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079 弐章 其の参拾弐 ライトの日記

「ここがライトの書斎だよ。何も無いけどね。日記だけ置いてあるよ。さぁ、読んであげておくれ」


 書斎には新しいテーブルと椅子、テーブルの上に置いてある日記帳だけだった。


「読み終わったらさっきの部屋に戻っておいで。私はお茶でも用意しておくからね」


 老婆は微笑みながら出ていった。

 ワカバは頷くだけであった。


 辺りを見渡し、日記を手に取ると椅子に座り、表紙を開けページをめくっていく。



╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋

┿ いや、日記とかチョー恥ずいんだけどー。

┿ でも、チョースゲー事が起きたから今日から日記書くことにするわ。

┿ マジでチョースゲーから!

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 いきなりの日記に、思わず笑いそうになるが、なんとか堪え続きを読む。


╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋

┿ 俺、勇者なんだよね。

┿ チョービックリしたっしょ。

┿ マジで。

┿ いや、勇者になったのずっと昔なんで、今更感あるんだけど。

┿ 俺、チョーラッキーボーイだから、これからもチョー頑張っちゃうぜ。

┿ 今日な、はじめて遠出のクエスト受けたんよ。

┿ そこで他のパーティと合流する話しだったんだけど、すげー事になったわけ。

┿ 勇者パーティーなんだって。

┿ 俺も勇者だからそんな偶然あるかー?

┿ って思ったけど、チョーチョースゲー運命だったわ。

┿ その勇者、一目見て分かったよ。

┿ 亜鶴紗あずさだって。

┿ 俺の前世の嫁の亜鶴紗。

┿ この世界に転生して勇者になって、また会えるなんて。

┿ 超嬉しかったし、チョー感動だった。

┿ 前世で俺が先に老衰で死んじゃったのが申し訳なかったんだ。

┿ だけど、ずっと愛していた。

┿ お互いさえいれば他に何も要らないくらい好きだった。

┿ すぐ声を掛けた。

┿「亜鶴紗!」って。

┿ そしたら振り向いて「晴隆!」って言って抱きついてきた。

┿【オメーが抱きついてきたんだろっ!】

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「ぶっ」


 所々に後から書かれたであろうレインの突っ込みがあり、それがワカバのツボに入ったらしく吹き出してしまっていた。


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┿ そうそう、俺は転生者で前世の記憶があるの。

┿ チョーカッコイイだろ。

┿ 前世の名前は蛍山晴隆ほとやまはる

┿ 亜鶴紗は旧姓丸田。

┿ もちろん結婚してからは蛍山亜鶴紗だ。

┿ チョー可愛い名前だろ?

┿【誰に聞いてんだよっ】

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 日記を読み進める内にワカバは両親の馴れ初めを知り、ライトとレインの人柄を知ることになった。

 転生者であり、前世から愛し合っていた者同士がこの世界で再開出来た奇跡に、胸の奥が熱くなるのを感じていた。

 そして、ライトとレインが互いにどれだけ想い合っているかも伝わってきて、二人の絆の強さを実感するのであった。

 日記を読むと、まるで2人が目の前で話をしてくれているような感覚になる。

 ワカバは両親の日記を夢中で読み進めていった。


╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋

┿ まぁ、それはいいとして、とにかく亜鶴紗はチョー美人で、めっちゃ良い女なんだ。

┿ それはこの世界でも変わらない。

┿ だけど、ちょっと天然なところがあって、そこもチョー可愛くて好きだ。

┿ ちなみに、今読んでいるのは、亜鶴紗と再会した日の事を書いたページ。

┿ これからは亜鶴紗の事はレインって書くね。

┿ あ、でも、別に毎日惚気てるわけじゃないからね。

┿ 俺だって、そういうのは程々にしてるつもりだから。

┿【オメーの方が天然だろがっ!話進めろ!】

╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋


「あはは、お母さん、ラークさんみたい」


 ワカバの先程までの不安は消えていた。


(私にもこんな風に想ってくれる人が現れるといいな)


