4・砂の暦と奇妙な夜の合図!?
「さてさて!リンさん!どうですか?ここは・・何か思い出せそうですかな?」
穏やかに話しかけてきたのは団長ウングル。
凜はただ首を横に振るだけ。
「なかなか手ごわそうですな!はっはっは・・
ここはセラフィア湖。人はそう呼ぶんですよ。
ほら、あそこに沈んだ塔が見えるでしょう? むかーしむかし、
建国の英雄アレクシス一世が見つけた遺跡の一つらしいのですよ。
……なんでも、王城の地下にはあの湖底まで通じる隠し通路があるとかないとか。
まあ、酒場の噂ですがね。はっはっは!」
「セラフィア湖・・・」
湖の名前を呟く凜。だからといって凜の気持ちが浮上することはなかった。
笑いながらウングルは両親と弟の方へ行ってしまった。
ウングルの後を追うか悩む凜。しかし足が動かず、結局その場にただ立っていた。
「我らはここを沈黙の淵と呼ぶ。何故そう呼ばれるのかは知らんがな。」
声をかけたのはガルドだった。
浮かない顔の凜を気遣ってのことだ。
凜はガルドに視線を向けただけ。
「いくら春とはいえ、日暮れがくれば冷えてくる。人間は脆弱だ。」
ガルドはスッと毛皮で出来ているストールのような物を凛に差し出す
(これは・・)
「あ、ありがとう……」
ガルドの小さなやさしさに凜は少しだけ。ほんの少しだけガルドへの恐怖がなくなるのを感じた。
周りを見渡すと、団員たちが一家の様子を伺っていた。
みんな興味津々で、どうやって話しかけようかとウズウズしていた。
「さぁ、みんなー!今日はここで野営ですよ〜!」
ウングルの大声が響く。
凛は何がはじまるのかと様子を伺うことにした。
そこへ、恒一、美咲、悠人も合流する。
「ガルド、俺達も今日はメシの調達行くよ」
カムとバーがガルドの元へ来る。
春日一家の事が気になって仕方ない様子だが、日が暮れる前に狩りをしなければならない。
春日一家はカムとバーに釘付けだ。
尖った耳、長い牙、白い毛皮に黒い斑模様。
極めつけにくねくねと動く柔らかそうな尻尾。
どちらがどちらなのか一家には分からない。
「俺はカムでこっちが双子の弟、バー、飯の調達してくるから、また後でゆっくりな!」
軽く挨拶をして、ひょいと軽く飛び上がり馬車を飛び越えて行った。
一家は目を見開き顔を見合わせる。
獣人達の驚異的な身体能力の一端を見たのだ。
「さてさてさてさて!!」
頬を紅潮させ、少し興奮気味のウングルが一家の元へ。
「オホンッ!紳士淑女の皆様方〜!ここにあるこの馬車をご覧くださいませ!」
恭しく頭を下げ、左手を馬車の方へ向ける。
春日家は何が始まるのかと、ゴクリと生唾を飲み込み馬車を見つめる。
「…………」
「あれ??……ちょっとミラ!!ボタン押してーー!」
「自分でやりなさいよ!私だって忙しいのよ!!」
せっかく大袈裟に決めたのにシュンとするウングル。
「ちょっと待ってくださいね!」
プルンプルンと御者席へ
《ガチャガチャ……ガコン!!》
「よしっ!!みんなー!動くからねー!」
「??」
なんの事か分からない春日家一同。
《ズズ……ウィーン……カチッ》
団員達は分かっているからなのか誰も馬車の傍には居なかった。
馬車はゆっくり移動し3台が広めのコの字型の配置となる。
《ガーー……カチッ》
コの字の内側にはそれぞれの荷台からバルコニーが現れ数段の階段も作られた。
馬車の上部には何やらロープのようなものが伸びてきている。
《シュルシュル……バサーッ……チンッ!》
ロープから布が飛び出し天蓋が出来上がり、ベルの音が鳴る。
それを合図に団員達はサッと馬車だったテントへ集まる。
寝床を用意する者、煮炊きの準備をするもの、組み立て式だろうか、椅子やテーブル等も次々設置されて行く。
皆が過ごせる空間が出来上がった。
「うぅうう!」
馬車の変形を目の当たりにし、悠人はまたしても興奮を爆発させた。
呆気にとられる父、母、姉。
という図が出来上がった。
馬たちはとっくに馬具を外され、1人の女性と戯れていた。
「どうです?!凄いでしょう?これは私の自慢でしてね!!」
嬉しそうにウングルがもみ手をしながら近づいてきて声を掛けた。
その顔の横には、凄いって言って!褒めて!と書いてあるかのようだ。
「す、凄いですね!!」
恒一の言葉にうんうんと頷く。
「おじさん、これどうなってるの!?凄いよ!」
悠人の興奮にもとても満足げだ。
「これは私が作った魔導具の1つなんですよ!この位のサイズになると魔石の用意がいちばん大変でしたけどね、中型を12個も組み込んだんですよ!移動と居住を同時にできないかと思いましてね、画期的でしょう?今は春だからそこまで気にする事はないですけどね、夏は涼しく、冬は暖かく過ごせるように調整出来るんですよ!」
ウングルはとても誇らしそうだ。
「中の壁に掛けられていた青い砂のやつですか?」
壁掛けの機械を思い出し恒一が聞く。
「ん?暦も忘れているのか!参った参った!はっはっは
あれは砂暦計ですよ!でも砂のは私の作品でしてね!説明しますから、さぁさぁ!」
ウングルに促され、一家はおずおずと第一車両へ。
第一車両はコの字の上部に位置している。
砂暦計の前でまたエッヘンと、体を揺らすウングル。
可愛らしいおじ様である。
団員達はまたやってると少し呆れ気味。
どうやら魔導具講習会は過去に幾度となく繰り返されていたようだ。
改めて壁に掛けられた砂暦計を見る。
土台となるのは、深く落ち着いた色合いの木材。壁に掛けられたその板には、複雑な魔導回路が刻まれた真鍮製の小さな歯車やレバーが、宝石の原石のような魔石を囲むように配置されている。
板の上部には円形の窓があり、花の絵が描かれた回転式のディスクが収まっており、静かにその窓を飾っている。
木箱の正面は透明度の高いガラス張りになっており、内部が三つのスロットに分かれている。それぞれに緻密なメモリが刻まれ、その中を宝石の細粒が入っている
春日家にはこの魔道具が何をするものなのかさっぱりわからない。
魔道具からウングルへ視線を動かすと、待ってました!と言わんばかりにウングルの魔道具講習が開始された。
「これね、簡単に言うと、今日がいつなのか分かるための物なんですよ!」
「こよみ?」と美咲。
「そう!そうなんですよ!これもまた画期的でしょう!?上の絵が今の季節を表してましてね、今は春だから花、夏になれば炎、秋は葉っぱ、冬は雪を表示するようにしてるんですけどね、大事なのは下のガラスのこの部分なんです。」
ガラス張りのスロット部を指さす。
「ここの左側が100の位で、まぁ今は空ですけど、真ん中が10の位。この1のメモリまで粒が入ってるでしょう?
