083 弐章 其の参拾陸 雷神剣
ムサシが目を開く。
神の神殿に何か迫っている気配を感じた。
同時にアマルテアが姿を現す。
『我が息子よ。感じたか?』
「御主は父ではござらんが、悪き気配は感じとっているでござる」
「え?何?どうしたの?」
アシャの像の前に座りはじめたワカバがムサシに声をかける。
『我が息子よ。我の背中に乗れ』
「御主は父ではござらんが、承知したでござる」
『勇者のお嬢さん。君も乗りなさい』
「うん」
促されムサシとキャメルがアマルテアに乗る。
アマルテアはそのまま飛空して神の神殿の外に出て神殿の屋根に止まる。
外にいたラークとケントが何事かとアマルテアを見る。
ピアニス、セッター、ワカバ、ベルモート、三姉妹も外に出てきた。
マルボはアシャの前で夢中になったままだ。
「何が起きた?」
「分からない。ムサシが目を開いたら突然、こうなったわ」
ラークの問いにピアニスが答える。
「取り敢えずマルボ連れてくる」
ラークは神殿の中に走って行った。
『かなりの数だ』
「アマルテア殿、何か策があるでござるか?」
『父と呼んでくれ』
「嫌でござる」
キャメルは意味も分からず笑っている。
「何か策があるなら始めるでござるよ」
ムサシは木刀の柄でアマルテアを殴る。
『痛っ!……』
何故かオスのアマルテアに辛辣なムサシ。
ラークとマルボが神殿の外に出て来た。
「もー、折角良い感じだったのに」
「何か異変だって言ってんだろ!」
アマルテアが彼方に向かって叫ぶ。
『来いっ!!雷鳥!!』
「雷鳥?」
マルボが目を輝かせる。
「はいーーーっ!」
遠くの空から勢いよく黄色く輝く鳳が飛んでくる。
精霊雷鳥、雷を司る精霊である。
雷鳥はアマルテアの目の前で止まった。
『お前は今より、この勇者のお嬢さんに宿れ』
「えっ?いいんですか?」
『早くしろ』
「はいーーーっ!勇者様よろしくお願いします!」
「うん!らいちょーさんだから、ちょーさんだね。ちょーさんよろしくね」
「おいっす!」
雷鳥は嬉しそうにキャメルの精霊石に宿った。
「今、おいっす!って言ったか?」
「ちょーさんが、おいっすって言ったね」
「また、2人だけが分かる話しですか?」
『よいか、我が息子よ!勇者のお嬢さんを介して精霊の力が使えるはずだ。木刀に黄色い魔力だけを集中させ、先に伸ばす感覚でイメージするのだ!勇者のお嬢さんも我が息子に力を貸してあげてくれたまえ』
「御主は父ではござらんが、承知した」
「うん!」
キャメルとムサシが同時に返事をする。
ムサシが木刀を天にかざすと、木刀は黄色く輝き雷の刃が天高く伸びていく。
『これぞ、雷神剣!』
「雷神剣?!?!」
マルボが雷神剣と聞くと、目眩を起こしたようにフラフラし始めた。
「マルボ?どうしたの?」
「厨二病の発作だ!気にするな!」
「凄い!雷鳥は俺にも宿ってないのに」
セッターが羨ましそうに呟いた。
『来るぞ!』
神の神殿の上空に禍々しい魔法陣が大量に出現する。
その数は100を超えていた。
大量の魔法陣から大きな一角の龍がゆっくりと現れる。
体長10メートル程の漆黒の巨躯に赤黒い瞳を持つ、巨大な魔物であった。
その一角龍が100以上、空を覆い尽くす。
「なっ…」
ラークが絶句している。
「何よあれ…」
ピアニスが空を見上げて言う。
「この数と空からの攻撃は想定外だったな…」
ラークはマルボをチラッと見るが、マルボは厨二病を拗らせ、雷神剣に心を奪われたままだ。
ムサシとキャメル、アマルテアが何かしてくれそうだが、遠距離攻撃が出来るのはマルボ、ピアニス、セッターだけ。
ラークは占い師アンの『今、進んでいる道を早めると《凶》』という占い結果に近々魔神達と遭遇するのではと予感はしていた。
だが、まさかこんな事になるとは想像していなかった。
一際大きな一匹の頭部に魔神が立っている。
魔神が口を開く。
『我は魔神アエーシュマ。この神の神殿を魔神アンラ・マンユに捧げよう』
アエーシュマは高らかに宣言した。
