第8話 不穏
また、あの夢を見た。
蒼い光が何度も、何度も、俺を貫くあの夢を。
夢から覚めることが出来た時は、少しの物音にすら大変驚いてしまった。
あの夢を見るんじゃないか…そう考えると、俺は寝ることが怖くなってしまった。
あの少女…、今度からは《ナイトメア》と呼ぶことにしよう。そっちの方が発音カッコいいし
《ナイトメア》から向けられた感情、あれは殺意だけではない別の感情も入っていたように感じる。
と言っても、人間から殺意を向けられたことがないから分からないのだが。
はぁ…、水でも飲んで落ち着こう。
夢はすぐ忘れるもの…のはずだ。
部屋を出て、恐らくまだ寝ているマオとヒカリを起こさないよう物音を出さずに階段を降り、まっすぐ玄関へ向かう。
…扉を静かに開け、井戸へ。
子供でも簡単に水を汲めるようになっているこの井戸凄いな…と思う一方で、蛇口捻ればすぐ飲める水が出てきてくれる日本のことも考えてしまう。
水を飲んで落ち着いてきた。
「急にシリアス寄りにならないでほしいんだけど!一応ギャグ寄りで行ってるんだから」
夢のことなんて考えている場合ではない。
確かクロノスが神器を持ってきてくれると言っていたはずだ。
どうやって神器…、二振りの剣を持ってくるのかを考えそうになったが、一応寝起きなので難しいことを考えたくない。
「よし二度寝しよう!いや三度寝か。」
というわけで帰宅。
静かに階段を上がり、自分の部屋へ向かう。
「おはよう、エレナ。早起きとは珍しいの?」
「おはようマオ、そっちも早起きなんだね」
マオはいつも早起きだ。朝早くに起き、魔術のトレーニングを欠かさない努力家。
近所への騒音被害を考慮して、出力を調整しつつトレーニングしている。
周囲の人への気遣いも出来ちゃう魔王系転生美少女である。
しれっと罵倒してきたような気がするが、気にしない。
正しくは、そんなことを気にするほどの余裕が無いだけだが。
「エレナ、顔色が悪いようじゃが…?」
勘付かれないよう気を付けていたはずだが、隠しきれなかったらしい。
マオの勘が良いのか、それとも余程俺の顔色が悪いのか。
「お主のようなアホも風邪を引くんじゃの」
前言撤回、気遣いなんて出来ないアホ魔王である。一瞬でもこいつに期待した俺が悪かった。
「このっ…!」
「おー、よかった。キレるくらいの元気はあるようじゃな。思い過ごしでよかった。
風邪の時のエレナはただの美少女じゃしな。」
「いつも美少女だが?」
この身体は借り物なので当然である、純粋な異世界産美少女なのだ。そりゃ美少女であって当然だろう。
いつか返さないとな…。
「そうそう、さっき綺麗なお姉さんがお主を訪ねてきたんじゃが…、誰じゃ?あの綺麗なお姉さん、儂にも紹介しろ。」
「あー…」
答えようとして、伝えていいものかと迷う。
マオは魔王…前世の話だが、魔族の中では穏健派で人間と敵対関係ではなかったが、魔族た女神は敵対関係のはずだ。そんな敵対関係の親玉からの遣いを紹介していいのか…?
「大丈夫?怒んない?魔術撃たないでよ?」
「む?大丈夫じゃろ、そんな悪魔とか天使、邪神とか聖女とかじゃあるまいし…」
「多分聖女」
「《魔術構築開始》」
本気で魔術を撃つ準備するのはやめてほしい。
魔法陣を構築することで、魔術詠唱を効率化させる。
その場所から動けないというデメリットこそあるものの、魔法陣に込められた膨大な魔力により如何なる攻撃を受け付けず、その上で魔法陣の影響を受けた無数の魔術を放つ。
魔術師における最大にして最強の、敵を殺す手段。
それをマオは一瞬にして起動したのだ。
「すまんな、聖女と聞くとつい癖での…」
やっぱり聖女とは相性が悪いらしい。
聖女が同行の旅になるかもしれないので大変不安だ。
「いやー、前世で父上や部下を瞬く間に鏖殺してった《死の聖女》のことを思い出してしまっての…つい展開しかけてしまった。…まあ少なくとも、さっき来たお姉さんは…そうじゃの。今エレナの後ろにある森から見つめてるお姉さんじゃからその《死の聖女》とは関係なさそうじゃの」
マオから言われ、はっと振り向く。
後方にある森、そこに蒼い光が瞬く。
つい目を凝らしてしまうと、そこにはあいつが、あの悪夢が。
《ナイトメア》が、そこに居た。
「見つけた」
はっきりと、俺の耳にそう届いた。
最後までお読みいただきありがとうございます。誤字・脱字報告、感想お待ちしています。
ヒカリ「まさかこいつが…メインヒロイン…!」
マオ「いや違うじゃろ」
ヒカリ「あっ、エレナが気絶してるし多分違うかも…」