7話:鍵を閉める
「……すみません、お父様。遅くなりました」
そう言いながら電話に出る。
「今、大丈夫か?」
「……はい。周りに誰もいません」
「そうか。なら本題だが、最近お前の学校の付近で事件が多くてな。
どうやら術を使う霊がいるらしい。すでに何人か被害にあってるようだ。早めに処理を頼む」
「……はい。分かり、ました。終わったら報告します」
それだけ言い残して電話を切る。
……何処までいっても私は、人形でしかない。
あ〜あ。私はただ、二人と一緒に毎日を過ごしたいだけなのになぁ。
何でかなぁ。こう上手くいかないのは。
目に涙が浮かぶ。
最近はこうした呼び出しが無くなっていたから、油断していた。
でも結局のところ、私は人形。その運命からは逃れられないのだ。
ギュッ、と強く胸元を握りしめて──ガチャン、と心の鍵を閉める。
すっと視界が冴えわたる。
余分な考えが消えた。
「……さて、ちゃちゃっとやりますか」
それから私は、学校の周辺を歩いた。
霊の気配は近ければ嫌でも分かる。
だから見つかるまで、歩けばいい。
サラサラと風に揺られて、花びらを散らす桜の木が見えた。
「あなたも私と同じように空っぽなのかな?それとも、何かあるの……かな?」
軽く木肌に触れて、独り言を呟く。
「ねぇ、そこの人。死にたいなら殺してあげようか?」
後ろから女の声。
振り向くと、空中に浮いている大人の女がいた。
「最近噂になっている霊って、あなたのことでいいの?」
「あれ?そんなに有名になってるんだ。なんかちょっとだけ嬉しいな」
ニヤつく霊を見て、私は何も言わずに制服の後ろから刀を抜いた。
──斬る。
不意打ちの一閃は、女の霊の片手を斬り飛ばした。
「えっ?あれっ!?」
少し遅れて、自分が斬られたことに気づく女の霊。
霊は物理をすり抜ける。
……けど、霊力を通した刃は違う。
「……っ!」
女の霊の顔が歪む。
「……よくも、よくも私の腕をっ!!」
「殺す!殺してやるっ!!」
ブワッ、と女の霊の手から焔が溢れ出す。
「死ねっ!」
迫りくる焔は、私に触れる直前──女の霊の方へと帰っていった。
「うぎゃぁぁっ!! 熱いっ!! 熱いぃ〜!!」
霊は本来痛みは感じない。
……でも、実際に自分が傷ついたと理解した瞬間だけは、話が別だ。
「残念だけど、私に焔は効かないんだよね」
必死に火を消そうとして暴れる女の霊に向かって、淡々と言う。
「安心して。私は別に、無意味にあなたを苦しめるために来たんじゃないから。
今のは、あなたが反抗しないようにしただけ。何もしないなら、これ以上苦しめることはないよ」
優しい声でそう言いながら、近付く。
「謝るっ!謝るからっ!もうしないって約束するからっ!」
怯えながら必死に言う女の霊。
「……謝っても、あなたの殺した人は帰ってこないよ」
そして、もう一つ。
「それに、嘘はいけないよ?私には分かるからね。あなたが嘘つきなのは」
見慣れた命乞い。
……どうでもいい。早く終わらせよう。
普段から隠し持っている緋色の扇子に指を掛けた、そのとき。
「ちょっと待てよ」
男の声がした。




