33話:私は...?
「っ!?」
激痛と同時に私は目を覚ます。
「ゆ…め…?」
深呼吸を繰り返して心臓の鼓動を落ち着かせる。
ものすごく…リアルな夢だった。
…まるで本当にあったこと、みたいだった。
あの痛みも、人を斬った感覚も身体に残ってるほどに。
それに…あの幸福感も…。
(血ガ、欲シイ)
ゾクリ、と悪寒が走る。
何…考えてるの?私…。
ブンブンと頭を横に振って嫌な考えを消す。
「うわぁ…汗でビチョビチョだ…」
変な夢を見てしまったせいかパジャマが汗で濡れている。
流石にそのままでは気持ち悪いのですぐにシャワーを浴びに行く。
…後でシーツも交換しなきゃいけないや。
などと考えながらパジャマを脱いでシャワーを浴びる。
傷のことが気になり風呂場の鏡で自分の身体を見る。
昨日の傷はもうある程度塞がっている。左腕も、問題なく動く。
…相変わらず、私の身体はどうしてこうも傷が治るのが早いのだろうか?
そんなことを思いながらシャワーと止める。
再び鏡を覗くとポタポタと垂れる水が一瞬血に見えてしまいとっさに目を瞑る。
やはり変な夢のせいで疲れているのだろう。
気のせいかもしれないが身体もダルく、重い気がする。
今日は学校を休んだほうがいいかもしれない。
そんなことを思いながら風呂場を後にして巫女装束に着替える。
単位は足りてるし、出席日数だって1日2日で足りなくなるものでもない。
無理に学校に行くよりも身体を休めたほうがいい。
そう考えた私は教員科、教師にメールで休む。という旨を伝えようとした時だった
ピンポーン、とチャイムがなった。
来客…昧だろうか?
いつもより来るのが早いけどまぁ、たまにはそういう日もあるか。
昨日の今日だし、私のようにあまり寝れなかったのかもしれない。
そう思いながらガチャリ、と玄関のドアを開けるとそこには昧ではなく天宮がいた。
「邪魔するぞ」
それだけ言うと許可もしてないのにズカズカと部屋の中へ入ってくる。
「ちょ、」
という私の抑制を聞かずにリビングのほうまで入っていった。
仕方なしに追いかける私。
「古川なら来ないぞ?
申し訳なかったのか知らんが先行ってたし」
天宮の言葉に眉をひそめる。
「何で知ってるの?」
「ん?何のことだ?」
ヘラヘラとそう口にするあたり聞きたいことが複数あることを見透かされている。
「何で私の部屋を知ってるのか。
何で昧が毎朝私の部屋に来てるのを知ってるのか。
なんで昨日あそこを通っていたのか。その他色々」
天宮は買い物帰りらしく袋を持っていた。
あの時は慌てていた事もあって気がついていなかったがあそこは人工島であり、周辺にはスーパーどころか家すらない。
何か特別な用事がない以上通るわけがないのだ。
それに、転校したてでどうして毎朝私の寮へ眛が来ているのか知っているのか…。
そんな私の疑問を
「あ~……まぁ、その内に分かるさ」
とはぐらされた。
「はぁ…で、何の用?」
話す気がない相手に何を言っても無駄なので諦めてそう聞くと
「ん?あぁ、そろそろ苦しいだろうと思ってな」
コト、とテーブルの上に赤い液体の入った瓶を置く。
ふわり、とただよってくる独特な鉄のような匂い。
…血だ。
(欲シイ欲シイ欲シイ欲シイ欲シイ欲シイ)
反射的に手を伸ばそうとした右手を左手で押さえつける。
「早く、それを仕舞って…っ。」
はぁ、はぁ、はぁ、と息が荒くなる。
自分が自分でなくなったようなそんな感じだ。
超えてはいけない一線のような気がした私はぎゅっと自分の身体を抱くようにして謎の発作を必死に我慢する。
「大丈夫だって飲めっての。今更そんなことで引きゃしねぇよ。
それよりもお前が苦しんでるところを見たくねぇし。
なにより、誰かれ構わず襲い出してからじゃ遅いしな」
そんな訳の分からないことを言いながら血の入った瓶を差し出してくる天宮。
ふわり
と漂ってきた香りに我慢できなくなった私は、奪い取るように瓶を受け取り、
ゴクゴクと飲み干す。
何とも言えないこの幸福感と快感。
──夢と同じだ。
(まだ、足りない...もっと、もっと欲し...イ)
そこからは完全に無意識だった。
私はドンッ!と天宮を押し倒す。
「すごく、美味しそうな血…」
漫画とかなら目がハートマークになっていそうなほどに息を荒くする。
「あ〜結局こうなんのな...」
半ば諦めたような声。
──かぷり
天宮の首筋に噛み付く。
私の人よりも長い犬歯がぷつん、と小さな音を立て、天宮の皮膚を裂いた。
「っ」
痛みで一瞬顔を歪ませる天宮。
私は天宮の首筋から溢れ出てくる血をごくり、ごくり、と飲む。
美味しい…。もっと、もっと欲しい。
しばらく天宮の血を堪能した後、ゆっくりと口を離す。
(あっ、もったいない)
首筋から流れ、床にこぼれ落ちそうになった血を指でなぞり、その指をペロペロと舐める。
その辺りで意識が戻ってくる。
ゆっくりと指から口を離す。
「あれ…?私、何して…」
少しずつ記憶が戻って来る。
自分のしてしまったことに気がついて顔が青ざめていく。
「あ、天宮。ごめ......。
わ、私...」
自分でも何故こんなことをしてしまったのか分からない。
...正気じゃなかったのだけは確かだ。
「いいから俺の上から降りてくれよ」
「ご、ごめん...」
未だに馬乗りをしていた私は天宮から急いで離れる。
「たく、重いっての」
ゴスッ、と起き上がろうとしていた天宮の腹に肘打ちが刺さる。
「最っ低。デリカシー0」
「り、理不尽だっ!」
とお腹を押さえて叫ぶ天宮を見て何処か懐かしさを感じた気がした。
前にもこんなことをやっていたような、そんな懐かしさ。
......まぁ気のせいだろう。
私と天宮は出会って数日だ。懐かしさなんて覚えるわけがない。
…そんなことより聞くべきことがある。
「ねぇ、私って、何者なの?」
こんなことをしてしまう私は本当に人間なのか、だ。
「人間だよ。今は、な」
含みのある言い方。
──今は、か。
つまり後々人でなくなるってことなのだろうか?
『鬼の子』
夢の中の男のセリフが頭の中をよぎる。
私が忌み子と呼ばれていたのは「鬼の子」だから?でもそれなら鬼ってなに?
......結局私は何者なの?
考えれば考えるほど頭の中がぐちゃぐちゃになる。
天宮漣。何故か私のことを私以上に知っているやつ。
それに...昨日の手助けのこと...。
本当にこいつは何者なの…?
そんな私の考えをよそに天宮は
「んじゃま、学校に行こうぜ。舞桜」
ニカ、と笑ってそういうのだった




