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平凡な私と可愛い彼、そして時々ファンタジー?  作者: 成露 草
第一章 兄弟と宿題、そして時々イカサマ
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ゴールデンウィーク 一日目 パート2

 柳咲兄弟は、タイプは違うが2人とも美形だった。

 兄の梗也は、サラサラとした黒髪に切れ長の黒い瞳を持ち、美男子、と言うよりも男前と言った顔立ちだ。身長も高くがっしりとしている。雰囲気も将来多くの人の上に立つ者らしいカリスマ性が感じられた。少し、叔母さんに似ているかもしれない。

 それに対して弟の彼方は、少し癖がある黒髪に大きめの黒い瞳の美少年だった。日本人版ビスクドールと言ったところだろうか。雰囲気は……よくわからない。ただ、浮かべられている微笑みにわずかにだが違和感を覚えた。

 柳咲兄は、私達が部屋に入ると、目元を和らげてソファーを勧めた。

 微笑みともいえないものだったが、それだけで雰囲気が和らいだように感じる。

 叔母さんと私が並んで座り、向かいに柳咲兄弟が座った。私の前は当然、柳咲弟だ。

「緋乃、仕事を引き受けてくれて助かった。礼を言う」

「梗也君からの頼みだからね。友情割引だよ」

 柳咲兄は叔母さんに向かって深く頭を下げた。

 なんだか重いな、と思ったが、叔母さんが微笑みながら返すと、今度は照れ臭そうに笑った。どうやら叔母さんと柳咲兄は友達らしい。

「あぁ、名取さんとは初対面だったな。俺は柳咲梗也、これは弟の柳咲彼方だ」

「は、はい。ご丁寧にありがとうございます。籠目さんの姪の名取紫信です。よろしくお願いします」

 叔母さんのおかげで美形には免疫がある方だが(武芸科の生徒は美形が多い。頭が良いと顔も良いのだろうか)、真剣な面持ちで見られると少々緊張してしまう。叔母さんは普段と変わらず微笑んでいたが、内心面白がっているだろうことが経験から分かった。

 柳咲弟の方は、これ、と柳咲兄に掌で示されたときに少し頭を下げただけで一言も発さなかった。

「初めに、仕事内容の確認をしておくか」

 柳咲兄はそういって、内容を大まかに話した。

 期間は2泊3日の旅行中。仕事内容は、叔母さんは柳咲兄の仕事の手伝い。私は柳咲弟の遊び相手と言ったものだった。

 仕事の手伝い、と言う言葉に疑問を感じて叔母さんを見ると「あとでね」と小声で返された。

 「問題はないか」という柳咲兄の言葉に叔母さんが頷いたので、私も同じように返す。柳咲弟の口元が一瞬、ピクリと動いたのが分かったが見なかったことにした。

 その後、早速仕事開始と言うことになり、叔母さんは柳咲兄と一緒に彼の仕事部屋に、私と柳咲弟はそのまま客室に残った。

 そして、部屋には沈黙が訪れた。

 まぁ、予想の範囲内だ。初対面なのだから空気が固いのは仕方がないだろう。

 だが叔母さん、なんで出て行くときに「後は若い人同士で」なんていったの! 柳咲兄も面白そうに笑ってたし! 叔母さんの友達と言うだけあって、武芸科の人達と反応が同じだ! 類友め!

 気まずさと苛立ちから紅茶を一気に飲み干した。

 私がふぅとため息を吐くと「大丈夫ですか?」と少年特有のソプラノが問いかけてきた。

 視線をティーカップから上げると、そこには相変わらず微笑んでいる柳咲弟がいた。

「うん。大丈夫。えっと、叔母さんがごめんね。冗談が好きな人で」

 私が苦笑気味にそういうと、柳咲弟は少し目を見開いた。

「それは知りませんでした。籠目さんには、兄さんの友人と言うことで何度かお会いしましたが、礼儀正しい、大人な人だったので。あのような冗談を言ったことにも驚きました」

 その言葉に今度は私が目を大きく見開いた。

「いやいや、叔母さんは確かに大人っぽいけど、冗談も言うし、悪戯なんかもよくやるよ?」

 叔母さんは、その辺の大人よりも大人で、本当に頼れる人だが、それと同時に私を、と言うより家族をからかって遊ぶ、子供の様な人だ。

 私の言葉を聞いた柳咲弟はますます驚いた顔をして「そうなのですか」と言い、また黙り込んでしまった。

「ええと、柳咲君は何か趣味とかあるの?」

 何とか場をつなげようとそう言った後、まずった、と思った。本当にお見合いの様になってしまっている!

