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平凡な私と可愛い彼、そして時々ファンタジー?  作者: 成露 草
第一章 兄弟と宿題、そして時々イカサマ
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第一回保護者達の会談 パート1

「それじゃあ、後は若い人同士で」

 私はそう言って客間を後にした。

 扉を閉める前、僅かに見えた紫信の表情に心の中で笑った。

 見た目は微笑を浮かべているだけの私を見て、先に部屋を出ていた梗也は目を見開き、驚いているのが一目でわかる表情をしていた。

 まぁ、仕事中にふざけるなんて普通しないから当然かな。でも、紫信達の前ではそれを出さないのは流石だね。そう思いながら、私は視線で梗也に先を促した。

 私の視線が廊下の先に向いた事に気付いたのだろう。梗也は「こっちだ」と言い、先頭を切って歩き始めた。

 梗也の部屋は、元居た部屋の3つ上の階にあった。

 部屋に入ると、扉から見て正面にある大きなデスクがあり、その少し左にテラスへ続く扉があった。扉は全面ガラス張りで、南側に部屋があることもあり、暖かい太陽の光が惜しげもなく降り注いでいる。季節が春と言うこともあり、部屋は太陽光だけで心地よい温かさになっていた。

 そして部屋には、太陽の光が一番当たる位置に橙色のソファーが向かい合う様に2つ置かれている。

 それぞれ、ちょうど人1人が横になれる大きさだ。

「どういうつもりなんだ」

 私の目が、半ばソファーに釘付けになっていると、梗也が静かにそう言った。

 紳士の様に扉を開けてくれた梗也は、今は後ろ手で扉を閉めており、まるで尋問官の様だ。

 実際、私にこれから尋問をするのだから、間違ってはいないだろう。

「なにが?」

 私はソファーの1つに腰掛けながら、あえて答えの解りきっている質問をした。

 ソファーは予想通り、ほんのりと温かく気持ちがよい。ソファー自体の質が良いこともあり、今すぐ眠りこんでしまいたいほどの魅力があった。

 置いてあるクッションも適度な弾力があり、枕にするのに適当だ。

「緋乃、お前は俺を馬鹿にしているのか?」

 私がソファーとクッションに気を取られている事に気付いたのか、それとも私の返答が気に食わなかったのかは判断がつかないが、梗也は僅かに不機嫌さをにじませてそう言った。

 こう言う所がまだまだ子供でとても好きだ。

 自然に笑みが浮かぶ。

 私はリラックスするようにソファーの左の肘掛に両腕を置き、その上に頭を持たれさせた。

 足は下ろしたままだが、半分寝ているのに近い体勢である。

 僅かだが気を抜いた所為で欠伸まで漏れた。

 息を飲んだ音が梗也のいる方から聞こえたので、そちらを向くと、口を半開きにして驚いている梗也の姿があった。

「………ふっ、あはは! な、なんて顔しているの、梗也君。ふふ、男前も形無しだねぇ」

 梗也との付き合いは、かれこれ3年程だが、こんな表情を見たのは初めてだ。

 あまりの間抜けずらに笑いがこみ上げた。

 初めは、その笑いを我慢しようかと思ったが、この後の話でどうせ私の事を話さなくてはならないので、少しは本性を見せても良いだろうと判断し、表情を含め、感情を表に出した。

 この反応に、梗也はますます男前やクールと言った言葉から遠い表情をさらした。

 私が笑い、梗也が間抜けずらをする、それで私が又笑う。

 この悪循環を暫く繰り返した。

「満足したか」

「あー、うん。ごちそうさま」

「……なら、早く答えろ。また、何が、なんて言うなよ」

 梗也が間抜けずらから呆れ顔に変わった頃、漸く私の笑いも収まり、話が本筋に戻り始めた。

 それにしても「どういうつもり」とは、何について聞いているのか実に曖昧だよね。

「梗也君が聞きたいのは、私が仕事を引き受けた理由? 紫信を連れてきた理由?」

「それも聞きたいが、根本的な答えにはならない」

 梗也は、私の顔が見られるように、この部屋に1つしかないソファーに斜めに腰掛けた。

 当然、私からも彼の顔が見れる。

 梗也は、先ほどのまでの呆れ顔を引っ込めて、真剣な眼差しで私を見つめている。

 これが愛の告白なんかだったら少しはときめく……ことは無いけど、思う所はあったかもしれない。

「何のつもりで、俺の弟に彼女を紹介したんだ? しかも、遊び相手だと? 同い年の男なら兎も角、なぜ女なんだ? それに――」

 しかし、ブラザーコンプレックス故の視線だと思うと何とも言えない。

 あえて言うなら呆れだろうか。ああ、人によっては嫌悪もあり得るかもしれない。

 あまりの下らない質問に、私が胡散な視線を向けても気付くこと無く語り続けるぐらいには、彼のブラザーコンプレックスは重症である。

 こう言う時に、美形は得だと思ってしまう。弟の事――かなり愚だらない――を話しているのに、まるで政治の話でもしているかのような雰囲気が出ているのだ。

 こうなった梗也を見るのは4回目だが、彼は毎回こんな感じだった。

 1度目は、私に双子の弟がいることが知られ、そこから彼の弟の自慢話になってしまった。他の2回は、私が仕事で付いて行った社交パーティーで、彼を良く知らない女の子が話を振ったからだった。

 あの時は止めるのにとても苦労した。まぁ、彼女達は梗也の雰囲気に騙されてうっとりとしていたが。

 私が過去を振り返って溜息を吐いた頃、やっと梗也の長々とした質問が終わった。

「何故女なのか」と言う質問が、表現を変えて6回も出てきて、呆れを超えて疲れを感じる。

 私は眉間を揉んだ後、しぶしぶ口を開いた。

「だって、彼方君と紫信の相性が良さそうに思えたよね」

 梗也の話を聞いただけでお腹一杯になってしまったのだから、言葉がいい加減でも勘弁してもらいたい。

 勿論、いい加減と言っても、言葉選びがいい加減なだけで、内容に嘘は1つもないが。

 私はクッションを2つ取ると、あからさまに聞きたくないと分かるボディーラングエッジをした。1つ目のクッションで後頭部を抑え、もうひとつに顔を埋めるのだ。

 私が素早くその動作をし終えるのとほぼ同時に、梗也が口を開いたことが空気の震えから分かった。

 恐らく「弟と相性がいいとはどういう意味だ?」と言う内容を様々な表現を使って言っているのだろう。

 語彙が多いのは大いに結構だが、そんなに何度も言い方を変えて言う必要は無いと思う。

 私は、完全に頭から音を遮断し、温かい太陽の光とクッションの柔らかさに意識を集中した。

 クッションから香る、干したての布団の様な匂いとシンプルな石鹸の香りが、私を自然に眠りへと誘った。

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