『クックック…人間どもよ。見るが良い、つい先日手に入れた我が1,000の家畜龍を。ただ、人間を喰い殺す為だけに創り出した我が眷属達。そして絶望するがいい。貴様等はここで終わるのだ!』
「…凄い数だが、1,000はいないぞ…」
「数が数えられないのかしら…」
ラークとピアニスが呆れながら話している。
『黙れ!!家畜風情が!!』
魔神アエーシュマが怒り狂っている。
「おい!家畜はその龍じゃないのか?」
ラークがアエーシュマを煽る。
『家畜が喋るな!!!貴様等はこの場で血肉となるのだ!!』
『おい、俺達は喋ってはいけないらしいぞ』
アエーシュマが乗る一角龍が喋って仲間達に話しかける。
「駄目だわ、あの魔神。頭悪すぎ…」
ピアニスが溜め息をつく。
「おいっ!アエーシュマとか言ったな!ちょっと聞きたいんだが99の次の数字は何だ?」
ラークがアエーシュマに尋ねる。
『は?馬鹿かお前は?そんな事も知らないのか?』
アエーシュマはラークをバカだと思い激怒する。
『1,000に決まってるだろうが!!!』
ラークとピアニスは膝から崩れ落ちた。
アマルテアが空中に浮かび上がった。
『行くぞ!我が息子よ!』
「息子ではござらん!」
アマルテアが空を駆ける。
「あの一角龍達、魔人でござる。少し前まで人間だったようでござる」
ムサシが一角龍達から何かを感じとり察したようだ。
「もう、完全に繋がりを切られてしまったんだね」
キャメルが目を瞑りながら涙を流し呟いた。
「拙者にも分かるでござる。せめて無に還してやるでござる」
ムサシが木刀を横薙ぎに振るう。
雷の斬撃が扇の軌跡を描きながら、大量の一角龍に襲いかかる。
一瞬にして半分程の一角龍が消滅した。
「ぇぇ……」
ラーク達はドン引きしている。
魔神アエーシュマもムサシの雷神剣の威力に『ナニソレ?!』と目を飛び出させて硬直している。
マルボは鼻血を出して目がハートになっている。
「え?マルボって、そっち趣味?」
「いや、厨二病の発作だ。気にするな」
更にムサシの一閃。
もう半分の一角龍が消滅し、100以上いた一角龍はアエーシュマが乗る一匹のみと化した。
「おいおい…嘘だろ…」
ラークは唖然としながら見ている。
「ウッヒョーーッ!雷・神・けーん!」
マルボは変な踊りを踊り出した。
いわゆるオタ芸。
「厨二病の発作?」
「そうだ!」
アエーシュマは慌てふためき、恐怖を感じ逃げ出した。
ムサシとキャメルを乗せたアマルテアが追いかけて行く。
「何しに来たんだ、あの魔神…」
「いやー、雷神剣最高」
マルボは満面の笑みを浮かべ涙を流し感動に打ち震えていた。
「あのなー、肝心な時に厨二病拗らせるなよ」
ラークが呆れている。
「あの一角龍は眷属と言ってたから、魔人かもしれないけど、ただの魔物に近い存在だったよ。そこまで脅威じゃない。ムサシ抜きでもアエーシュマって魔神以外なら何とかなったと思う。それより、出現時の魔法陣」
そう言いながらマルボはメモを書き始めた。
「アジ・ダハーカの時のやつか?」
「いや、今の解析したけど姿を消すだけの魔法陣。姿を消してここまで来たって事だね。アジ・ダハーカの時の魔法陣は完全に転移してた。もう一度見たいんだよね〜」
マイペースのマルボに溜息をつくラーク。
セッターは山の下の方を見ていた。
ラークがセッターの様子を気にかけて声を掛ける。
「どうかしたのか?」
「うん、なんか精霊達がザワついてて、嫌な予感がしてね…」
ラークも山の下の方を見た。
「俺、見てくるよ」
セッターが階段を駆け降りて行った。
「あ、おい!」
「行こう!ラーク!」
マルボがセッターを追いかけて行く。
「あ!私も!」
ワカバが言ったが、ラークが手を出して止めた。
「ワカバはここにいろ。ケント、ピアニス達とここで待機してくれ」
ラークはそう言い残し、マルボとセッターの後を追った。
セッターは精霊シルフの、マルボは風魔法で階段を駆け降りる速度を調整しながら高速で下に向かう。
下に着く頃にラークも追いついた。
セッターは山の麓から馬車道を横断し森の中に入って行く。
「おい、何処に行くんだよ!」
ラークが叫んだが、セッターは振り向かずに走り続ける。