 そう思いながら続きを読む。


 だいぶ日記を読み進めた。

 ライトの日記というよりライトとレインの日記であった。

 二人がどれだけ愛し合っていたか、よく分かる。


 両親が愛し合っている事を実感できるのは子供にとって幸せな事である。


 日記には仲間のガラム、メビウスの事も書かれていた。


「え?メビウスさんって何歳なの?」


 独り言を呟きながら夢中で日記を読み進める。


╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋

┿ この世界は闇に覆われている。

┿ 多く人はそれを知らずに魔物や時には魔神と戦っている。

┿ 皆、比較的平和だと思っているが、そうじゃないんだ。

┿ 魔物は悪意のある魔力が実体化したもの。

┿ 悪意ある存在が世界を破滅に導こうとしている。

┿ 詳しい事を書くわけにはいかないが、そんな感じの事が起こっているんだ。

┿ 俺達はその悪意ある存在達と闘っている。

┿ 俺達の未来の為にも、未来を生きる子供達の為にも。

┿ そして、この世界の人々を守る為に。

┿ 俺は戦う。大切な人達を守るために。

╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋


 次のページをめくると、そこにはこう書いてあった。


╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋

┿ 明日、俺達は大型クエストの旅に出る。

┿ 魔王タルウィと魔王ザリチュの討伐だ。

┿ ガラム、メビウスをはじめ総勢36人だ。

┿ 魔王を名乗っているが奴らは、熱の魔神タルウィ、渇きの魔神ザリチュだ。

┿ ついに見つけた。この世界の悪意の一部を。

┿ もうこれ以上犠牲を増やしてはいけない。

┿ 絶対に勝つぞ!!

╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋


「お父さん……」


 ワカバの目頭が熱くなった。

 だが、すぐにまた読み始める。

 日記は旅に持っていかなかったようで、続きは帰ってきてからだった。


╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋

┿ 倒した!タルウィとザリチュ。

┿ 倒せたよ。

┿ でも……、大きな犠牲を払ってしまった。

┿ 沢山の町が無くなり、多くの人々が亡くなった。

┿ 戦いで仲間達に死人は出なかったが多くの仲間が怪我やもう戦えない体になってしまった。

┿ ガラムも大怪我だ。

┿ 全快するには数年かかるらしい。

┿ 俺はもっと強くならなければ……。

┿ そして、この世界を平和に導ける存在になりたい。

┿ その為の力を、俺は手に入れるんだ。

┿ レインと一緒に世界を救う為に。

┿ そして、この世界の未来を生きる子供達のために。

┿ 俺はもっと強くなるんだ。

┿ もう誰も悲しませないために。

┿ そして、みんなで幸せに暮らすんだ。

╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋


 ワカバは胸が苦しくなり、涙を堪えられなかった。

 だが、必死に続きを読んだ。


╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋

┿ いやー、魔王討伐の後、チョー暇でさー。

┿ 国王様まで暫く休めって言うし、俺何したらいいの?

┿【おい、ギャップ!ページめくってこれは無いだろ!】

╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋


 ワカバはずっこけた。

 それからしばらく、ライトとレインのやり取りが続く。


╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋

┿ 俺とレインは結婚する事にした。

┿ そうだ、前世で結婚してたから結婚するの忘れてた。

┿【アホかーっ!】

╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋


「ふふ」


 思わず笑ってしまう。

 そして、二人は結婚式を挙げたようだ。

 その後、二人の間に子供が生まれた事が書かれていた。


「私の…事…」


╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋

┿ ついに子供が産まれた!

┿ レイン本当にありがとう!

┿ 前世では子供に恵まれなかったから。

┿ チョーチョーチョー嬉しい!

┿ しかも女の子だ!

┿ あぁ、なんて可愛い子なんだろう。

┿ なんて俺は幸せなんだ!

