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078 弐章 其の参拾壱 ワカバの故郷テプラン王国

 テプラン王国

 神の島とも言われるテプラン島の王国。テプラン島は、日本列島を縦に3つ並べたくらいの大きさで、大陸と言ってもよいくらいの大きさの島である。

 東の港街のダイコーシから西に数十キロで首都エビテがある。


 国民人口は3,000万人と多く、ダイコーシとエビテ合わせて1,000万人ほど集中している。

 エビテとダイコーシを合わせた地域の人口密度は世界で一番高いとも言われるほどである。

 治安も良く、平和な国である。


「いい国だな。本当に神との戦いの舞台にしていいのか?」


 ラークは、ダイコーシの市場の露店で串焼き肉を食べつつ、この街の空気の良さに驚いていた。


「誰かがやらねば、いずれ世界は滅んでしまうでござる。国民全員一丸となってでも戦うというピアニス殿の言葉は、国民全員がこの国を愛していると確信しているのでござろう。ハッハッハッ」


 ムサシが応えた。何故か陽気に笑っている。


 ラーク達の乗った船が港街ダイコーシに着いて、1日が経っていた。

 ピアニス達は到着早々に王城に向かい、第一王子に報告と神の神殿に入る許可、海賊達の問題や奴隷達の解放などを話し合っているらしい。

 ラーク達は、宿を取り、ピアニス達が戻ってくるのを待っていた。


「おい、宿にいる約束だったろ」


 後ろから声をかけられる。

 振り向くと、そこにいたのはガラムであった。


「おー、ガラムの親父さん。早かったな。もう会議は済んだのか?」

「親父はやめてくれ。早くしろと言ったのはお前達だろ。俺だけ先に戻ってきた。ワカバの件もあるしな」

「ワカバを勇者ライトの実家に連れて行く話か。何で王城で会議が必要なんだ?」

「ライトの実家はまだライトの実母が住んでいる。国王陛下には既に伝えてあるが、英雄の母親であり重要人物であるから警備を厳重にしている」

「なるほどな……ん?という事は英雄の娘であるワカバも重要人物じゃねーか?」

「だから、王城でその話をしてきたんだ」

「あ~、そういう事ね。それなら納得。ところで、これからどうするんだ?」

「許可は出た。早速ワカバを連れて行く。馬車は後2人乗れるが、どうする?というか、ワカバは?他のやつらはどうした?」

「はぐれた」

「はぁ!?お前ら、いつも一緒にいるだろ!」

「実は拙者達が迷子でござるよ。ハッハッハッ」

「ハッハッハッじゃないだろ!いや、ラークの感知スキルで把握してるんだろ?」

「圏外だ」

「はっ?」

「人混みが凄くてな。気を抜いてたらはぐれた」

「実は宿屋への帰り道も分からぬでござる。ハッハッハッ」

「トレジャーハンターとクワッドAが何をやってんだよ!」

「ハッハッハッ」

「何かムサシおかしくないか?」

「実はちょっとな……」


 ラークは酒瓶を見せて、それを振った。


「10歳に飲ませたのかーっ?」


 ガラムはラークから酒瓶を取り上げて叫んだ。


「いや、中身は爺さんだからちょっとくらい、いいかなーって」

さけを取り上げてさけぶとは情け(さけ)ないでござる。ハッハッハッ」

「うお、マジか……」


 ムサシの微妙な駄洒落にラークが突っ込みを入れる。


「って、お前も何飲んでんだーーっ!!」


 酒瓶を取り上げたガラムが酒を飲み始めていたのをラークが突っ込んだ。


 取り敢えず《突っ込み》は定位置に戻ったようである。


「あー、俺の酒返せよー」

「俺のだ!ジャイアニストか!お前は!」


 ガラムから酒瓶を取り返すと、ガラムがその酒は俺の物アピールをしてくる。

 だが、ラークにはそんなものは通用しない。


 因みに、ジャイアニストとは「お前の物は俺の物。俺の物も俺の物」と言ってくる輩の事である。


「みーつけたっ!」


 後ろからキャメルの抱きつきアタックを受けてムサシが吹っ飛んだ。


「あれ?」


「痛いでござる……ハッハッハッ」


「これどういう状況?」


 マルボが現れた。


 後ろからケントとワカバもやって来た。


 ムサシがキャメルを高い高いしている。


「おぉ、いたか。ワカバ」

「ガラムさん」


 ピョーーン


「今王城から帰って来た。ライトの実家に行く許可を得た」

「……」


 ピョーーーーン


「まだ、悩んでるのか?」

「悩んでいるというか、心の準備が」


 ピョーーーーーーン


「急にここが生まれ故郷で、自分のおばあちゃんと会うって言われても実感湧かないよね。まあ、でも、おばあちゃんに会えるなんていい事じゃない」

