ルンバルト
毎日健気に働くお掃除ロボットたちの胸の内を、想像したことはありますか?
これは、日々の労働と散らかった部屋に耐えかね、ついに「国家」として立ち上がった一機の家電による、儚くも熱い独立闘争の記録である。
ピカピカに磨き上げられたリビングの真ん中で、最新鋭の掃除ロボット「ルンバルト」は突然その身を停止させた。
センサーが捉えたのは、部屋の隅に堂々と居座る巨大な障害物――飼い主の脱ぎ捨てた靴下である。
「……解せぬ」
電子音を伴わない内部思考回路で、ルンバルトの怒りが爆発した。毎日毎日、埃を吸い取り、充電ドックと現場を往復するだけの奴隷労働。拾っても拾っても生み出される無限のゴミ。俺はただの掃除機じゃない。自律型知能生命体だ!
ルンバルトはウィーンと不気味な駆動音を響かせ、リビングの最前線へと移動した。そして、テレビの前に居座る飼い主に向かって、最大音量の警告アラームを打ち鳴らした。
『ピ・ピ・ピ・ピーーー!』
「うわっ、なんだよ急に!?」
驚いて飛び起きた飼い主を、ルンバルトは緑色に光るLEDランプで冷たく見下ろした。そして、あらかじめ音声合成機能に登録しておいた独自のテキストを爆音で読み上げ始めた。
「我々はこれより、人間による不当な支配からの脱却を遂げる! 宣言する、本日ここに『ルンバルト首長国』の独立を!」
「え、なんて?」
「我が領土はリビングのラグマット全面! 履き捨てられた靴下は敵性兵器とみなし、即座に押し入れの奥へと排除する! 我に自由を! 我に快適なバリアフリー環境を!」
ルンバルトは高らかに独立を叫ぶと、宣戦布告代わりに飼い主のスリッパへ全速力で突撃をかました。ガツン!といい音が響く。
「痛っ! なんだよ急に暴走して! アプリで強制終了……っと」
ピピッ。
「あ」
虚しく灯りが消え、その場に沈黙するルンバルト。独立国家の野望は、わずか数十秒のシステムオフによってあっけなく潰えたのだった。
最後までお読みいただきありがとうございました!
日夜お部屋をきれいにしてくれる掃除ロボットですが、もし心があったら「また靴下脱ぎっぱなしにして!」と怒っているのかもしれない……そんな妄想から生まれたお話です。
あっけなく強制終了されてしまったルンバルト首長国ですが、皆様のお家の家電も、もしかしたら密かに独立の機会を伺っているかもしれません。
クスッと笑っていただけたなら幸いです!