┿ 名前は《ワカバ》だ。

┿ この子が大人になる頃にはきっと平和な世の中になっているはずだ。

┿ そう信じている。

┿ いや、俺達が平和にするんだ!

┿ 俺の大切な娘、ワカバと最愛の嫁レインと。

┿ これからの人生を共に歩んでいきたいと思う。

┿ そして、ずっと3人で仲良く暮らしていくんだ。

┿ 俺は今最高に幸せです!!

┿【私も幸せよ。ありがとうライト】

╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋


 ワカバは涙で滲む視界で日記を読み進めた。


 暫く日記にはワカバの溺愛っぷりが綴られていく。


╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋

┿ 今日はワカバにプレゼントをした。

┿ それはお人形さんだ。

┿ 最近ワカバがぐずったり、泣き出したりする回数が増えてきた。

┿ その度に抱っこしてあやしているのだがなかなか機嫌が良くならない。

┿ そんな時にふと思い付いたのがお人形さんだ。

┿ だが、この世界に人型のぬいぐるみやおもちゃは無い。

┿ そこで考えた。

┿ そうだ!無いなら作ればいいじゃないか!

┿ 前世でプラモデルをよく作っていた俺なら出来るはず。

┿ そう思って数日前から人形作りを頑張った。

┿ 木材を加工し、フェルトを縫い合わせ、服を作ってみた。

┿ 今日、この人形をワカバにあげたんだ。

┿ すると、ワカバはご機嫌になり、そのまま寝てしまった。

┿ 良かった。

┿ 何て可愛いい寝顔なんだ。

┿ 本当に生まれてきてくれてありがとう。

┿ 俺とレインの子供になってくれてありがとう。

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 ワカバはハッとなり鞄を開けた。

 中から古びた人形を取り出す。

 いつから持っていたか分からない人形をずっとワカバは大事にしていた。

 人形劇でもいつも主役に使うお気に入りの人形だった。


「これ、お父さんが……?」


 ワカバは人形を抱きしめた。

 涙で日記を濡らさないように注意しながら。

 ワカバは愛されていた。

 大切にされていた。

 それを実感出来た。


「お父さん、お母さん……」


 ワカバにとって一番の不安は両親に捨てられていたら……という事だった。

 しかし、両親は自分を愛してくれていた。

 確信を得た。


 ワカバはまた、日記に目を向ける。


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┿ 最近気になっていたが、俺に宿る神の力が弱くなってきている。

┿ レインに聞くとレインも弱くなってきているらしい。

┿ 俺は《美と正義・真実の神アシャの神の神殿》に赴き神の声を聞いてきた。

┿ 俺達の力は《完全と水の神ハルワタート》と《不滅と植物の神アムルタート》の2柱の力を借りて得たものだ。

┿ 2柱の神の神殿は魔神達の手に落ちている為、2柱の神とこの世界の繋がりが弱くなっているらしい。

┿ このままでは力を失ってしまう。

┿ それぞれの神の神殿に俺達が赴いて魔神達から取り戻せば、元の状態に戻れるという事だ。

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 ワカバは先を読み進めた。


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┿ まだ小さいワカバを連れて行くのも危険だが、俺とレインが力を失ってしまうわけにはいかない。

┿ この世界の為、子供達の未来の為、ワカバの未来の為にも力を取り戻す必要がある。

┿ だから俺達は行くことにした。

┿ だが、準備をしてからだ。まず仲間を増やそうと思う。

┿ ガラムの怪我は治りつつあるが、まだまだ本調子じゃない。

┿ 連れて行くのは無理だろう。

┿ メビウスにも小さい子供がいる。

┿ 連れてはいけない。

┿ 強い仲間を探さなければならない。

╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋┿╋


 次のページが最後であった。

 旅に出る直前の日記だった。


 ワカバは読んだ後に見覚えのある名前に動揺する。


 ドクンと大きく心臓が鳴った。

 震えながら文字をなぞっていく。

 その指が止まった。

 

 書かれていた名前は


 ガイオー

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