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新たな主と求婚

「――契約せし指輪に宿る魔女よ、主しゅとなりし我が眼前に姿を現せ」




 よく知る文言が"私"を眠りから引き起こし、有無をいわせず指輪から姿を吐き出す。




(新しい主が決まったのね)




 今度はどのように使われるのかと、諦めに近い心地で瞼をゆるりと持ちあげる。


 周囲を照らすのは陽光ではなく、人工的な灯り。


 部屋に点在する調度品は絨毯一つまで豪勢ながら趣味の悪い――見覚えのある皇帝の私室で、私を見据える男が一人。




 夜の闇に溶けそうな漆黒の髪と、艶やかな赤い瞳。


 ああ、やっぱりラシートを殺した彼が、王座を得たのね。




「あなたが新しい主人?」




 分かり切っているとばかりの態度で訊ねれば、男は嬉し気にゆるりと目尻を和らげた。




「そうとも言えますし、違うとも言えます」




「……指輪と"血の契約"を結んだのなら、あなたが主人よ」




「どうか、聞いてはいただけませんか?」




「……なにを言っているの? 話なら聞いて――」




「"大魔導師"、エベリナ・カッセル様」




「っ!?」




(どうして、"私"の名前を)




 久しぶりに聞いた"忘れ去られた名"に、思わずを息をのんだ。刹那、




「ずっとあなた様に恋焦がれていました。どうか俺と、結婚してください!」




 眼前にばさりと差し出された真っ赤な薔薇の花束に、たっぷりの間をおいてから「は」と間抜けた声が出た。


 途端、彼は焦ったようにおろおろと眉根を寄せ、




「薔薇はお嫌いですか? あなたの瞳に似た色の花をと思ったのですが……」




 たしかに、花弁はどれも私の深紅の瞳によく似た色をしているけれど。




(いけない。私ったら、何を戸惑っているのかしら)




 初めてのパターンだけれど、所詮、私を手にした人間の思惑など知れている。


 軽い咳払いで気を取り直し、私はうんざりとしながら、




「妙な真似などしなくても、"血の契約"は絶対よ。私の意志など関係なく、"主"の命令を遂行するために私の魔力を引き出すわ」




 要するに、馬鹿げたご機嫌取りは止めて、ということ。


 とんだ辱めを受けたと怒りでもするかと思いきや、男はなぜか悲し気に眉尻を下げ、




「エベリナ様の魔力を欲して、花を用意したわけではありません。ラシートを討ったのも、恋しいあなた様に求婚するためです。指輪を手に入れなくては、こうして落ち着いた場で話すことも叶いませんから」




「話を聞いていた? 私の機嫌などとらなくとも"血の契約"さえすんでいれば、"指輪の魔女"の魔力は好きに使えるの」




「俺が欲しているのは"指輪の魔女"の魔力ではありません。エベリナ様が俺を"リアン"と呼び、俺が触れることを許してくださる、終わらない蜜月です」




 どうしよう。まったく話が通じないわ。


 おまけにちっとも説得できる気がしなくて、"リアン"という名なのね、などと思考を飛ばしてしまう。


 そして、思い至った。




(ん? "リアン"って……)




「あなた、もしかしてリアンレイヴ・バルロ? 魔塔の長おさの」




 途端、リアンレイヴはぱあっと瞳を輝かせ、




「ラシートを討つために代替わりをしてきたので、"元"ですが。俺のこと、覚えていてくださったのですね。つまり、かなり脈ありということですね! 結婚しましょう!」




「覚えていたわけではなくて、ラシートが随分と毛嫌いしていたから"覚えさせられた"だけよ。ラシートはあなたを皇宮に召喚するたびに、その首を落とす機会を伺っていたから。……髪型も服装も変わっていたから、気付かなかったわ」




 魔塔の長として召喚されていた時のリアンレイヴは、腰ほどまで伸びた髪をひとつに束ね、ゆったりとしたアメジスト色のローブを身に纏っていた。


 今の彼はさっぱり髪を切り落としてしまっているし、服だって、剣を扱いやすい身体に添ったもの。




(これで納得がいったわ)




 あの戦闘時、ラシートの背後に突如現れたのは、やっぱり魔術を使ったから。


 それでも、"俺を守れ"というラシートの指示に従って、結界魔法も展開していたはずなのだけれど……。




(魔塔の長だっただけあって、それなりに魔力も強いようね)




「髪は長いほうがお好きですか? でしたら、元に戻しますよ」




「どちらでも興味がないわ。あなたの髪の長さなんて、私には関係がないもの」




「俺にはあります。エベリナ様に好かれたいですから」




「…………あのね」




 私は苛立ちを自覚しながら、




「目的はなに? 叶えてあげるから言ってごらんなさい。その代わり、こんな悪趣味な冗談はもうやめて。いくら"主"を傷つけることは出来ない制約になっているとはいえ、何も出来ないわけではないのよ」




「ですから、冗談などではありません。俺は本気で、心からエベリナ様を欲しているのです。……怒った顔も素敵ですね」




「だから……っ!」




「"身体"を探しましょう。エベリナ様」




「っ!」




 耳を疑う言葉に、煮えたぎった怒りが困惑に変る。


 リアンレイヴはにこりと赤い瞳を細め、




「俺の目的はただ一つ、エベリナ様を指輪の契約から解放し、唯一無二の伴侶として添い遂げることです。……指輪から解放されるためには、どこかに隠されているエベリナ様の実体が必要なのですよね? あなた様に恋してからあらゆる場所を探してみましたが、成果はありませんでした。残す場所はこの皇宮と、皇帝になった者だけが鍵を開けられるという三つの塔の隠し部屋だけです。即位の儀もすませましたから、俺には開けられる。エベリナ様のお身体を、探しに行きましょう」

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