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 優姫と八代は気絶した男を旅館に連れていくことにした。力持ちは優姫だが見た目的に問題があり、八代のほうが背負っているところをアシストすることになっている。


「おもいっすけど、かるいっすね」


「どっち」


「一般成人男性としては軽量。色々付いてないお嬢よりは、重い」


「まあ、確かに八代さんよりは軽かった」


 微妙な顔をされたが、話を振ってきたのは八代である。

 山に向かう誰かにすれ違うこともなく、旅館までたどり着く。入ってすぐに黒部が現れる。待ち構えられていたのかもしれない。


「お戻りですか。

 おや、お客さんですね」


「詳しくは中で話すわ。

 空いてる部屋に連れていくから案内して」


「お部屋がありますが」


「本人が意識不明なのに入るわけにはいかないじゃない? 仲居さんでもないんだし」


 若女将特権で優姫なら許されそうな気もしたが、八代は適応されない。二人きりの密室はさすがにまずいだろう。さすがにうら若き乙女であるので、変な噂は困る。おそらく、お客さんが。そういう変な噂だけは爆速で通り抜けていくのだ。

 優姫は男の好みなどないから、別に困りはしないが。


 黒部は思案して、大広間へどうぞと言う。50畳を持て余しそうだが、色々暴れても困らない場所ではある。

 布団の用意をしてお客さんをそこへ寝かせる。


「工藤誠さん、女将が前勤めていた会社の社員です。社員証も確認しましたので、間違いはありません。

 そういえば、眼鏡をかけていたのですが落ちてませんでしたか?」


「なかったな。眼鏡屋さん連れてってあげないと」


 駅前ではなく国道沿いにでるとチェーン店が勢ぞろいだ。

 優姫は誠の顔を覗き込んだ。すぐに目が覚めそうにない。


「なにがあったんです?」


 説明を求める黒部にこれまでのことを優姫は説明した。八代はお茶飲みたいと部屋を出て行っている。確かに優姫も喉も乾いたし、お腹もすいた。

 八代が気が利くのか、自分の欲求に忠実なのかは微妙なところだ。


「山のお方たちは?」


「静かだったよ。

 昼だから寝ているかも。そうじゃなきゃ、温泉街に来てるかな。人が多いから紛れやすいし」


「どなたか、攫ってませんか?」


「三人中一人くらいがあるかも?」


 山の怪異。わりと寂しがり屋。優姫はため息をついた。


「続きの話を聞き込みしてくるわ。

 そこの人が起きたらね」


「起こしましょうか?」


 不穏な言い方に優姫は慌てて首を横に振った。そのころに八代がおぼんに飲み物とおやつをのせて戻ってきた。


「優姫、黒部になんか無理言った?」


「言ってないって。

 ほら、お客さん起きなくて心配ねって話をしてたの」


「起こす方法はいくつかありますが」


「……そっとしておいた方がいいっすよ」


 そういって八代はそっと床におぼんを置いた。


「料理長謹製わらびもち」


「あんなむにょん生物に襲われてよくそれ食べようと思うね」


「あいつらなんか芯があったんで、アロエとか、ナタデココみたいな感じっすよ」


「触ったの?」


「掴んでこられたので齧ってやったっす」


「障りは?」


「ないっすね。欠片も蒸発したし」


「やっぱり本体は別にいるか……」


 山には色々いる。流れ者にも寛容ではあった。縄張りやルールを乱さない限り、いることを黙認している状況ではあった。昨今、山を追われる怪異はいる。ソーラーパネルとか良くないらしい。ただで置いておくよりは、と設置されることが多いらしい。採算の取れない山を管理維持するというのはきれいごとでは済まない。というのは人間の事情だ。


 そんなあれこれで山に住むものの居場所は少なくなった。その代わりと言わんばかりに町に住むものは増えた。今どきの流行りは都市伝説やネットロア。古いものもモデルチェンジして、生き返ったりするからよくわからないものだ。


