087 (弐章最終話) 弐章 其の肆拾 コールドリーディング
エビテ城。
城内には地下の廊下がある。
この廊下は不思議な作りになっており、壁は全て扉の形になっていて幾百の扉が並んでいるように見える。
扉に模したフェイクの壁もあれば、隠し部屋や隠し通路の扉になっている。
全ての扉を知っている者はいない。
この扉の一つに宝物庫に繋がる扉があるらしい。
空いている隠し部屋の一つを提供してもらい、マルボとセッターで改良して牢と会議室を作った。
マルボが魔法と魔法回路で改良しガイオー専用の牢にしたのである。
セッターは土の精霊ノームの力でマルボのサポートをした。
その牢の隣に会議室を作り、今後ここで話し合えるようにした。
ガイオーの隣で会議する事で、ラークとマルボがガイオーの反応を監視する。
尋問、拷問には屈しないであろうが、どうも根が真面目なのか顔にすぐ出る。
現在、その会議室ではラークとマルボに牢番の兵士が一人、鉄格子を挟みガイオーがいるだけである。
牢の中のガイオーは姿勢を正し目を閉じて正座している。
杖を持ったまま、背もたれ側を前に椅子に跨り、マルボがガイオーに話し掛ける。
「正直ね。僕はあんたをそこまで嫌いじゃない。自分を追い込み鍛え続けた人間は敵であっても尊敬できる。でも、ワカバの両親の件やマティの事を許すわけにはいかない」
「正面から堂々と戦うタイプだよな?お前なんで《虚偽》と連んでる?」
ラークが質問する。
「……」
ガイオーは黙って目を瞑っている。
「あんたも騙されてるとか?」
マルボの問いにガイオーの眉がピクリと動く。
「わかりやすいなー。騙されてるかどうかは別としても、今の反応は何かあるってことだよね」
マルボは続けて言う。
「あんたは別に僕の言う事に答えなくていい。何を聞かれても黙秘権は認める。僕はあんたに質問するけど別の事を考えていてもいい。ただ、目を閉じて黙っていてもいい。僕が勝手に喋っているだけだ」
そう言われると逆に意識してしまうのが人の性だ。
ガイオーの表情が強張る。
ラークの感知スキルでガイオーの一挙一動を見逃さない。
「ピアニスは前世の魔法が使える。そんな事もあるから、あんたの超能力は前世の力だよね」
ガイオーは微動だにしない。
「何で全ての世界を無にしたいやつらに力を貸してるのかな?無にするって目的知らない訳じゃ無いよね?」
「……」
ガイオーは何も言わない。
「前世で裏切られたとか?」
ガイオーの眉が少し動いた。
ラークがマルボを見るが、マルボは分かっているとラークに合図を送る。
「前世で裏切られたから、もう全ての世界を壊してしまいたいなんて思ってるのかい?」
「……」
やはり何も言わないが、明らかに動揺している。
「マルボ、何で分かるんだ?」
ラークがマルボに聞く。
「ガイオーは鍛練に鍛練を重ねて生きてきてる。前世でも同じように生きてきたはず。根は真面目で嘘もつけない。このタイプが堕ちるのは情熱を賭けたものを失ったときや……」
ガイオーは目を閉じて話を聞かないようにしている。
しかし、その挙動が不自然でマルボの発言を肯定してしまっている。
「情熱を賭けたもの自体から裏切られた時だね。だから、もう何もかも壊してしまいたいんだろ」
ガイオーは目を開き、鋭い眼光を向ける。
「当たらずとも遠からずか。本当分かりやすいなお前」
ラークがガイオーに話しかける。
「ガイオー、お前、日本人だよな?」
またもガイオーは目を閉じる。
「僕達と違う異世界の日本人だよね?」
マルボの言葉に「チッ」と舌打ちをするガイオー。
どう見ても図星である。
「俺達がいた世界には超能力なんて無いからな」
「いや、待って、ラーク。僕らがいた世界に超能力が無いなんて証明されてないよ!」
余計な事を言って、マルボの浪漫を刺激してしまったとラークは思った。
「まぁ、僕達の前世の世界では、超能力があったとしても表立ってはいないね。でも、あんたの前世では、日常的に超能力があった。 全員使えるのか、一部の人が使えるのか……」
暫く沈黙が続く。
「一部の人が使えたんだね」
マルボがそう言うと、目を閉じているガイオーの顔が歪む。
「なるほど。あんたは使えなかったと」
ガイオーは何も言わずに目を閉じたまま、歯ぎしりをしている。
「そして、超能力に騙されたってとこかな?」
ガイオーの表情はさらに険しくなっていく。
「何で分かるんだ?」
マルボの推理に驚いたラークが声をかける。
牢番の兵士も目を丸くしてマルボを見ている。
「ふっふっふ、それは秘密だよ」
実はマルボは何も分かっていない。
二択の一つの答えをあたかも分かっているように言っているだけである。
分かっているように話を進め、ガイオーの反応で答え合わせをしている。
間違っていたら、「やっぱり、そっちか」と分かっていたかのように言うだけだ。
マルボは会話術のコールドリーディングを使っているだけなのだ。
だが、ガイオーは完全にハマってしまっている。
ガイオーはラークやマルボのいた地球と少し違う地球の日本から転生してきた。
その地球では超能力が使える人物が数千人に1人いる世界であった。
ガイオーは前世ではプロ格闘家であった。
練習の鬼と言われ世界大会で日本人として初めて世界一になりその後数年間世界一の座を守り続ける。
とある日本国内の大会で初めて負けた。
だが、ガイオーは喜んだ。
生涯のライバルである。
人生を掛けてもいい相手に巡り合えたと思ったのだ。
ガイオーは更に練習を積んだ。
