085 弐章 其の参拾捌 マティの葛藤
キャメルがシルフを介してセッターの呼び出しを感じ取った。
アマルテアはラーク達に向かって飛ぶが、反対方向に引き離されている為、時間が掛かりそうだ。
ラーク、マルボ、セッターはマティ達と思われる魔力を感じた場所へ急ぐ。
「ラーク、ガイオーは感知力は高いと思う?」
「高く無いはずだ。感知力が高ければチョパイ島で早くにマティやエルフの里をみつけていたはずだ」
その言葉でマルボは足を止めて空中に超高熱領域を発生させる。
「奇襲か?届くのか?」
「アシャとの会話で色々知ってね。魔法理論を組み替えたんだ。少しの距離なら超高熱領域自体を移動させられるし、動きながら少しは魔法が撃てるよ。それより、作戦どうする?ガイオーの能力に対抗できそうなのはラークだけだ」
「俺がガイオーとマティを引きつける。セッターはもう一人を頼む。隙が出来ればマルボの魔法だ」
「駄目だよ!そんなの!ガイオーとマティ2人相手なんて無理だよ!」
だが、ラークの目からは確固たる意志が感じられる。
「マルボ、これは譲れない」
「ラーク、もう1人の魔族と思われる奴は俺が引き離す。ムサシ君達は数分で来れるはずたから無理しないで」
「了解だ」
「本当、無理しないでよ」
ラーク達はガイオー、マティ達の近くまで来た。
木々や岩の物影から様子を伺うが、まだ気づかれていないようだ。
川辺にマティとガイオー、もう一人魔族がいた。
マティの肌は褐色になってしまっているが、美しく長い銀髪と、美形の容姿はそのままである。
ガイオーは籠手を着けていない。
数多く生産するのは難しい籠手なのだろうか。
もう一人の魔族は仮面を着けている。
蛇のような竜の精霊ナーダが仮面の魔族に掴まれている。
「!!!」
仮面の魔族は精霊ナーダを飲み込んだ。
「何したんだ?あいつは!」
「まさか……」
マルボは何かに気づいたようだ。
「くそっ!遅かった!あれは精霊を喰らったんだ」
セッターが悔しがり、拳を握る。
「精霊を喰らう?」
「ラーク、魔神は精霊を食べるって話し覚えてる?」
「……魔神の血で魔人になった奴も精霊を吸収できるって事か?」
「もう、考えても仕方ない。奇襲をあの仮面野郎に仕掛ける。マルボ・ビィィームッ!!」
圧縮された熱線が仮面の魔族を襲撃する。
だが、仮面の魔族は空気を振動させて熱線を拡散させた。
「マジかよ……」
「音の精霊ってそういうこと?」
セッターが飛び出して仮面の魔族に攻撃を仕掛けた。
ガイオーとマティが気付きこちらに向かってくる。
ラークも飛び出しセッターと距離を取りガイオーとマティを引きつけた。
作戦通りではあるが、ラークは二人を相手にしながら思う。
(こいつら、やっぱり強い)
その瞬間、マティに熱線が襲撃する。
マティは難なく避ける。
「愚かな!神であるこのタローマティに楯突こうとは!」
ラークの方も驚いていた。
まさかのマティへの攻撃。
「マルボッ!」
マルボはラークにアイコンタクトを送る。
当たっても致命打にならない威力で援護すると。
「どっちも死ぬなよ!」
ラークはガイオーをメイン相手にし、マティはマルボに任せる。
だが、唐突にマティの動きが止まったのであった。
「ん?」
マルボが何かに気付いた。
マティはミスリルソードをマルボに向けているが、目でラークを追っている。
「あれぇ?そういうこと?」
マティの挙動がおかしくマルボは攻撃を止める。
「試してみようかな……おーい!マティー!」
マルボはマティに呼びかけた。
マティはマルボの方を向きながら返事をする。
「妾はタローマティ。マティでは無い」
「ラークはいつもマティの事考えてるらしいよっ!」
「おい!マルボ!」
ガイオーの攻撃を避けながらラークが叫ぶ。
剣技・体術に優れているガイオー、加えて衝撃波と超能力が使える強敵。
いかに感知スキル持ちのラークといえど、避けるのに必死なのだが……
「そ、そんなのオラに関係ねぇべっ!」
マティが顔を赤らめながら、声を張り上げる。
「えっ…?」
マティの言葉にラークも驚いた。
ラークは短剣を伸ばし槍にしてガイオーに攻撃を仕掛ける。
ガイオーが距離を取り下がった。
その隙にラークはマルボの横に並ぶ。
マティはオロオロしている。
「マティに何が起きてる?」
「精神が完全に支配されてないっぽい。マティの精神がまだ残ってるんだよ」
「なるほどな。何か手はあるのか?」
「あるにはあるけど……ゴニョゴニョ……」
「はぁっ?マジ言ってんの?」
「やってみる価値はありますぜ!」
満面の笑みで親指をグッと立てるマルボ。
なんとも言えない顔をするラーク。
マルボがラークに伝えた作戦は、どさくさに紛れて《マティのお尻を触れ》であった。
