38話:ねぇお母様
「席につけ〜」
ガラガラ、と教室に先生が入ってくる。
出席数稼ぎでしかない私は教科書とノートを開くだけ開いてぼ〜っと外を眺める。
外では授業でサッカーをしているようだ。
ああしてるだけなら普通の高校生なんだけとなぁ…。
ふと横を見ると欠伸を噛み殺してる天宮が見えた。
どうやら私と同じように出席日数稼ぎっぽい。
ノート取ってないし、面倒くさそうに頬杖してるし。
特にすることもなくぼ〜っとしてると眠たくなってくる。
変な夢をみたし、昨日の疲れがちゃんととれてないのだろう。
それに、春の陽気はとてもポカポカしていて気持ちいい。
窓際の席のせいで心地よい暖かさが眠気を増進させてくる。
......眠いで思い出したけどシエスタ、あの子の言っていた本当の犯人、あれはどういうことなのだろうか?
そんなことを思いながらゆっくりと夢の世界へと落ちていく…。
ある山奥、人気もなく、知る人ぞ知る秘密の場所。
色とりどりの花が咲いていて思わず目を奪われる。
「さて、今日も舞桜の舞、見せてもらおうかな?」
私と手を繋いでいたお母様がにっこりと優しく笑う。
「はい。お母様」
「もう、家族なんだから敬語は必要ないって言ってるのに」
「癖、ですから…」
淡々とそう言葉を紡ぐ私を見て少し悲しそうな顔をするお母様。
「そっかぁ。じゃ、仕方ないわね。
…安心して、お母さんどんな舞桜も好きよ」
そう言って優しく微笑みギュッと優しく抱きしめてくれる。
心の底がポカポカと温かくなるような変な感覚。
とても、心地よい感覚だ。
舞が終わった後、
「うん!文句なしっ!流石舞桜。自慢の娘だね」
嬉しそうによしよしと頭を撫でてくれるお母様。
「......こんな辛い役割を押しつけちゃって、ごめんね」
「お母様は、何も悪くないですよ。そういう運命、だっただけですから」
そう。私が緋巫女になったのはそういう運命だったというだけだ。
「運命かぁ。
ねぇ舞桜、もしも大切なものを失うとして、それが運命だとしたらあなたは、どうする?」
「…諦めます。
運命、ですから。運命というものは変えれないものですし」
「それがどんなに大切なものであったとしても?」
「…はい」
「昧ちゃんや阿津斗くんだったとしても?」
「いやだよっ!あの2人がいなくなっちゃうのはいやっ!」
反射的に叫ぶ私。
そんな私をみてクスクスと笑うお母様。
「す、すみません。お母様」
「いいのよ、よかったわ。舞桜にもちゃんと大切なものがあって」
お母様は少ししゃがんで私と目線を合わせる。
「いい?きっとこれから理不尽で、どうしようもなくて、救いもないような、そんなことがたっくさんあると思う。
何で自分がこんなことしてるんだろって、何で傷つかなきゃいけないんだろうって。
そう考えちゃって嫌になって逃げちゃいたくなることもいっぱいあると思う。
でも、そういう時、そばにいてくれる人を見つけなさい。
苦しい時は一緒に苦しんでくれる。
悲しいときは一緒に泣いてくれる。
嬉しい時に笑いあえる。
そんな人を。
その人はきっとあなたを成長させ、あなたの支えになってくれるわ。
ま、そんな人、なかなかいないんだけどね」
「お母様のその人がお父様…なのですか?」
「そうよ。惚気みたいになるけどね」
実に楽しそうにそう言うお母様。
「後はそうね…どうか諦めないできっと道はあるから。
どれだけ泥臭くて、汚くなって、みっともなくなっていいの。
──だから最後までもがきなさい」
さっきとは打って変わって真剣な顔でそう言う。
たぶん、これは母からではなく緋巫女としての警告のようなものなのだろうと理解した。
「…ねえ、お母様」
「ん?なぁに?」
「お母様は運命が気に入らなかったらどうしますか?」
私が聴くとクスリ、と楽しそうに笑って
「そうね、私なら―――」