「残念ながら趣味と呼べるようなものはありませんね。名取さんは?」

 だが柳咲弟はそのことに気付かなかったのか、そういうフリをしてくれたのかは分からないが、突っ込まないでくれた。

 それにしても無趣味なのか。なんだか意外だ。小学生ならカード集めとか言うかと思ったが、お金持ちは違うのだろうか。私の弟なんて、バトルカードとゲームが趣味だと胸を張って言っている中等部の1年生なのだが。

「私? 私は、そうだね。あえて言うならカードゲーム全般かな」

「カードゲーム、トランプが趣味ですか?」

 柳咲弟は驚いたように瞼を瞬かせた。

 柳咲弟はとても驚きやすいようだ。私が話すたびに驚いている。

「うん。トランプ以外にも、UNOとか花札もするよ。私の家族は集まるたびによくゲームをするの。それで一番多いのがカードゲームでね。でも私は毎回負けていて、悔しくて練習していたらいつの間にか趣味になってたの」

 それでも未だに、弟にしか勝てない事は言わないでおく。私の家族――叔母さんとか伯父さんとか従兄弟とか――が強すぎるのだ。私が弱いわけではない。従弟(8歳)に負けた時は本気で落ち込んだが。

「僕もトランプは得意な方ですよ。やる事もありませんし、やってみますか?」

 柳咲弟はそういうと机の上にあった、ファミレスにある様なボタンを押してメイドさんを呼び、トランプを持ってこさせた。

「ゲームは何にします?」

 柳咲弟はトランプを切りながら私に聞いた。

 切り方が上手い。得意だと言うだけあって、よくやっているようだ。

「じゃあ、ポーカーはどう?」

「いいですよ」

 こうして、私と柳咲弟の勝負の火ぶたは切られた。


   ***


「14勝負中14敗ですか。僕の完敗です。……ですが、6回もストレートフラッシュが出るなんておかしくないですか?」

 メイドさんに入れて貰った紅茶を飲む私を軽く睨みながら、柳咲弟はそう告げた。

「うん。イカサマしてるからね」

 特に隠す理由もないので、軽く言った。

 私のこの答えに柳咲弟は信じられない、と言った顔をした。

 叔母さんは柳咲弟が猫を被っていると言っていたが、本当だろうか。思いっきり素な気がする。ゲームをしているうちに猫を被るのを忘れたのだろうか。……これが、私が子供っぽいという理由で素を出しているのだったら許さないぞ、柳咲弟。

「それって、ズルじゃないですか」

「でも、気付かなかったよね」

「バレなければ良いという考えは間違いでは?」

「残念ながら我が家のゲームはそれでいいのよ」

 我が家ではトランプに限らず、勝負事でイカサマをするのは普通のことだ。皆、当然の顔をしてイカサマをする。騙される方が悪い、と言うのが我が家の考え方なのだ。因みに、イカサマが見つかると見つけた人の言うことを1つ聞かなければならないという罰ゲーム付きである。

 イカサマを覚えたての頃はすぐにバレて、よく使いっ走りにされたものだ。今では、3回に1回までに減った。

 私がしみじみと我が家のゲーム事情を語ると、柳咲弟は一言「凄い家族ですね」と言った。

 その声色は、私と同じくらいしみじみとしていた。

「うん。あの中にいると、私がどれだけ平凡かがわかるよ」

「いえ、十分平凡ではないと思います」

 失礼な! 私が平凡でなかったら、私の家族は何だと言うのだ! と、言いたかったが、柳咲弟がとても疲れている様に見えたので、空気を読んで言うのは止めておいた。


   ***


 その後は、トランプを含めた色々なゲームのイカサマの方法を教えたり、自分達の家族の話をしたりして過ごした。

 家族の話に関しては、私が話し、柳咲弟が突っ込む、と言った感じだったが、とても楽しかった。

 柳咲弟も笑っていたし、楽しんでいたと思う。

 お昼ご飯も私と柳咲弟で食べた。叔母さんと柳咲兄は、仕事に区切りがつかないので軽食で済ませたそうだ。

 会話にも詰まらなくなったし、1日目にしては上々だとと思う。

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