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このまま毎日投稿していけそうです。今週中には終わる予定です。
――その男は唐突に現れた。
武闘派で鳴らす天神組の事務所にふらっと現れた彼は、一瞬にして組員を5人打ち倒すと、一番の腕っぷしを誇る田沢をも一撃のうちに蹴り飛ばした。田沢は元・力士であり、現役時代は小結まで登り詰めた経歴のある男だ。その彼が事務所の窓まで吹き飛び、窓ガラスを打ち破って2階から落ちた。
下階からの悲鳴をBGMにして、その男は、震えたまま身動きの取れずにいた若頭にこう言った。
「――雇ってくんない? アンタらんトコの試合に出たいんだよね」
「――ってのがアイツとここの馴れ初めだ。その名は風鴎龍名――またの名を”風来龍”。この試合に出てまだ4回だが、全て勝利。それも圧倒的な強さを見せつけての勝利だ。今回も天神組の勝ちだろう」
「前回の”千両悪鬼”鬼嶋金煙――アイツとの試合も凄かったな。鬼嶋もベテランで試合巧者なのに……賭けた分、全部パーだわ」
「だから風鴎に賭けろって言っただろう。アイツは絶対にこの”廚”の台風の目になる。今日の相手は鬼怒組だ、あそこはロクな”包丁”がない。今日もきっとどこからか適当な助っ人を連れてきてあっさり壊すだけだ。全く、あそこの組合員は出来が悪い」
「あそこにいるのがそれじゃねーか? 何かあの――何だ? なんだあのデブ」
暗がりの観覧席で話す二人の視線の先に、白く照らされた空間があった。一見するとただのポッカリと空白の空間があるように見えたが、そこには透明な巨大な立方体が存在した。
「――強化プラスチックで出来たデカいサイコロだ。外からしか開けられない、中に入って戦うだけ。それをこの周りでふんぞり返ってる奴らが見てる。ギリギリ間に合って良かったね~~」
ジャージ姿の鉄生に、アキラがゴンゴンとプラスチックを殴って説明している。それを鉄生は暗い表情で聞いていた。
「こんなアリーナで見世物になるとは思っていませんでした。それに始まる10分前に着くなんて……計画性とかないんですか?」
「計画性あったらヤクザ屋さんなんてやってないよ~~? っていうか計画性云々を人殺しが言える? この法治国家の日本で」
話すだけ無駄だと思ったのか、鉄生は巨大な透明なサイコロの向こう側、向かい合うように立っている男に目をやる。彼は――少年と言っていいようなあどけない顔をしていた。フワフワとした髪にくりくりとした瞳、薄く笑う口元に陶磁器のような白い素肌。その顔の造形の良さに対して、肉体はアンバランスな程に鍛えられていた。身長は180㎝ほどであったが、絞りに絞られ、不必要な肉を削ぎ落した機能美に満ちた肉体は、西洋の彫刻と見紛う程だった。
「気になる~~? アイツが」
「いや、考えたくないです」
「でもでも~~相手は――気になってるみたいだよ?」




