第3話 それを知ってはいけなかった
……なあ」
沈黙に耐えきれず、
誰かが口を開いた。
「天間、
本当に……死んだのか?」
豪華な客室。
柔らかいベッド。
温かい食事。
勇者候補として
厚遇されているはずの空間なのに、
空気は重かった。
答えられる者はいない。
処刑台。
黒い影。
空を覆った“夜”。
誰もが、
あれが現実だったと理解していた。
⸻
「……黒龍だったよな」
剣道全国大会出場者、
勇者候補――高橋剣聖が低く呟く。
「伝承級の……
いや、禁忌級だ」
その言葉に、
クラスメイトたちの顔色が変わる。
「禁忌って……
つまり、ヤバいやつ?」
軽く言った黒川の声は、
途中で震えた。
⸻
「……調べました」
そう言って、
机の上に一冊の本を置いたのは
賢者候補――久遠沙羅だった。
分厚い黒い表紙。
文字は読めない。
「王国禁書庫・
最奥封印指定文書です」
「ちょっと待て、
それ俺たちが見ていいやつか?」
「……もう遅いです」
久遠は、
淡々と言った。
「黒龍を目視した時点で、
私たちは“関係者”です」
誰も、反論できなかった。
⸻
ページが開かれた瞬間、
部屋の空気が、
目に見えて冷えた。
そこに記されていたのは――
四つの名。
⸻
第一四天王
アルス・クロイツ
魔王に向けられた
あらゆる攻撃・現象・因果を無効化。
「……無効化?」
「勇者でも……届かないってことか?」
高橋は、
無意識に拳を握った。
⸻
第二四天王
リリス・アウレリア
世界中すべての魔導書を管理。
魔力、無限。
「無限……?」
誰かが、
乾いた笑いを漏らした。
「勝ち負けの話じゃないだろ……」
⸻
第三四天王
ガルド・バルバロス
能力なし。
ただ強く、ただ固く、ただ速い。
絶対不倒。
「……能力、ない?」
田辺が、
呆然と呟く。
「それ……
一番対策できないやつだ……」
⸻
第四四天王
ニエル・ノワール
久遠の指が、
そこで止まった。
黒の雫。
半径二キロ、焼却。
不倶戴天。
敵が消えるまで、終わらない。
沈黙。
誰も、
声を出せなかった。
⸻
禁忌一覧の最終ページ。
そこには、
たった一行だけ書かれていた。
四天王が存在する限り、
魔王が前に出る必要はない。
「……なあ」
誰かが、
掠れた声で言った。
「俺たち……
何を、しようとしてた?」
答えは、
全員が分かっている。
切り捨てた。
怖かったから。
自分たちを守るために。
その時、
王国の使者が部屋に入ってきた。
「魔王城より、
正式な声明が届きました」
「声明?」
使者は、
震える声で読み上げる。
「――魔王は、
敵対の意思なし」
「――ただし、
魔王に危害を加える行為は、
敵対と見なす」
黒川の顔が、
一気に青ざめた。
誰もが思い出した。
処刑台で言った言葉。
切り捨てた視線。
久遠が、
静かに告げる。
「……私たちは、
まだ無事なだけです」
「魔王が、
敵と認識していないから」
その言葉が、
何よりも怖かった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
次話は魔王城の日常回になります。