「俺が触ると犯罪だろ……」
「大丈夫だって。タローマティからマティの精神を起こすのが目的なんだからさ」
「くそっ!もうヤケクソだ!」
ラークがガイオーに向かって行く。
またも、マティはマルボに剣を向けながらラークを見ている。
「ちぃっ!タローマティ!こっちの男を攻撃しろ!」
ガイオーがマティに命令する。
「あーあ、ガイオーさんともあろう方が、弱点認めちゃって!」
マティは意識が分散していた為動けなかった。
マティの意識はラークを追い、タローマティの意識はマルボを攻撃したいのである。
意識を集中させればラークへの攻撃は可能であろう。
だが、ガイオーの言葉はマティの中で葛藤がある事を証明するようなもの。
マルボは確信を得たのである。
「お前を躊躇なく攻撃できるんだよっ!」
マルボビームがガイオーを襲撃する。
「くっ!」
ガイオーの目が光り、テレポーテーションで熱線を避けるが、ラークがガイオーを追撃する。
ガイオーは左手をかざし衝撃波を飛ばすが、ラークは身体を捻らせ避け、そのまま槍状態でガイオーの左足を斬りつける。
アキレス腱を切った!ガイオーが片膝をつく。これで左脚は使えない。
「ぐおっ!貴様……」
「おいっ!ガイオー!お前何者だ?お前日本人の転生者だろ?」
マティの攻撃を避けながらラークはガイオーに問う。
「ふんっ!貴様らに話す事は……」
言い終わる前にマルボが再度熱線を発射。
ガイオーは飛び込んで熱線をかわす。
受け身を取って立ち上がった。
「柔道か!」
すかさずラークは、ガイオーに向かって走る。
何を思ったのか、ガイオーと組み合った。
だが、ガイオーは左脚を突き上げラークの上半身を引きつけ左脚でラークの左脚を刈る。
柔道の大外刈りであった。
地面に叩きつけられたラークだが、すぐに体を捻り立ち上がって距離を取る。
アキレス腱が切れているガイオーは追撃が出来ない。
「すっげー大外刈り!お前、前世、柔道選手だろ?」
「ふん、貴様に答える義理は無い」
マティは、ラークとガイオーの攻防に割って入れず立ち往生している。
ラークがマルボの近くに立つ。
「どうする?時間稼ぎはあいつらにとっても好都合かもしれない。だからと言って倒しきれる気もしねぇ」
「ガイオー、左手は完全に治ってないね。籠手も無いし、対策も考えてたのに、あの強さ。マジでチート……」
マルボがガイオーに目を向けると、アキレス腱を治癒していない。
回復魔法は使えないようだ。
チョパイ島の時は回復魔法を使っていた。
籠手の能力であるとマルボは確信する。
「おい!ガイオー!もうすぐムサシ達が来る!逃げるなら今のうちだぜ!」
ラークの言葉にガイオーはニヤリと笑う。
「何か策があるね。また転移魔法のお迎えかな?あの魔法陣見て解析するチャンスかもね」
「どっちかと言うと、俺達の方が分が悪いのに、マイペースだな」
ラーク、マルボとガイオー、マティは膠着状態になり身動きが取れない。
ガイオーが親指で仮面の魔族を指差した。
「いいのか?あいつは神より強いぞ」
ハッとなってセッターと仮面の魔族を見るラークとマルボ。
仮面の魔族は4本の剣を鞘に収めたままセッターの相手をしている。
その動きには無駄が無く、流れるような動作で攻撃を繰り出していく。
「くそっ!かまいたち!」
セッターのトンファー・ブレイブハートが光り輝く。
精霊かまいたちの力でトンファーの先に光の刃が伸びる。
そして、トンファーを高速回転させながらセッターが斬りかかる。
しかし、その攻撃は簡単に避けられ、カウンター気味に腹部に蹴りを食らう。
「ガハッ……」
そのまま後方に飛ばされ倒れた。
ガイオーがラーク、マルボに左手を向けたまま叫ぶ。
いつでも衝撃波を出せる構えだ。
「メガナーダ!!勇者を早く片付けろ!」
「まずい、セッターがやられる……」
だが、ラーク、マルボは身動きが取れない。
アキレス腱が切れているとはいえ、ガイオーには超能力がある。
テレポーテーションで瞬時に背後を取られれば、感知スキルがあるラークはともかく、マルボは回避出来ないだろう。
ラークが近接で戦っていた方が危険度が低かったのかもしれない。
その時であった。
「ぬぅぅ……がぁぁっっ!!」
メガナーダと呼ばれた仮面の魔族が変身した。
肩から腕が生えて4本の腕となり、身体全体が巨大化した。
「あいつ、魔人化しやがった!」
「ヤバい!セッターが!」
マルボがセッターに駆け寄る。
ガイオーの目が光る。
ガイオーがマルボの後ろにテレポートした。
ラークがガイオーに攻撃を仕掛けようと走ると目の前にマティが現れ、ラークの短剣とマティのミスリルソードがぶつかる。
ガイオーがマルボの背後から剣を振り上げていた。