 今、山にいるものもそういうものかもしれない。


「そういえば、祭りって昨日ないよね?」


「露店は出ておりましたが、仮面をつけてというものはありません。

 この地での祭りは仮面をつけることもありませんので他所からきたのではないでしょうか」


「ふむ。お父さんに連絡は?」


「第一報のときに。優姫さんにはお伝えしなくてもよいということでした。せっかくの休みなんだからと」


 つまり、その時にはそれほど重要と思っていなかった。

 あるいは、優姫の手に負えると思っていないから黙っていた。ただ、すぐに帰ってこないということは大したことないと思っていたほうだろう。

 まあ、それはそれとして。じっと優姫は黒部を見た。


「それなら首を突っ込むなというべきでは?」


「私は山にいけませんからね。お客様の安全を優先しました」


 それは黒部にいいように使われたともいえる。優姫は釈然としない気持ちのままに冷えたお茶を飲む。それからわらびもちを一口。

 つるんとした食感と黒蜜の合わせ技は幸せへの近道である。


「今度かき氷にのっけて、きなこぶっかけようよ」


「料理長に伝えておきます。

 さて、そろそろ目覚めそうですよ」


 黒部に言われ、優姫は布団の主に視線を向けた。


「うぅっ、ネコチャン……」


 気絶した男がうなされていた。


「ねこちゃん?」


 どこにもネコはおらず、夢見にしてはだいぶ可愛らしい。困惑する優姫たち。うなされる男は、かっと目を見開いた。


「ネコチャンっ! あぶないっ!」


「ネコチャンはいないよ」


 冷静に優姫が告げる。

 う、うそだと言いつつ男は慌てて起き上がろうとしてやんわり八代に制されている。急に起き上がると駄目っすよと。

 男はこんどはゆっくり起き上がり、周囲を見回す。


「こ、ここは?」


「旅館。

 泊る予定だったでしょ? うちに」


「うち」


「旅館の若女将っす」


「若女将」


 オウム返ししてくる男に八代は眉を顰める。


「どっか頭打ったりしてるんじゃないっすか? 安全に運んだんっすか?」


「ちゃんとしたよっ!」


 八代から疑い深そうな視線を向けられるが、優姫はきちんと安全にぎゅっと抱え込んで運んだ。抱え込み過ぎて、ちょっと空気薄かったかもしれないが。

 なお、少し昔八代を抱えて飛び回ったことがあり、その時にはちょっと手足をぶつけたことがあった。打撲と診断されたので恨まれている。あの時も必死だったじゃないかということはいつでも棚上げだ。優姫は食われてしまえばよかったのにといつも喉元まで出てくる。


 黒部は失礼しますと声掛けして、男のおでこに触れて熱がないか確認していた。

 熱はありませんねとひどく冷静に言っている。

 男はぼんやりとした表情のままに床を見ていた。


「なにか、こう、水の化け物に運ばれて、凍らせるっていうから逃げて、木の上で女子高生退魔師が」


 そのあたりで夢、そう、夢……巨大なネコチャンはいなかった。と締めくくっていた。


「ふわっふわでいい匂いがした」


「……そうっすね。いい匂いはするっすね」


「は、ってなによ、は、って」


 ぶつぶつ言う優姫に困ったように黒部がお茶を差し出した。茶でも飲んで落ち着けということらしい。


「極道の若頭? とそのお嬢?」


「見えるけど、旅館のマネージャーと若女将」


「品行方正に今はやってるんですが」


「ただの女子高生です」


「「「ただの?」」」


 きれいな三重奏だった。


「……それは、ひとまず置いておいて、なんで山に入ったか事情聴取しましょ。

 お客さん、申し訳ないんですけど、あそこうちの私有地で不法侵入していたので場合により警察案件になります。

 ちゃんと、正確に、お話してくださいね」


 ふふふ、と笑う優姫に男は青ざめた顔でうなずくだけだった。

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