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平凡な私と可愛い彼、そして時々ファンタジー?  作者: 成露 草
第一章 兄弟と宿題、そして時々イカサマ
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ゴールデンウィーク 二日目 パート4

途中から柳咲弟の視点になります(●^-^●)

「綺麗」

 湖を見た私の感想はこれに尽きた。

 澄んだ水は空と緑を写し、まるで鏡の様になっている。そこに太陽の光が差し込み幻想的な光景を作り出していた。

「ここはおじい様がおばあ様の為に買い取った場所なんです。おばあ様は自然が好きで、よくここでスケッチをしたり乗馬をしたりしていたそうです」

 柳咲弟は私の短い感想でも十分満足したようで、目を細めながらそう言った。その表情は穏やかで、とても絵になっている。

 その光景に私は、柳咲弟って本当に美少年なんだな、としみじみと思った。

「向こうにちょうどいい木陰があるんです。そちらに行きましょう」

「わかった」

 湖のそばをゆっくりと歩きながら私達は木陰に向かう。木陰はすぐ近くにあった。楠、だろうか? とても大きな木は枝を湖にまで伸ばしている。風に吹かれて爽々(さわさわ)と音を奏でる木はとても優しそうに感じられた。

「紫信さん。掴まってください」

 馬上から木を見つめる私にすでに降りていた柳咲弟が言う。

 私の肩ほどまでしか身長がない柳咲弟を馬上から見ると、改めて子供なのだなと思った。

「ありがとう」

 断るのは悪いと思い、体重をかけないように気を付けながら手を重ねる。半ば飛び降りる様に下馬した。

 私の気遣いに気付いたのだろうか。柳咲弟は降りた私を見て微妙な表情を浮かべた。

 しかしそれは一瞬のことで、次の瞬間には表情を笑顔に変える。そして「疲れたでしょう? お茶でも飲みませんか?」と言った。

 私もあえて突っ込むようなことはせず「そうだね」と言い、シートを敷くのを手伝う。

「なんだか何時もよりお茶が美味しい気がする」

 紅茶の入った水筒のカップを片手に私は言った。思わず暖かい溜息が出る。

「そうですね。お天気もいいですし、とても気持ちがいいです」

 柳咲弟も視線を遠くに遣りながら私と同じような溜息を吐いた。

 のんびりとした空気が流れる。

 実は、ピクニックを楽しみながらさり気無く話を聞くのもありかと思っていたのだが、この雰囲気を壊すのは勿体ないと思い結局そのことについて口を開くのはやめた。


   ***


 湖を見ながら表情を柔らかくする紫信さんを見て、僕も同じように表情を緩めた。本当はもう少しその表情を見ていたかったが、紫信さんがこちらを見たので慌てて湖の方向に視線を移す。視線が自分に向いているのがなんとなく分かり、なんだか不思議な気分になった。

 初対面の紫信さんの印象は『少し落ち着いてはいるけど普通の女子高生』と言う感じだった。

 だけどその印象はすぐに変わる。トランプでイカサマをしても平気でいる所や兄さんや僕の容姿に気を取られない所は明らかに普通ではないだろう。

 でも一番印象に残っているのはあの目だ。これは紫信さんの叔母で兄さんの友人である籠目さんにも言えることだが二人は独特の目をしていると思う。二人とも人の深層にある本性を見つめる様な深い目をしていると僕は感じた。

 けれど怖さを感じさせないその目はいつも優しい気がする。

 そして紫信さんは籠目さんよりも暖かい雰囲気があるように僕には思えた。決して籠目さんが冷たいとかいうことではない。籠目さんが僕たち兄弟のことを気遣ってくれているのは知っていた。僕に直接そのことについて聞いてくることはなかったが言葉の端々にそんな雰囲気があるのだ。

 はっきりとした違いは言えない。なんと言うか、籠目さんと紫信さんでは暖かさの種類が違う気がする。籠目さんが春の日差しなら紫信さんは木漏れ日だろうか? 直接的な暖かさはないが優しい熱、見つめても眩しさのない柔らかさが紫信さんに似ている気がした。

 他人の前で泣くことなんてない、と言うか泣くことが滅多に無い僕が泣いてしまったのも紫信さんの雰囲気が原因だと思う。あんな暖かい目で笑いかけられたら、誰だって縋り付きたくなるはずだ。

 だけどまさか泣きそうになった子供ぼくを慰めることもせず手を握り続けるとは思わなかった。

 ……でも、何もせず、何も言わず、ただ手を握って貰うことは自分の全てを肯定されている様でとても暖かかったのだ。泣かせない、と言う意味では逆効果だったが、嬉しかった。

 手を伸ばせば触れられる位置にいる紫信さんをこっそりと覗き見る。なんだか泣きたい様な不思議な気持ちになったが吐息と共に吐き出した。

 以前に籠目さんが「本当に好きな人が出来ると悲しすぎて笑っちゃったり、幸せすぎて泣いたりするんだよ」と言っていたことがふと脳裏をよぎった。

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