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088 幕間 其の壱 出会い

 綾野亮は、いつもと変わらない静かな自習室に座っていた。

 目の前のPC画面には無数のコードが並び、その複雑さに頭はフル稼働である。

 キーボードを叩くリズミカルな音だけが部屋に響き、彼の集中はさらに深まる。

 周囲の学生たちは誰も近づこうとはしない。

 いつもそうだった。

 綾野亮は天才だったが、天才ゆえに、誰とも打ち解けることができなかった。


 幼い頃から、他とは違う感覚。

 物事を理解するスピード。

 考え方。

 同年代の子供とはかけ離れていた。


 そのため、友達を作ることもなく、学校では常に一人で過ごしていた。

 大学に入ってからも、その孤独は変わらなかった。


 一人でいる方が気楽だと思っていた。

 少なくとも、他人に合わせる必要もないし、誤解されることもない。

 コードを書いている時だけが、自由であり心地よい時間。

 亮の作るゲームの世界は、亮だけのものだった。


 その時、不意に後ろから声が聞こえた。


「お前、すげぇな…」


 耳に飛び込んできたその言葉に、亮は驚いて手を止めた。

 振り返ると、そこには一人の青年が立っている。

 口元には軽い笑みを浮かべ、目は亮のPC画面を興味津々に覗き込んでいる。

 普通なら誰も自分に声をかけない。

 亮がそんな反応を見せたのも当然だった。


「何してんだ? ゲーム作ってんのか?」


 その青年の目は、亮が表示していたコードの画面をじっくりと見つめている。

 言葉を失っている間も、旧友のように話しかけてくる。


「まあ、俺には全然わからねぇけど、こんなこと一人でやってるなんて、マジですげぇな。天才だろ、お前」


 その言葉に、亮は戸惑いながらも何とか返事をする。


「…まあ、そんな感じかな。うん、ゲームを作ってる…」


 その瞬間、青年はさらに笑顔を広げ、亮の隣に座った。

 普通なら、そんな突然の接触に拒絶反応を示すところだが、なぜかその青年の態度には警戒心を抱かなかった。

 それどころか、彼の自然な接し方に、どこか安心感すら感じていた。


「俺、佐藤健吾。お前、名前は?」


「綾野亮…」


「綾野亮か! かっこいい名前じゃん。亮、俺はお前に興味があるぞ。実は俺、昔からこういう頭使う話が好きでさ、ゲームとかも好きなんだよ。お前となら、なんか面白いもの作れるんじゃないかって思うんだよな。」


 佐藤は、自分の好きなジャンルに触れながら話を続けた。

 彼の言葉は軽妙だったが、その裏には真剣な情熱が感じられた。


「お前みたいな天才と組んで、スリル満点のゲームとか作れたら、絶対面白いだろうなって。どうだ? 一緒に何かやろうぜ。」


 一瞬の戸惑い。

 自分と一緒に何かをしたいと言われることは、これまで一度もなかった。

 いつも一人で完結してきた世界に、突然飛び込んできた健吾の存在は、亮の心に大きな波を立てた。


「…スリル満点のゲームか。面白そうだね。でも、どういうのを考えてるの?」


 亮がそう尋ねると、健吾は笑みを浮かべながら続けた。


「まあ、細かいところはこれから考えるとして、頭を使って、駆け引きとか裏の真実が隠れてる、そんな展開がいいなって思ってるんだ。お前なら、そういう複雑な構造を作れるだろ?」


 その言葉に亮は静かに頷いた。

 確かに、自分一人では考えつかなかった視点だ。

 スリルや駆け引きの要素は、ゲームという媒体で非常に魅力的に映る。


「…確かに、それは作り甲斐がありそうだね。やってみようか」


「よっしゃ! 亮、最高だな! 俺ら、きっとすごいの作れるぞ」


 こうして、二人の友情と新たなプロジェクトが始まった。


 ◆◆◆◆


 綾野亮と佐藤健吾の出会いから数ヶ月。

 二人は瞬く間に親友となり、毎日のように互いの夢を語り合うようになっていた。

 亮は幼い頃から一人でゲームを作り続けていたが、健吾との出会いをきっかけに、何か大きなことができるのではないかという希望が生まれていた。


 ある日の夕方、大学のカフェで二人はこれからのことについて話し込んでいた。

 健吾はコーヒーを飲みながら、いつものように情熱的に語り始める。


「亮、お前の才能は半端じゃない。俺、ずっと考えてたんだけど、俺たちで会社を作らないか?」


「会社ぁ?」亮は少し驚いた顔で健吾を見る。


「そうだ。お前のゲーム、絶対に売れるって。俺はビジネス面を担当するからさ、お前はゲームの開発に専念できるようにする。どうだ? 大学在学中に会社を立ち上げて、卒業する頃には俺たちの名前が世に出るぞ」


