連れてきたわけじゃないからね。……あえて言うなら、コンプレックスの克服?」

 サラダとビシソワーズ完食。

「コンプレックス……。」

 梗也はそう呟くと、飲んでいた食後のコーヒーを机に置き、考え込むように腕を組んだ。

 私はコーヒー苦手なんだけど、紅茶にしてくれるかな。

 梗也より数分遅れて食事を終えると、実はずっと部屋の隅に控えていたフットマンが私の前にだけ苺のムースを置いた。共に紅茶も用意される。

 私だけ食べても良いのだろうかと梗也の方を見ると、未だ何かを考えている様で私の視線には気付かなかった。仕方なくフットマンの方を見る。

 フットマンは、まだ20代前半の青年だった。黒髪黒目で特別美形と言うわけでもないが、綺麗な鼻筋をしている。彼は私が視線を投げかけると、声にせずとも聞きたいことが分かった様で「どうぞ、お召し上がりください」と笑顔で言った。

 鍛え上げられたプロの笑顔に、私も「ありがとうございます」と笑顔で答える。

 どんな職業でもプロフェッショナルって素晴らしい。

 良いものを見た事で気分の良くなった私が、快調に苺のムースを食べ進める。

 そして、残りひと口ほどになった所で梗也が私を見た。

「確かに彼方にはコンプレックスがある。……原因も解っている。だが、いや、だからこそ、緋乃の姪では力になれない」

 私の目を見ながら、梗也は力強くそう言った。確信に満ちた強い口調だ。

 その言葉に口元が歪む。

 梗也が息を飲んだのが解った。

 フットマンの彼は、何も見ていない、聞いていない、と言う体を保ち、部屋の隅に控えている。後で名前とメールアドレスを聞いてみよう。

「梗也、私の姪っ子をあまり舐めないでよ。あぁ、それとも彼方君を買い被っているのかな? まぁ、どちらにしろ、梗也の読み違いには変わりないね」

 苺ムースを食べきり、紅茶を流し込む。テンションが幾分か下がってしまった。

 私の不機嫌を感じ取ったのであろう。梗也は「すまない」と、少し気まずそうに謝った。

 どうやら、梗也の考えは前者だったようだ。謝罪してきたので掘り返す気はないが、やはり可愛い姪っ子を馬鹿にされれば腹が立つ。

「別にいいよ。梗也は紫信の事を知っている訳じゃないんだから」

 私が微笑みながらそう言うと、梗也は浅く息を吐いた。緊張していたのだろうか? 武芸科は校則で一般人への暴力を禁じられているから殴ったりしないのに。

「でも、次に紫信の事を軽んじる様な発言をしたら、彼方君に梗也のブラザーコンプレックス……暴露するからね?」

 恐喝は禁止されていないからするけど。

 でも、下手に隠そうとする梗也の自業自得だよね?

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