おいもほおばろ
いしやーきいもー
のんびりした歌声が聞こえる。石炭の香ばしい匂いとほんのり甘い香りが鼻をくすぐる。心做しかお腹がぐーとなった気がした。
匂いに誘われて歌声が聞こえる方に近づくと、焼き芋を売るおじいさんが船を漕いでいる。ガランとしてラジオから一周した歌声が流れてくる。
「おじいさん、焼き芋ひとつ下さい。」早く焼き芋を食べたい欲に駆られながら、強くなりすぎないように肩を叩く。
「何か用かい。」寝ぼけながら、おじいさんは尋ねた。
「焼き芋ひとつ下さい。」先ほどより大きな声で答えた。
「500円だよ。」よっこらせと腰を上げ、指さした。
サイフから500円玉を取り出し、強くなった甘い香りに胸を踊らせる。
500円玉をおじいさんに渡し、器用に紙に包まれた焼き芋を両手で受け取った。
「いただきます。」
焼き芋を熱い、熱いと慌てながら、真ん中で割る。綺麗な黄金色のお芋が見えてくる。薄らと立つ湯気に涎が零れそうだ。
思わず、1口頬張ると口の中で熱さと甘さに目を大きく見開く。口を忙しなく動かし、甘さを堪能する。
ようやく落ち着き、息を漏らすと、焼き芋と同じ白い息が出た。目尻を下げながら、もう一口と大きく頬張った。
「ご馳走様でした。」
紙をたたみ、ホクホクする。おじいさんにお礼を言いに行くと、再び船を漕いでいた。起こさないようにゴミ箱に紙を捨て、小声でありがとうと呟く。ふごっと音がした。音に思わずクスクスと笑っていると、町内ラジオの音楽が聞こえてきた。ふと空を見上げると、薄らと茜色に染まっている。秋が来たのだと目を細めた。