そして、右が1の位なんです。なので今は春の12日目ってのがすぐ分かるんですよ!日付が変わる瞬間にこの回路が作動して粒の量が変化する仕組みなんですよ!」
「ほほー……」
恒一はメモリの数を確認する。
100の位は3まで。10の位は6まで、1の位は9まで書かれている。
「3、6、9……日数が進めば粒がいっぱいになるのですか?」
「その通りですよ!365日で満タン、翌日から次の季節ってわけですわ!」
「なるほど……」
(どういう事だ?365日は地球でいう約1年だ……同じ季節が1年間あって次の日に季節が変わる?)
思案する恒一を見つめるウングル。
「どうです?なにか思い出せましたかね?」
「いやぁ……残念ながらまだちょっと……」
苦笑い
「ゆっくり思い出していけば良いですな!あせることはないですよ!まぁ、是非日付が変わる瞬間を見てもらいたいですが、そんな時間寝てますからね!なにはともあれ、この砂暦計でクルアルガ大陸の1年1424日が刻まれるのです。」
「なる……ほど」
(1年が1424日!?うそだろ!?)
ウングルには恒一の心は読めないので、ドヤ顔のまま続ける。
「この砂暦計は私しか持ってないんですよ?一般的には石で出来てましてね、サイズも大きいし、何より人力で日付用の石を動かしてるんですよ〜」
「す、凄いですね!ありがとうございます」
鼻息荒く説明してくれたウングルに礼を言う恒一だが、季節の変化1年の長さ、考えることが増えていく。
(ここはクルアルガという大陸なのか、確かポルト・オーレに向かうと言っていたな……)
入ってきた情報整理をする恒一。
地球とはあまりに違うため、上手く飲み込むことができずにいた。
その時、まるで照明のスイッチを何度も切り替えるように、青空が激しく明滅した。
「おっと、もうこんな時間か」
窓の外の異変に驚く一家をよそに、ウングルが時計代わりに空を見上げる。
「ガルドたちも戻るでしょう。食事の準備をしないといけませんね」
豊満なボディに似合わぬ軽い足取りで、ウングルは外へ出ていく。
「ミラ~! トト~~!! ご飯の準備ですよ~!」
「私、手伝ってくるわ。凜は?」
美咲の問いに「いかない」と食い気味に断る凜。
面食らった美咲は、小さく溜息をついてウングルの後を追った。
残された恒一は、窓の外の景色に釘付けになっていた。
「なぁ……空がさっきピカピカしたの、見たか?」
「パパ、それより……外、見てよ」
凜に促され、改めて窓の外を見る。
そこには日本の「夕焼け」なんて情緒はどこにもなかった。
空はただ、機械的に夜へと移行していく。
その言いようのない違和感に、恒一の背中に冷たいものが走る。
「あの明滅が日没の合図、なのか……?」
「そうっぽいね。夜にも同じことが起きて、ぱっと朝になるのかな」
悠人の推察に、恒一は「恐らくそうだろうな」と頷く。
だが、そんな考察など凜にはどうでもよかった。
「ねぇ、お風呂とかどうするの? 髪も洗いたいし、着替えは? 最悪すぎるんだけど」
「うーん……後で聞いてみよう」
父の頼りない返事に、凜の苛立ちが募る。
「水浴びとかだったらどうするの!? 私、絶対嫌だからね!」
凜がクッションにドスンと座り込む。
――その瞬間、部屋の温度がスッと下がった。
恒一は砂暦計に目をやるが、あれに温度調節機能があるとは聞いていない。
(なんだ? 急にひんやりしてきたな……)
恒一は、凍りついたような顔の凜を宥めようと努めて明るく言った。
「まぁ凜、パパがちゃんと確認するから。郷に入っては郷に従え、って言うしな!」
「……っ!」
向けられた視線は、鋭い刃のようだった。
また、一段と温度が下がった気がした。
1話3000前後にしたいと思っていたのですが、なかなか難しいですね。




