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魔導士皇帝は召喚する

「ん? つーことは」




 アッシュは嫌そうに顔をしかめ、




「その子供たちに若い女性ってのは、まさか出稼ぎにいかせてんじゃないっすよね?」




「いえ、違います! ですが……」




 村長は覚悟を決めたようにぐっと喉を上下させ、




「前皇帝陛下にも、皇宮まで減額の嘆願に赴いたことがあるのです。ですが……当然ながら、受け入れられず。どころかもし小作料が足りなければ、若い女と子供たちを献上させるぞと脅されたのです。子供も若い女も、高く売れるからと。……気に入った者は、自分に侍らせてやるとも」




(ああ、やっぱり)




 ラシートは暴君の名に相応しいほど気性が荒く、下劣だった。


 その前の"皇帝"も、ラシートほどではないにしろ似たようなもの。




 今回、"皇帝"が立ち寄るとの知らせを受け、子供と若い女性が奪われないよう隠したのだろう。


 そして、強硬策にうってでた。




(どのみち、小作料が収められないとなれば、なにかしらの"罰"が下るものね)




 リアンレイヴも理解したのだろう。


 ぐるりと室内を見渡した後、「そうでしたか」と息をつき、




「子供も若い女性も必要ありません。売るような趣味はありませんし、心に決めた方がいるので、それ以外は煩わしいだけです」




「へえー、前皇帝ってやっぱりドクズだったんすねえ」




「エベリナ様! エベリナ様はご無事でしたの? 下衆な男が主人だったなど、なんとお可哀想に……!」




 よよよ、と涙を浮かべるマーティの横で、さっとリアンレイヴの表情が抜けおちた。


 それまでとは異なる威圧感に、つい「リ、リアンレイヴ?」と戸惑いを口にすると、




「まさかあの男、エベリナ様にまで不埒な真似を……? 残った骨も粉砕してきます」




「私はただ戦闘に使われていただけよ! そもそも、私に触れることは出来ないのだから、不埒な真似もなにもないわ」




 途端、リアンレイヴがぴくりと肩を揺らすも、何か言いたげな目をして口を開閉させた。




「…………そうですか」




「なによ。なんなのそのたっぷりの間は」




 アッシュがやれやれと言わんばかりに首を振る。




「やっだなあ、エベリナ様。別に触れなくたって、方法はいくらでも――」




「まあ、やかましいお口はこのお口かしら? さ、アッシュ。食べ物に罪はないですわ。残されたら可哀想よ」




「ふぉが!? むむんふふぉひは!」




(だからその料理、魔力封じの毒が入ってるのよね……?)




 マーティにせっせと料理を詰め込まれているアッシュを、助けるべきか否か。


 悩んでいる間に剣呑な雰囲気を収めたリアンレイヴが、村長に向き直る。




「子供と女性達が隠されているのは、安全な場所ですか?」




「それは……」




 口ごもった村長におや、と周囲の男たちを伺う。


 すると、誰も彼も陰鬱な表情で視線を彷徨わせ、中には泣き出す者も。


 村長はやっとのことで重々しい口を開き、




「歩いて数時間ほどかかる森の中に隠しております。火は絶えずおこしておくよう言いつけ、明日の昼までに迎えがいかなければ、村を捨て別の村へ向かうようにと」




「は? 女子供だけで、森の奥に放置してんすか!?」




「愚策すぎますわ。いくら火を起こしていても、それだけで獣が避けるわけではありませんのよ? これでは"皇帝"の手を逃れたとて、どうなるか……」




 アッシュとマーティの言葉に、村長までもが「つらい選択でした」と涙を落とす。




「ですが他に手立てがなかったのです……!」




「ともかく、一刻も早く彼らを連れ戻すべきですね。小作料については、その後に話をしましょう。……アッシュ」




 リアンレイヴの呼びかけに、アッシュは「へーい」と軽く返事して、机にとんと手を乗せた。




「ありし時に戻れ。――"解術"」




 刹那、男たちを拘束していた枝葉が動き出した。


 かと思うとそれらは壁や机、床などにしゅるしゅると吸収されていき、茂みのようだった部屋の中は元の通りに。


 呆然としている男たちに、リアンレイヴが、




「皆さんに、急ぎ用意してほしいものがあります。村長、ご協力いだたけますね」




「あ……わ、我々は、何をしたら」




「森で待つ子供や女性たちが使っていたものを、急ぎ集めてください。服でも皿でも、なんでも構いません」




「それは、構いませんが……いったい、何を」




 リアンレイヴはにっと口角を上げ、




「それらを媒体に、彼らを村に召喚します。一人につき一つ。抜けのないようにしてください」

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