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指輪の魔女と魔導士皇帝は結託する

「エベリナ様。イシハ様とはどのようなご関係だったのですか」


「あなたね……馬車に乗るなりするのがその話なの? もっと、"炎華の塔"の状況を危ぶんだりは……」


「俺にとってはなによりも重要な話です。あ、お伝えするまでもありませんが、エベリナ様と彼がどんな関係であれ、俺のエベリナ様への気持ちに変わりはありませんのでご安心を」


「別に、そこは一切気にしていないわ」


「つまり、想いが通じ合っているということですね? 結婚しましょう」


「私に話しをさせたいの? させたくないの?」


 く、と唇を引き結ぶようにして黙るリアンレイヴに、苦笑がもれる。

 私は動き出した馬車の中から窓の外を眺め、あれからこの地で生涯を終えたイシハの面影をゆっくりと追いかける。


「私が拾って育てていた弟子よ。私も彼も身寄りがなかったからか、とても近い存在に感じていたわ。弟のいる姉というのは、ああした感覚なのかしらね」


「なるほど、弟同然の方でしたか……。ならばエベリナ様がお身体を取り戻した暁には、再度尋ねる必要がありますね。今回は、結婚のご報告はできておりませんし」


「あなたって本当にブレないのね」


「お伝えしたじゃありませんか。俺の気持ちに、変わりはありませんと」


「…………」


 リアンレイヴは、これまで出会ってきた"皇帝"とは随分と異なる。

 それはけして、"魔導士"であることを理由にした異質さではないことは、彼に呼び出されたあの日から薄々気が付いてはいた。


 だからといって、彼だけが"違う"だなんて。

 最大の裏切りを受けた私には、どうしても信じられない。


「……私の手記を読んだのよね」


 リアンレイヴは、「許可もなく、申し訳ありません」と目を伏せる。

 私は「謝る必要はないわ。処分せずに置いてきたのは、私なのだから」と再び窓の外へ目を向け、


「もう、愛だ恋だなどに躍らせるのは、ごめんなの」


 彼は、私を"大切な人"だと言っていた。

 私達の関係は親しい友人のそれで、けして、恋人同士のような甘さはなかった。

 それでも、私にとっては"親しい友人"以上の存在で。

 請われれば助けてあげずにはいられない、そんな相手だった。


 彼もまた、私のことを特別な相手として、他の誰よりも大切にしてくれていたのは、近しい人間なら誰もが知っていた。

 だから愚かにも、期待してしまったのだと思う。

 彼の"特別"が、私の秘めたそれと同じなのではないかと。


(けっきょく、私はただの"頼れる親しい友人"に過ぎなかったのに)


 いえ。最後の方はもう、"友人"ですらなかったわね。


「エベリナ様……」


 ぎ、と。軋んだような音に顔を上げると、リアンレイヴが隣に移動してきた。


「な……っ」


 途端、彼は私の手の上に重ねるようにして、自身の掌を置く。


「最初で、最後です」


「な、に……」


「誰かを美しいと思ったのも、その尊さにひれ伏す心地になったのも、毅然とした姿に圧倒されたのも、触れて、抱きしめたいと願ったのも」


「っ!」


「証明する機会をください。エベリナ様の長い時間の中で出会った数々の不誠実な男と、俺は違うのだと。ゆっくり、少しずつでいいので、俺を知ってからもう一度考えてはくださいませんか? 俺が、エベリナ様が自由を得た後の人生を任せるに相応しい男なのかを」


「……身体を取り戻して、逃げるかもしれないわよ」


「それならそれで、構いません。俺が、エベリナ様に見合うだけの男になれなかったのが原因ですから。俺と離れることがエベリナ様の幸せに繋がるというのなら、その時はきちんと身を引きます」


 ですから、エベリナ様。

 リアンレイヴは焔のような瞳に、恋しさを滲ませる。


「俺を意識して、俺を、利用してください。エベリナ様が側にいてくださるのでしたら、俺は、なんだってします。それこそ、皇帝の座も奪ってみせましたから」


 にっこりと微笑むリアンレイヴは、麗しいけれどどこか剣呑な気配も潜めていて。


(たしかに、これまでの誰とも違うわね)


 絆されたくはない、と思うのに、突き放したいとは思えないなんて。


「――リアン」


「…………いま、なんて」


「リアン、と呼んでいいのよね? あなたの名前、長くて言い難いのよ」


「ぜひ! ぜひ、リアンと呼んでください! ああ~~エベリナ様に"リアン"と呼んでいただける日がくるとは……この時を瓶に閉じめて保存する魔術は」


「ないわ。あったとしても絶対にやめて」


(ねえ、イシハ。あなたはまた私がいいように"使われている"と、泣いてしまうかしら)


 あなたの描いてくれた、一緒に見た夜空の色と似た髪を持つ"皇帝"。

 私は彼の、唯一の"月"になれると思う?


(二百年も経ったというのに、私はいったい、どこまで愚かなのかしらね)


「――ともかく、身体よ。この機を逃すものですか」


 私の宣言に、リアンレイヴは嬉し気に目元を和らげ大きく頷く。


「一刻も早く見つけ出し、自由の身となりましょう。エベリナ様」


「期待しているわ。……リアン」

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

ひとまずはここで一区切りとなります。

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