ゴールデンウィーク 一日目 パート3
「彼方君とは仲良くなれたみたいだね」
夕食の後、私の部屋を訪ねてきた叔母さんの第一声はこれだった。
私に宛がわれた部屋は、オフホワイトと薄桃色が基調とされていたが、家具が全てシンプルな木製の物ということもあり、私の年齢でも恥ずかしさを覚えることはなかった。寧ろ、華やかではない可愛らしさが、私の琴線に触れた。
私と叔母さんは、部屋に備え付けの――これも私の好みにぴったり合致した――オフホワイトの地に、薄桃色の花が刺繍されたソファーに並んで座った。距離が近く、叔母さんの長く真っ白な睫毛に縁取られた瞳が良く見える。それは好奇心の光で輝いていた。表情も、普段浮かべている微笑ではなく、好奇心に彩られた笑顔を前面に出している。
「どうしてそう思ったの?」
柳咲弟がこの顔を見たら、今日一日で見慣れた、あの驚いた顔を見せるに違いないと思いながら、私は疑問を口にした。
夕食は、私、叔母さん、柳咲兄弟の4人で取ったが、私と柳咲弟の状況が分かる様な要素は一切無かったからだ。
何しろ柳咲弟の態度は2人でいた時とは明らかに違っていた。
2人でいた時は、私の振った話を上手く広げてくれたし、何より会話を楽しんでいるように見えた。それに対して夕食の時は、話を振っても簡潔な答えしか返さないし、楽しそうな雰囲気など微塵もなかった。
どう見ても進展なし。もしくはマイナスにしか見えないだろう。なぜ叔母さんの口から「仲良くなった」という言葉が出たのか全く理解できない。
「そうだね。……経験上の勘かな」
私の問いへの叔母さんの返答は実に簡潔なものだった。
粗雑に聞こえるかもしれないが、叔母さんは相手が真剣に聞けば、それ相応の対応をしてくれる人である。私は真剣に聞いたので、これは叔母さんの真剣な答えのはずだ。
また、叔母さんが決して嘘を吐かないことも、返答の信憑性を上げていた。事実、私が知っているだけでも叔母さんが嘘を吐いたことはないし、叔母さん自身が『嘘を吐かない事を信条にしている』と、公言していることもあった。
だから、口にしたからには嘘ではないのだろう。
まぁ、嘘を吐いていないからといって、真実を言っているとも限らないのが、叔母さんなのだが。
「そんなことより、シノちゃんは梗也君と彼方君のことで何か気付いたことはなかった?」
叔母さんは立ち上がりながら、クイズでも出す様にそう言った。
今日1日を振り返ってみたが、これと言って私の脳裏に浮かぶことはない。あえて挙げるなら、柳咲弟から柳咲兄に話しかけることが無かった、という点だろうか。
しかし、柳咲兄弟が一緒にいる所を2度しか見ていないので、偶々そうなった可能性もある。
私が俯きがちに思案していると、叔母さんは「まだ情報が足りないかな」と、言った。
叔母さんのこういう所が私はとても好きだ。無理に答えを急かしたりせず、納得いく答えを相手が出すまで待ってくれる。勿論、時と場合によるが、それでも可能な限りは時間を与えてくれた。
今回も、明日の夜までの宿題と言うことになった。
それだけあれば確信が取れるでしょう、というお墨付きで。
これが外れたことが無いのだから、叔母さんの洞察力には驚かされる。
ふと、経験上の勘とは、この洞察力に基づくものなのだろうかと思ったが、朝の様に大量に情報を与えられてはたまらないので、この疑問解消は次回に取って置くことにした。
私の考えを察したのか、叔母さんは「おやすみ」と挨拶をすると、苦笑を洩らしながら部屋を出て行った。