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どん底から始まる元天才



『千葉シーグルズ7巡目大柳高校 坂井智久(さかいともひさ)


 智久はテレビから流れる自分の名前を聞き、ドラフトで指名されたのにも関わらず俯く。


(くそ、こんなはずじゃなかったのに)



 坂井智久は紛れもない天才だった。


 テレビや新聞はこぞって智久を持ち上げていた。100年の天才。稀代のサウスポー。

 そんな言葉を何回も聞いた。あの試合までは。


 初戦だった。油断していたわけではない。事実、エースである智久も出ていたのでほぼベストメンバーと言っても間違いではない。


 地方の公立高校。本来なら5回のコールドを目指してウォーミングアップになるはずの相手。誰もが勝利を疑わなかった。


 それをあの傑物が全て破壊した。


 中浜陽太(なかはまようた)、智久が手にするはずだった栄光を、名声を掻っ攫っていった男の名前。


 前哨戦のように智久の高校を破り、勢いのまま県大会、甲子園優勝と駆け上がっていく。世論の注目を全て奪って一躍時の人となった。


 公立高校での成り上がり、甲子園優勝、11球団競合のドラフト。全ての泊をつけてプロ野球に乗りもうとしている。


 対して智久は中浜に負けて以降、誰が見ても過剰な程に練習を積み重ねていた。それが原因で選手生命を脅かすレベルではなかったがドクターストップがかかる。1ヶ月もまともに野球ができなくなっていたのだ。


(消えた天才、ふざけるなよ。俺は、俺だって……)


 ふいにズボンのポケットから振動が伝わる。

 シーグルズのスカウトからの電話だった。


『坂井くんを指名させて頂きました、千葉シーグルズの監督のをやってる椎葉(しいば)と申します』


 智久はおざなりに返事をする。ドラフト7位、全81名の新人の中で81番目。最下位からのスタートに智久はとっくに腐っていた。


『ははっ、そうふてくされないでくれよ。契約とかお金の話は実際に会ってから話すから今日は挨拶だけだよ』


 椎葉は愉快そうに笑う。

 そんな態度が智久の顔を歪める。


『少し真面目な話をしようか。君はなぜ自分が指名されたか分かるかい?』


 先程までのどこかおちゃらけた喋り方は消えて声のトーンが一つ下がっている。突然の質問に虚を突かれた智久は答えに詰まってしまう。


『え、えっと……強いて言うなら直前に怪我をしたので復帰待ちでこの順位とか?』


『ああ、間違ってない。それだけでは君を取るつもりはなかった。何が君をプロにしてくれたと思う?』


 なんだろうか、智久は必死に頭を回す。実力以外に思いつくことはなかった。


『話題性だよ。真の天才に負けた奴が惨めなざまを晒している。それだけでファンは大喜びさ。君を本当に欲しいなら大学で4年間待ってから取ってるね』


 想像以上の罵倒に唇を噛む。

 あの一回だけだ。それも他のやつらだって全員漏れなくあいつの餌食になっているのに。


『とにかく君は入ってくれれば良いわけだ。高卒だから少なくとも3年は保証されてる訳だしね』


(馬鹿にしやがって……)


『次はユニフォームを着て会おう。どんなざまか楽しみに待ってるよ』


 智久が何も言えないまま椎葉は電話を切る。

 何も言い返せなかった自分に智久は悔しさを滲ませる。


(くそっ、やってやるよ。やればいいんだろ。入れる理由がなんだって最高の環境を3年くれるんだ。)


「絶対に見返してやるからなァ」


 元天才の燻っていた火種は再び燃え上がろうとしていたのだった。










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