 亮は少しの間、無言で考えた。

 これまでずっと一人でゲームを作ってきた亮にとって、誰かと一緒に会社を作るという考えは未知の領域だ。

 しかし、健吾の言葉には強い自信があり、それが亮の心を動かした。


「…本気か?」


「もちろんだ!」健吾は熱を込めて答る。

「お前も俺も、すごい価値がある存在だ。だからこそ、俺たちの価値を守るための会社を作るんだ」


「価値を守る…?」その言葉に興味を引かれた。


 健吾はにっこりと笑い、「『Valteinヴァルテイン』って名前にしようと思うんだ。『Val』は価値って意味で、『Tein』は保つ、守るって意味がある。俺たち二人の価値を、この会社で守り続けるって意味を込めてさ。」


 深い意味の込められた名前。

 亮と健吾、二人の価値を永遠に守るという意味。

 それは、ただのゲーム開発を超えた、二人の人生そのものを形にするものだ。


「…悪くないね。ヴァルテインか。」亮は小さく頷いた。「やるなら本気でやろう。」


 健吾はさらに嬉しそうに笑いながら続けた。

「それに、お前が言ってたゲーム、ちょっと前に話したやつ覚えてるか?プレイヤーが謎解きや裏切りを駆使して進めるやつ。ああいうの、スリル満点で絶対ウケると思うんだよな。お前が作れば最高のものになるはずだし、俺も昔からそんな話が大好きだったんだ」


 健吾は、彼が幼い頃から好きだった「謎」や「駆け引き」を織り交ぜた話をさらりと語ったが、その情熱には亮も心を引かれた。

 ゲームという形式で、こうした要素を生かせるのは確かに魅力的だ。


「やるなら本気だね。ヴァルテイン、か」


「そうだよ! 俺らなら絶対成功させられる」


 こうして、二人は大学在学中にゲーム開発会社「Valtein」を立ち上げる決意を固める。


 翌日から、二人は会社設立に向けて動き始めた。

 健吾は資金調達や法的手続きを担当し、亮はゲームの開発にさらに力を入れた。

 授業が終わると二人は自習室やカフェに集まり、夜遅くまで作業を続けた。

 大学のキャンパス内では、いつも二人が真剣に話し合っている姿が目撃されていた。


 健吾は驚くほど迅速に資金を集め、数名のメンバーも巻き込んでプロジェクトを拡大していった。

 一方の亮は、目を見張るようなスピードでゲームのプロトタイプを完成させ、その出来栄えは誰もが驚嘆するものだった。


 数ヶ月後、ついに「株式会社Valtein」が正式に設立される。

 小さなオフィスを借り、そこが彼らの拠点となった。

 大学卒業前に自分たちの会社を持つという夢が現実になった瞬間だった。

 健吾は満面の笑みを浮かべ、亮に向かって手を差し出した。


「ヴァルテイン、設立だ!」


 亮はその手を握り返し、言葉少なに微笑んだ。心の中では、未知の未来に対する期待と不安が入り混じっていたが、健吾と共に歩む道が確かにあると感じていた。


「これからだね」亮は静かに言った。


「そうだ、ここからが本番だ!」健吾は元気よく答えた。「俺たちで作ったこの会社、絶対に成功させような」


 ヴァルテインという名前には、二人の友情と夢が詰まっている。

 そして、彼らは未来に向かって進む道を共に歩んでいた。

 しかし、彼らはまだ、この先に待ち受ける試練と、二人の道が分かれる瞬間を知る由もなかった。





身内の不幸によりだいぶ休んでしまいましたが、また頑張っていきますのでよろしくお願いいたします。

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