睡眠時間を削り、血尿が流れても日々鍛錬を続ける。
何度も挑むが負ける。
その度に情熱を捧げ自分を追い込んでいった。
まさに人生の全てを捧げるという所業であった。
しかし、ある日のニュースがガイオーの全てを奪う。
ライバルは超能力者であった。
超能力者はスポーツ選手になってはいけないルールがあり偽造して出場していたのだ。
ライバルの男ははただ、金と名声が欲しかっただけだった。
お互いの技を競い合い、お互いを高め合う事が道であると信念を持っていたガイオーは絶望する。
その後ガイオーの人生は、死ぬまでの時間をただ生きるだけの為に使った。
老衰で亡くなり気が付くとこの異世界に魔族として転生していた。
そして前世では目覚めなかった超能力を持っていた。
自分の信念を裏切った忌むべき存在である超能力が、転生して開花する皮肉。
歪んでいく精神にアンラ・マンユが導きを示す。
神々の秩序を裏切る側に来るように……
裏切られた者は、世界を裏切る権利があると思わないかと……
全ての世界を無に還すために……
「なぁ、お前、この世界で戦ってて楽しくはなかったのか?この世界なら超えられない壁いくらでもあるだろ?」
ラークはガイオーに問う。
「望まずに手に入った力に何の価値があるっ!」
ガイオーは叫び鉄格子を拳で叩きつける。
その時、コンコンと扉を叩く音がする。
「ムサシとキャメルが来た。開けて貰えるかな」
ラークが感知スキルで察して、牢番に声を掛けた。
扉が開くとキャメルを肩車したムサシが入って来た。
「何でキャメルを連れて来たんだ?」
「キャメルが来たいと言ったでござるよ」
ムサシはキャメルを床に降ろしながら答える。
「どうして、繋がりを切っちゃったの?」
キャメルがガイオーに尋ねる。
ガイオーはキャメルから目を逸らした。
まるで怯えてるようだった。
「もう、戻れないんだよ」
キャメルがガイオーに寄っていく。
「どう言う意味だ?」
ラークが口を開く。
「生きとし生けるもの、神も含め、全ては繋がっているでござる。しかし、アンラ・マンユやこのガイオーは繋がりを絶ってしまったでござる」
「どういう事だ?いや、何で分かるんだ?」
ラークがムサシに聞く。
「アシャとの会話の後、拙者とキャメルはそれが分かるように成ったでござる」
キャメルが鉄格子を握るガイオーの手を両手で包み、そして涙を流した。
「やめろーーっ!!俺を、俺を憐れむなー!!」
ガイオーは叫び、頭を抱えてしゃがみ込んだ。
そして、泣き崩れた。
「お前も、魔神の血で壊れていたのか……」
ラークが驚きの声を上げた。
マルボがガイオーに睡眠の魔法を掛け、寝かせた。
「キャメル、大丈夫か?」
「うん、大丈夫……」
「後悔しているのかもしれぬ。戻れぬ道を歩んでしまった事を……」
「ワカバに会わせる?」
「時期を見てな」
ワカバの両親の殺害に関与しているであろうガイオーを、ワカバに合わせるのはまだ早いとラークは思っていた。
◆◆◆◆
次の日、ラーク達は王城のある部屋に呼ばれた。
扉の前にはメビウスが立っていた。
部屋に入るとベッドに一人の女性が座っている。
ただ、ずっと窓の外をみつめているだけである。
「エスよぉ〜。この子が私の娘でもありぃ〜、神の子のエスぅ〜。よろしくねぇ〜」
エスは窓の外を見たまま微動だにしない。
「意思の疎通が出来ないんだ。魔神インドラと戦った時からね」
セッターが話し出しエスの横に座り手を握る。
ラーク達は窓側に行きエスの前に並んで立った。
「……」
ラーク達は少し驚いた。
何というか、容姿が……
「ブサイクだろ?」
セッターの言葉に皆が反応する。
何人かはセッターの言葉に嫌悪感を抱いている様に見える。
「でも、俺はエスを愛している。勇者の愛ではなく、一人の女性として愛している。彼女以上に愛する人は俺が生きている間は現れないと決まってるんだ」
セッターは真剣にそう言った。
ワカバは手で口を抑えて涙を流している。
ラークにはセッターとエスがとても美しく見えた。
キャメルがエスに近寄り手を握った。
すると今まで反応が無かったエスがキャメルを見て微笑んだ。
「え?」
セッター、メビウス、ガラム、ピアニスが同時に驚き声を上げた。
「笑った!今、確かに笑ってたわ!」
「嘘ぉ〜!?」
「そんなバカな!!」
その一瞬だけであった。
その後のエスはいつも通りであった。
「きっと太陽なんだ。キャメルが太陽になってくれたから、笑う事が出来たんだよ」
セッターは涙を流し喜んでいた。
この後ラーク達は正式にドゥルジ討伐作戦へ参加する事を決める。
5年後の第50回テプラン王国武闘大会へ向け作戦が練られる事になった。
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ここまでお読みいただきありがとうございます(*ᴗ͈ˬᴗ͈)ꕤ*.゜
弐章これにて終了です。
次回更新は未定です。
暫くお休みいたしますが、書き続けてはいますので是非応援よろしくお願いします。
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コールドリーディング
会話術の一つです。 相手の情報を事前に知らなかったり聞いたりしていなくても、外観や話し方、何気ない会話などから相手のことを言い当てることで、通常は相手に信じてもらうためのテクニックで占師等が使います。
なお、相手の情報を事前に知っている状態から言い当てるように話す会話術をホットリーディングといいます。




