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「会社にだけはどうか言わないでくれっ!」


 青ざめて土下座してくる相手に優姫はびびった。

 あーあ、どうすんの? という視線が2つ分。そこは大人がちゃんとしろと言いたいところだが、それは後回しにする。


「大丈夫ですよ。ちゃんと正直に話していただければ、悪いようにはしませんから」


 自分で言っておきながらどこかの詐欺のように優姫には思えたが、気にしてはいけない。微笑みが、引きつりそうだが根性でなんとかする。


「通帳の暗証番号をですか?」


「いや、」


「そ、それとも、示談金」


「そんな深刻な話じゃないからっ! ね、脅しすぎたのごめんってばっ!」


 優姫は耐えきれず、わめいた。なんで、こんな話になったのか全くわからない。


「お嬢はお優しいので、大丈夫ですよ」


「そぉっすよ。

 まあ、嘘ついたら、大変っすけど」


 フォローのつもりでフォローにならない事を言う二人にチョップを食らわせてから、優姫はもう一度、男に向き直った。


「昨日の話を聞かせてほしいんです。なにを見て、なにを聞いたのか」


「……夢のようなやつですよ」


 そう前置きして男はぽつりぽつりと話し始めた。


 昨日、温泉街についたのは昼前のことだった。宿は温泉街からは少し離れているが連絡をすれば、迎えに来てくれる。ただ、もう一度温泉街に向かう場合には自力でいかねばならなくなっている。そのため、最初に観光でもしておこうとした。

 昼食も食べ、日帰り入浴もできる浴場にも立ち寄り、お土産物屋さんを覗いて帰りに買うものを見ていた。

 その時、子供に声をかけられた。

 お兄さん、大丈夫? と。


「ちょっとまった。その子供ってコレじゃないよね?」


 優姫はスマホに入っている弟たちの写真を見せた。上から宗一郎、健次郎、龍三郎である。3人ともよく似た顔立ちだ。成瀬家の大中小と呼ばれることもある。

 優姫は性別が違うが、お姉さんですね? と弟の関係者から声をかけられるくらいには類似点がある。


「あ、この真ん中サイズでした。ご親族ですか?」


「弟なの。健次郎なにやってんのかしら……。

 で、意味深なことを言って、去っていったの?」


「お守りあげると石をくれました。

 これです」


 優姫の前に出された石はつるんとした丸い石だった。


「今は、ただの石っぽいね……。

 その前に、なにかありませんでしたか? 変なものを拾ったとか声をかけえられたとか見えたとか」


 うーん。と唸って思い出そうとしているようだが、思いつかないらしい。


「疲れてると憑かれやすいとかなんとかと言われましたね……」


「……それはそう」


 いろんなガードが低下。どーにでもなぁれー、な気分になりがち。

 優姫はため息をつく。


「すみません」


「あ、違うのっ! うちの弟がなんか首突っ込んだかもしれないと思うと」


 ガチで制裁な? と思ったが口にしなかった。怯えている相手に言っていい言葉でもない。

 優姫は笑顔のまま先を促した。

 それが逆に怖いという感覚は優姫にはない。物言いたげな黒部と我関せずにおやつを食べている八代。

 彼らと優姫を見比べてから男は気を取り直したのか、あれは……と先を続けた。


 そのあとはそのまま宿に行き、夕食を食べ、早めに就寝した。

 そのはずなのに、なぜか、外にいた。それもまつりの中に。

 よく考えればおかしいのに、ああ、祭かと特に気にもとめず、お面をかぶったまま露店をひやかしたりしていた。

 お金がないのはわかっていたので、見るだけで済ませていたがある露店の前で足が動かなくなってしまった。


 子供向けのような水風船釣りだが、子供は誰もいなかった。

 思えば、子供とすれ違いもしなかった。子供が喜びそうなリンゴ飴やチョコバナナ、かき氷も見かけたのに、いたのはお面をつけたものばかり。

 変だなと思い始めたときに露店の主が声をかけた。


 一つ、つれていかないかい? と。


 誘われるままに、一つ釣り上げて、気がつけば布団で寝ていた。

 夢かと思えば、枕元には水風船が一つ。


 狐につままれたような気分でそれを見てから、朝食会場に行き普通に食事を終え、部屋に戻ってきた。

 腹ごなしに近くの散策でもと思って山の方に向かった。


 なぜか、水風船も持って。


「山の中の林道っていうんですかね? あの辺りについたときに、戻ろうとしたら水風船を落として割ってしまったんです。

 あぁ、片付けないととしゃがんだときにはもう水に包まれていました。嬉しそうに笑う女の人の声も聞こえて」


 そう言ってから彼は身震いをした。

 そこから、どこかの洞窟まで連れ込まれ氷漬けにするのと誰かの声を聞いたらしい。

 水は、記憶を保存できるから、流れないように氷漬けにして。


 足先から凍り始めたときに、石が熱くなった。足先から氷が溶けて、猛ダッシュで逃げ出したところに優姫たちに出くわした。


「他に誰かいませんでしたか?」


「誰かと言うか、謎の塊はいくつか……」


「うーん。この数年、行方不明者っていないはずだから、今いない人か不法侵入者か、年代物」


「他にもいなくなっている人いるんですか?」


「他に3人。全員が全員とは思えないけど、一人くらいは拾われていったかも……。

 眠ってた雪女が夏活動ってあり得る?」


「水妖のほうがありえそうっすよ。河太郎パイセンに聞いたほうが良いかもっす」


 優姫と八代が候補を上げているところを男は不安そうな顔で見ていた。


「あの、あなた達って結局なんですか」


「妖怪の類」


 厳密には違うが、そのほうが通りが良いだろう。優姫は素直に答えておいた。場合により、記憶の消去を専門職にお願いすることになるのだから気軽なものである。


「えっと、女郎蜘蛛?」


「よく言われるんですけど、違います。

 足はありません。目もない」


 優姫は嫌そうにそういった。一時期、妖怪関連の知り合いにものすっごい言われたのである。

 長い黒髪、セーラー服、間違いない、というのだが、どこの知識だと冷ややかに返しておいた。

 優姫の機嫌の変化に合わせるように髪が揺らめいている。これで蛇っぽいともいわれることもあったが、それも違う。


「地元の元タタリ神の末端なんで、怒らせないほうが良いっすよ」


 八代の余計な言葉に男は青ざめたような顔で、頷いていた。

 本当に怒らせてはならないのは、優姫ではないのだがいない人の話をするわけにもいかない。

 気を取り直して優姫は黒部は視線を向けた。


「黒部さんは、旅館の人たちに心当たりないか聞き込みしておいてください」


「承りました」


「さて、私達は温泉街に戻って情報集めに行こうか、モナミ」


「なんすか、それ」


 八代の呆れた顔を優姫はスルーして立ち上がった。


「悪いんですけど、工藤さんにもお付き合いいただきます。ここにいてもいいですけど、ここ、あまり強い人残ってな」


「行きますっ!」


 食い気味に男が同意した。


「あれ?僕の名前、どうして?」


「それは簡単ですよ。

 単純な推理」


「宿泊名簿っすよ」


「もう少し付き合いなさいよ」


「はいはい。

 期待しているっすよ、女子高生迷探偵さん」


「なんか薬で小さくされそ」


「黒い組織でもいるんですか?」


「白い退魔師集団ならいるっすよ。

 あれ、昔はに死に装束で……」


 そんなことを言いながら、三人は旅館を出ていった。



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