第4話 衝撃の和菓子食レポ
店内の小さな椅子に座って、私たちは買ってきた和菓子を一つずつ試してみることにした。
ファルグリンはまず、草しんこを手に取り、改めて艶を確かめると、鼻を近づけ息を吸ってから食む。
「この柔らかな質感。そして、口の中で溶けていくような感覚」
ファルグリンは目を閉じ、味覚と食感に集中しているようだった。その真剣な表情に、思わず見入ってしまう。
「口いっぱいに広がる独特な清涼感のある香り。どこか落ち着くような……甘みも調和しており、それを優しいもちもちが受け止めてくれる」
「……食レポ上手だね」
美味しいけどさ。私は黙って食べるばかりである。日本語達者過ぎないか、このエルフ。
「春の若葉を食んでいるような気分になる。いや、それよりも濃いかもしれないね。始まりの大樹の若葉とでもいうべきか。……ふふ、やはり罪深いな、お前たちは」
「なにも悪いことしてないけど?」
食べ終えると、次に手に取ったのはくるみゆべし。珍しい鉱物でも見るかのように観察し、袋の上から弾力を確かめる。
「くるみゆべしだったか、不思議な色合いだな」
「そう?」
そのまま、くるみゆべしを咥える。はむっと噛みきり咀嚼。途端、目を開いてパチクリさせている。
「んー! んーっ?!」
「美味しかったんだね。大丈夫だから、ゆっくり感想聞くから」
くるみゆべしで大げさだな。ゴクリと呑み込むとファルグリンは、騒ぎ立てた。
「こんがりと焼き上げた香ばしいクルミが入っているぞ!」
「そりゃ、くるみゆべしだからね」
「歯ごたえある触感に対して、餅生地のふにゃりと気持ちの良い感覚。口に広がる味は甘くじょっぱさ、この風味はまさか……いや、僕にはわかるぞ、これは醤油!?」
「う、うん? 醤油、だね?」
見たらわかるじゃないか。何を騒いでいるんだ。
「醤油とは、あの料理に使うしょっぱいやつだろう! 食堂に置いてあるやつだ、それくらいは僕にもわかるぞ! それを菓子に使うなんて!」
「……意外と使うんだよ」
ちなみにそれも原材料は豆なんだよ、ファルグリン。聞いてくれている余裕があるのかわからないけど。
最後に食べたのは、ゴマ饅頭だ。ひょいと摘まめる程度の小さなもの。
「ふん。だが、これは変哲もないものだ。饅頭とはあんこが入っているのだろう? これだけ散々、驚いたんだ。今さらこのようなもので……」
やっぱり表情が変わった。いや、さすがに流れで私も察するよ。
「この、しっとり感! 非常に濃厚な黒胡麻の芳香が鼻を抜けていく! 生地も一体感がある。これは、なんだ?」
「練乳を使った生地みたいだね。へー、美味しい」
「れん、にゅう……?」
ファルグリンは顎に手を当て、深く思考を巡らせ始めた。まるで、壮大な哲学について考えているかのようだ。
和菓子一つで、ここまで真剣になれるなんて。彼の世界は、私が思っているよりずっと小さいのかもしれない。
「長く残り続ける余韻。この感覚は……始まりの大樹が与えてくれたという、かつての祝福に近しいものなのでは?」
「また始まりの大樹かよ!」
「感覚的なものだと言っているだろう!」
思わずツッコミを入れてしまった私に、ファルグリンはムッとした顔で反論した。でも、その顔もやっぱり綺麗だった。ズルくないか?