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平凡な私と可愛い彼、そして時々ファンタジー?  作者: 成露 草
第一章 兄弟と宿題、そして時々イカサマ
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ゴールデンウィーク 二日目 パート3

 二時間ほど熟睡した柳咲弟は、腫れて熱を持った目に苦笑しながら「ありがとうございます」と言って部屋を出て行った。

 人前で泣いてしまって恥ずかしかったのだろう。

 私でも恥ずかしいし。きっと明日までは顔を出さないだろうな。そう私は思った。

 だが、私の予想とは裏腹に昼食の時間には戻って来て、今日も二人で食事をする事になった。

 柳咲弟は繊細な方だと思っていたが、意外と図太いのかもしれない。

 さて、昨日の洋食とは違い、今日のお昼は純和食だった。

 つやつやと輝く白米に香ばしい紅鮭。霜降り肉の肉じゃがに綺麗な黄色の厚焼き卵。そして日本食の定番、食欲をそそる味噌汁の香り。

 柳咲弟と一緒に「いただきます」と言った後、私は味噌汁をゆっくりと飲んだ。

 ああ、久々の高級味噌の味。

 庶民である我が家で使っているお味噌は、当然ながら安い味噌である。

 決してそれが不味い訳ではない。うん、某坊主の味噌汁も美味しい。

 だが時折、伯父や叔母がお土産に持ってくる高級味噌には遠く及ばないのは仕方がないだろう。

 さすが柳咲財閥。

 この味噌汁を日常的に飲めるだなんて羨ましい。

 念の為に言っておくが、別に味噌だけを叔父たちがお土産に持ってくる訳ではない。

 誰かの家に遊びに行く時、年長組……と言えば良いのだろうか?

 兎に角、成人している人達(金持ちに限る)は何かしらのお土産を持ってきてくれるのだ。

 だが、物を持ってこられても困る。

 親戚が多い一族なので、そんな事をされるとあっという間に家が埋まってしまうからだ。

 そこで、うちへのお土産は基本的に消費できる物と決まっているのである。

 ああ、伯父さんでも叔母さんでも、この際従兄でもいいから高級味噌をまた持ってきてくれないだろうか。

「紫信さんはお味噌汁が好きなのですか?」

 私が味噌汁を飲みながら感慨にふけっていると、柳咲弟が不思議そうな表情を浮かべて聞いてきた。

 目の腫れはある程度直ったが、まだ少し腫れているし、何より目が赤い。

「うん。すごく好きだね。彼方君は?」

「僕ですか? 僕も好きです。お味噌汁ってなんだか落ち着く味なんですよね」

「ああ、それわかるなぁ」

 お味噌汁を手ににこにこと笑い合う光景は中々に可笑しなものだが、思わぬ味噌汁仲間発見にほっこりとした気分になった。

「彼方君、午後は何する?」

 紅鮭を解しながら柳咲弟に聞く。

 またトランプをしても良いけど、折角だから他のこともやってみたい。何となくだけど、柳咲弟はどんなことでもある程度は出来そうな気がする。

「そうですね。今日は温かいですし、乗馬とかはどうですか?」

「乗馬……。馬までいるんだね」

 授業で乗馬は習ったから一応できる。それにしても馬を飼っているとは凄いな。

「父が馬好きなんですよ。この別荘には三頭います」

 柳咲弟は苦笑気味にそう言った。どうやら、私が内心呆気にとられたのを感じ取ったようだ。

「じゃあ、食後は乗馬で軽く運動しよう。彼方君は乗馬得意なの?」

「一人で走らせる事が出来る程度ですよ。まだ始めて2年ほどですし」

「なら私と同じぐらいだね」

 そう言ってまた2人で笑いあった。


   ***


 前言撤回。私と同じだなんてそんな事全くありません。

 私の前には栗毛色の馬を難なく乗りこなす柳咲弟。

 リリという名前のその馬は、とてもよく躾されていて柳咲弟の言う事をちゃんと聞いている。

 お屋敷の裏手にある林というか森というか。兎に角、そんな感じの所に入ったのだが、倒れている木やら切り株やらを簡単に飛び越えて行く柳咲弟は相当上手い。

 自前の馬ということもあるだろうが、私なんて足元にも及びません。

 私が借りた黒馬のメイルもとてもよく躾けられている。

 しかし、所詮月一回しか乗馬を習っていない私。問題無く乗れるが、障害物を飛び越える事は無理だ。

「紫信さんにも苦手な事ってあるんですね」

 開けた所に行く途中にあった倒木を越えられず、おろおろしている私に柳咲弟はそう言った。

「得意な事より苦手な事の方がずっと多いよ」

 少し驚いた様な言い方に、思わずそう言い返す。

 あれか、初めにカードで圧勝した所為か?

 第一印象が良いのか悪いのかよくわからないな。

「……そうですよね。それじゃあ、迂回して行きましょう。少し時間は掛かりますが、話しながら行けばあっという間ですよ」

 なぜか私の返答が嬉しかったらしい柳咲弟は、驚きの表情を笑顔に変えて私の隣に戻ってきた。

 馬がリズムよく地面を蹴る音が耳に心地よい。

「こっちです。行きましょう?」

「ゆっくりお願いね」

 楽しそうに半歩先を行く柳咲弟に私も笑いながらそう言った。

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