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平凡な私と可愛い彼、そして時々ファンタジー?  作者: 成露 草
第二章 日常と携帯、そして時々デート
17/19

日常とメール

――ビビビビビ ビビビビビ

 ポケットから伝わる振動に私は視線をやった。飲んでいたイチゴオレのパックを机に置き、携帯電話を取り出す。未だに二つ折りのままの携帯電話は、私が手首を振るとカチリと言う音を立てて開いた。トップに表示されていたメールの受信表示を押す。


[from:彼方君 Sub:こんにちは

 今日のお昼は学食で食べました。サンドイッチです。食べながら友人とトランプをしましたが、友人の1人にイカサマがバレてしましました。僕も友人のイカサマを見破ったのでお相子ですけどね]


 なんとも平和なメールの内容に、私は深く内容を考えることなく返事を作成する。


[To:名取紫信 Sub:Re:こんにちは

 私はお弁当を食べ終わって、イチゴオレを飲んでいるところ。彼方君も友人君たちもイカサマが随分上達したみたいだね]


 メールを送信し、携帯を閉じる。再びイチゴオレを手に持ち視線を上げると、友人がじっと私の事を見ていた。

「やっぱり男でしょ」

 友人の三津宮由梨ミツミヤユリはポッキーを口に運びながらニヤリと笑う。

 由梨は染めた茶髪を完璧にセットし、化粧もばっちり決めている。

「着けまつげは2枚付けが基本!」と断言する彼女は、良く言えばオシャレな女子高生、悪く言えばギャルだ。

 由梨の邪推に呆れた顔で「違うよ」と言う。この会話は一体何度目だろうか。毎日の様にしている気がする。そして毎度の様に心の中で、男じゃなくて男の子だもの、と付け足した。

「ふぅん…。まぁ、いいや。それより、この服どう思う?」

 由梨は机の上に置いてあるファッション雑誌を私の方に押しやりながら言った。彼女はかなり気移りしやすい性格をしていて、話の内容はコロコロ変わる。真剣な話をしている時は困るが、こういう時には大いに助かった。

 肩が全て出るタイプの洋服を指で示す彼女に「由梨なら似合うと思うよ」と言った後、私は窓の外に視線をやった。

 入道雲の合間を縫って顔を出す太陽は、窓から見える石畳を容赦なく焼いている。

 季節はすっかり夏に変わった。ゴールデンウィークからすでに一月近く日が経っていた。

 柳咲弟には失礼かもしれないが、実の所、私は彼から連絡が来ることは無いだろうと思っていた。例え来たとしても、長くても二週間かそこらで連絡は途切れると考えていたのだ。ところが実際は、毎日の様に連絡が来る。朝の「おはようございます」メールに始まり、夜の「おやすみなさい」電話に終わる。向こうも暇ではない様で、メール量は日によって変動するが、朝と夜の連絡は今のところ休みなく届く。

 別に嫌ではないが、一時は友人がいないのではないかと無駄な心配もしてしまった。

 本人に聞くことは流石に出来なかったので、寮に帰ってから叔母さんにそれとなくメールで聞いてみたところ、五分後にはA4用紙10枚分の資料がパソコンに送られてきた。それには写真も添付されており、柳咲弟が学校でどれほど人気なのかが一目で解った。柳咲弟は世渡りが上手そうだと何となく思っていたが、その感は当たったようだ。

……どうでもよい事だが、その資料を見て、罪悪感どころか違和感さえ覚えなかった自分に「いつの間にこんなに毒された?」と呟いたのは今でも苦い記憶である。

 そんな訳で、友人がいないなどの理由から連絡がくるのではないと分かった。

 だが、そうなると自分に連絡をくれる意味が分からない。友人がいるなら彼らと話せば良いし、年上のお姉さんと話したいと言う理由なら――柳咲弟に限ってそれはなさそうだが――叔母さんに相手をしてもらった方がずっと有意義そうだ。

 まぁ、柳咲弟とのメールや電話は不快ではないし、どうでもよい日常会話は寧ろのんびりとした空気感が楽しいと言えなくもない。

 再び携帯電話が振動し、メールの受信を主張する。

 由梨が「今週の日曜日に一緒に買い物に行こう」と言うのに「いいよ」と返事をしながら、私は再び携帯電話に手を伸ばした。

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