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証明の反魂術

 俺のことは、その過程で徐々に好いてください、と笑むリアンレイヴに、瞬きを繰り返す。


 これまで指輪を所持した者は誰一人として、"私"を解放しようだなんて言わなかった。




 当然よね。だって、都合の良い巨大な力を放棄しようだなんて、考えるはずがないもの。


 それに――。




「どうして、解放の条件を知っているの?」




 権力者にとって都合の悪い話というのは、いつだって秘匿されるもの。


 指輪から私を解放する方法も、とうの昔に隠され、忘れ去られたはずなのに。




 リアンレイヴはゆるりと双眸を細めて、口角を吊り上げる。


 と、くるりと背を向け、執務机へと歩を進めた。花束を机上に乗せ、引き出しの一つに手をかざすと、




「"解術"」




(あれは……魔法をかけた本人しか解除できない高度な封術)




 魔術の詠唱には定められた型が存在しているけれど、力のある者は己に適した形に変えることが出来る。


 そして力があればあるほど、詠唱を短縮できるし、最終的には私のように無詠唱で魔術を使うことが出来るようになるのだけれど。




(やっぱり、かなりの実力者のようね)




 そんなリアンレイヴが封術を使ってまで、保護していたもの。




(いったい、どんな秘匿物を隠し持っているというの)




 相手は元魔塔の長で、現皇帝。


 指輪に封じられ自由を奪われた私が知ることのない場所で、重要な手がかりが見つかっていてもおかしくは――。




「エベリナ様の手記をみつけました。かつてあなた様が統治していた、魔塔の壁の中に」




「!? 嘘よね!?」




 急ぎ近づき、掲げられたそれの表紙を見る。


 真っ黒な地の中央に、金で描いた薔薇の花が一輪。




 ――間違いない。


 指輪に封じられる前、"魔塔の長"だった頃の私が記し、誰の目にも触れないようにと屋根裏部屋の壁にひっそりと封じ隠していた手記。


 信じられない心地でリアンレイヴを見上げる。




「あなた、あの封印魔法を破ったの? そもそも、どうして見つけられたのよ……っ!」




 リアンレイヴは「申し訳ありません」とちょっと困ったようにして笑み、




「"指輪の魔女"として現れたあなた様に心奪われたその日から、あらゆる情報を集め始めました。ですが不自然なほどに、目新しい記録は見つかりませんでした。そんな最中、"指輪の大魔導師の悲劇"を語り継いでいる村を見つけたのです。その村ではかつて、大魔導師だったエベリナ様に雨を呼んでいただき、さらには豊作祈願によって凶作から救っていただいた恩義があると話していました。そこの村人から、あなた様がかつて魔塔の長だったと聞きたのです」




「……二百年以上も前のことだというのに、よく口伝されていたわね。魔塔にも、私に関する記録は残っていないでしょうに」




「やはり、エベリナ様のご指示だったのですね。魔塔の長だったというのに、名前ひとつ残っていないとは……。さすがは稀代の大魔導師様です」




「よく言うわ。手記を見つけたじゃない」




「これはエベリナ様への愛の証明です。俺以外では、きっと見つけられませんでしたよ」




(まだそんなことを……)




 エベリナ様、と。リアンレイヴは少しばかりいじけたような顔で、ずいと私に顔を寄せた。




「まだ、俺の気持ちを信じてはくださらないのですね」




「そ、れは」




「ならば、これではいかがでしょう」




 リアンレイヴは悪戯っぽく口角を上げると、右手の人差し指にはめた指輪に左手をかざし、




「"血の契約を結びし主たる肉体に宿りたまえ。――反魂"」




「!?」




 うそ、と音になる前に、意識がふつりと途切れた。


 契約者である主の魔力が途切れた時と、似た強制力。




 けれど何度も経験したそれと異なっているのは、そのまま深い眠りにつくのではなく、徐々に意識が浮遊しつつあること。




 ――重い。


 存在に質量が付与されて、ここに在るのだと明瞭にされている感覚。




 二百年ぶりに感じる、肉体の重み。


 そろりと瞼を上げると、知ったそれよりも高い位置からの景色が飛びこんで来た。




「……歴代の"主"の中で、反魂術を使ったのはあなたが初めてよ」




 ――反魂術。


 指輪の主は指輪に宿る"魂"と、一時的に入れ替わることが出来る。




 とはいえこの二百年、たったの一度も使われたことがない。


 それはそうよね。だって前例がないのだから、本当に"身体"に戻れるのかわからないもの。




 それに、主の"身体"を得た私が、その肉体を傷つけないという保証だって。


 確かめるようにして掌を閉じては開く。魔導師にしてはごつごつとした、大きな男性の手。




 耳に届く声は低く、口調だけが自分のモノで違和感が拭えない。


 かといって変えるつもりもないから、私はそのまま眼前に立つ"透き通った"リアンレイヴを見つめ、




「私がこの身体を壊してしまえば、あなたの魂もそのまま死に至るのよ? 知らなかったのかしら」




「いいえ、存じておりました。好きに使っていただいて構いませんよ。愛すべきエベリナ様が自ずから手にかけてくださるのなら、喜んで受け入れます」

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