32話:鬼の子
今回残酷描写あり(暴力、虐待、流血表現あり)
苦手な方は飛ばしてください。
読まなくても本編に大きな影響はないと思います
…あぁ、またあの時間がやってくる。
桜木神社の1室。
畳の上で静かに正座をし続けている私はそんなことを考える。
「ひ〜み〜こ〜ちゃ〜ん」
ゲラゲラと気持ち悪い笑みを浮かべた30〜40歳くらいの男が3人部屋に入ってる。
私は返事をしない。
人形である私にはそんな権利はないのだから。
静かに前を見続けるだけ。
「おらよっ!」
メリッ!と男のサッカーキックが私のお腹に突き刺さる。
「けほっ、けほ…っ!」
咳き込んで倒れた私の髪を引っ張り、宙に浮かせる男。
5歳の子どもである私に抵抗する手段があるわけがない。
…いや、そもそも大人が言う事は絶対だ。
逆らってはいけない。
......仮にそんな手段があったとしてもやらない、というのが正しいだろう。
「一人でさみしい緋巫女ちゃんのために今日も遊んでやるよっ!」
ブンッ!と私を投げる。
何とか受け身をとって壁にぶつかり、床にドタン、と落ちる。
...痛い。ただ痛い。
いつからかは忘れてしまった。
けど、いつの間にか私はこうして毎日男達の日頃のストレスのはけ口として、暴力を振るわれるのが当たり前になっていた。
...忌み子であるらしい私には、きっとお似合いの姿なのだろう。
だから私はこの状況をただの日常の一部として受け入れていた。
ただひたすらに殴られ、蹴られる。
痛い、痛い。
──でもそれ以上は何も感じない。
また投げられ、
ドンッ!
次は上手く受け身を取れずに強く胸を打ちつけた。
「かはっ!けほっ、けほっ!」
肺が傷ついたのだろう、咳と共に血が出てくる。
呼吸をするたびに激痛が走る。
「ほら、遊んでくれてありがとうございますってお礼しろよ」
グリッ、と傷んでいる私の胸を踏み付けて偉そうに男が言う。
「わ、私なんかと、遊んでいただ…いて、ありがとう…ございます…っ」
逆らえる理由もなく、咳込みながら何とかその言葉を口にする。
「どういたしましてっ!」
ガンッッ、と私を蹴り飛ばす。
「あうぐっ!」
バンッ!
壁に強く背中を打って声が漏れる。
そうしてまた殴られ、蹴られる。
…痛い、でもそれ以上でも、それ以下でもない。
(本当に?)
心の中で誰かがそう言ってきた。...そんな気がした。
…あなたは、誰?
(本当に痛みしか感じない?)
痛みしか感じない...?それってどういう意味なの?
(ムカつく、だとか許せない、だとかそんなのは感じない?)
よく…わからない。
だって私は人形、だから。
(そう、だったら教えてあげるね。怒りと、喜びってやつを)
心の中の誰かがそういうと同時にすぅっ、と私の胸の中に何かが入り込んできた。
何…これ…。
身体の奥底からぶくぶくと、よくわからないものがどんどんと湧き上がってくる。
(殺セ、目ノ前ノ己ヲ害スル敵ヲ許スナ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。)
ドクン、と心臓が高鳴る。
──あぁ…そっか。
邪魔するやつが、気に入らないやつがいるなら殺せばいいんだ。
あは、と微笑む。
初めてのその感情に私は逆らわなかった。
「んだ?急に笑いやがって。気持ちわりぃ」
ゴスッ。また蹴り飛ばされた私はゴロゴロと転がり、部屋の隅に飾ってある真剣に手をかける。
また私を掴もうと男が近づいて来た瞬間、
──ヒユッ、と一閃。
男の掴もうとしていた右腕が宙に舞う。
「え......は?
──あ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙っ!!腕がっ!俺の腕がっ!?」
血が吹き出る自身の右手を抑え叫ぶ男。
「...うるさい」
そう言って私は男の首を斬り飛ばした。
「ひぃ」と怯える残った2人。
それを見るとゾクゾクゾクッ!と何かが背中を走った。
少し後にそれが優越感であるとか、喜びであると知った。
「あはは」と笑みがこぼれる。
感情の趣くままに残りの2人の首も斬り飛ばした。
感情というものは、何ていいものなのだろうか。
こんなにも満たされた気分になったのは生まれて初めてだ。
ふと男達が流した血が目に入る。
よく見ると部屋中が血だらけだし、私自身も返り血で汚れている。
けどそんなことより私は
(あの血…凄く美味しそう)
そう、思った。
気がついたら私は血を啜っていた。
「っ!?」
血を口にした瞬間、今までに感じたことのないほどの幸福感と快感が、全身を駆け回る。
──私は一瞬で虜になった。
ジュルジュルと音を立てて血を啜る。
ドタドタドタ、と縁側を走る音がする。
バンッ!
「何があったっ!」
勢いよく襖が開かれる。
血だらけで血を啜っている私をじっと見る。
襖を開いた男がボソリと「鬼の子…」と呟やいた。
「あなたも私の邪魔をするの…?」
チャキッ、と邪魔者を排除しようと近場においてあった真剣を手に取ろうとした瞬間。
──ストン、と何の抵抗もなく男の刀が私の心臓を貫いた。
「お前は何も悪くないのに...ごめんな...」