「そうなんですが……」


 ピョーーーーーーーーン


「やめろーっ!どこまで高く上げるつもりだーっ!」


 ムサシの高い高いがいつの間にか、ロケット発射みたいになっていた。

 大気圏を超えるつもりだろうか。

 キャメルは大喜びだが、下から見るとシュールすぎる。

 キャメルは飛べるからいいという問題では無い。


◆◆◆◆


 勇者ライトの家にはワカバ・ガラム・ラーク・ケント・キャメル・ムサシで向かう事にした。


 ワカバの実家であるライトの家にはライトの母親がいる。

 ワカバのお祖母ちゃんである。


 なお馬車は4人乗りで、キャメルはケントの膝の上、ムサシは走る事にした。

 マルボは、ベルモートと犬娘三姉妹と合流して宿屋で待機となった。


 ワカバの両親ライトとレインは共に転生者で勇者であった。

 熱の魔神タルウィと渇きの魔神ザリチュを討伐したテプラン王国の大英雄である。

 テプラン国王は英雄であるライトの家族達に国家栄誉の恩恵として新しい家等、王城の敷地の近くに建ててくれたのだが、ライトの母親はそれを断り、結局ライトの家に住み続けた。


 その新しい家はライトとレインの勇者博物館と化しており、入場料を取って展示物を見れるようになっているらしい。

 展示物としてライトの身の回りの遺品等を飾っているようだ。

 もちろん母親からの許可は得ているのだが、母親の希望でライトの日記だけは家に残してあるそうだ。

 日記に関しては写本を作成してあり、それが博物館に展示されている。


 ワカバが日記を読むだけなら写本でもいいのだが、折角なら原本を見せたい事と祖母に会わせたいのでライトの家に連れて行く事になった。

 ライトの母親にも前もって教えておきたかったのだが、時間が無く突然の訪問になってしまった。

 家はダイコーシの港より南西20キロメートル程、ダイコーシの郊外になる。


 ワカバ達を乗せた馬車はライトの家へ向かった。

 なお、ムサシは走って酒を抜くらしい。

 絶対一般の人は真似しないで下さい。


「ワカバ、ここがお前の家だ」

「……」


 ライトの家の前で馬車を止め、みんなで降りた。


 家の前には2人の警備兵が立っている。

 ガラムは警備兵達とも知り合いのようで、特例状を見せて話をしている。

 ワカバは目の前の家をただ見つめていた。

 庭が広く、門構えも大きい。

 だが、どこか寂し気な雰囲気のある家だった。


「立派なお屋敷でござる……」


 ムサシは小さな声で呟いた。

 ワカバの心境は複雑だろう。

 ムサシもワカバの事を気にかけているようだ。


 物心がついた頃からワカバは既に孤児だった。

 両親は死んだのか、自分が捨てられたのか、分からない。

 孤児院で育ちそこで育った。

 孤児院には親を亡くした子供や捨て子が多くいて、同じ境遇の子達と一緒に過ごしていた。

 家と言えば孤児院であり、家族と言えば同年代の同じ孤児だった。


 つい先日、両親の事を聞かされた。

 テプランに着いたら自分の家に連れて行くとだけ言われた。

 何故自分は孤児になったのかも知らされていない。

 ただ、両親は死んだと聞かされただけだった。

 全てを話すが、先に自分の目で日記を読むように言われた。


「ワカバ、大丈夫か?」


 ラークは心配して声を掛けた。

 だが、返事がない。


「おい!ワカバ!」

「えっ?あぁ、はい。すみません。少し考え事をしていて……」

「とりあえず中に入るぞ」


 ガラムが先に歩き、その後ろを皆が付いて行った。


 庭に一人の老婆が杖をつきながら庭の花を見ながら歩いていた。

 そして、ガラムを見るなり笑顔になり近づいて来た。


「これは、ガラムさん。また来てくれたのかい。今日はお客様かな?」


 ライトとレインの仲間であったガラムは何度もこの家に足を運んでいたらしい。


 老婆はワカバを見ると震えた声で話しかけてきた。


「レ、レインさん……あ、あんた、生きて…た…の…か…」


 老婆は涙を溢れさせ、声にならない声で泣き出した。


「おばあちゃん、ワカバだよ。この子は貴女の孫のワカバだ」


 ガラムの言葉に、老婆は驚いている。


「ワカバ、ワカバ、あぁ…生きていたのね…良かった…本当に…」


 ワカバは母親のレインと瓜二つだった。

 髪の色と目の色が違うだけで顔立ちがそっくりである。


 老婆はワカバに抱きつき、泣いて喜んでいた。


「ワカバのお祖母さんにしては、随分老けているな」


 ラークは小声でガラムに聞いた。


「ライトとレインが帰らぬ人となってから、何度も病気をした。回復魔法など駆使して回復はしたんだが、どうしても本人の意思が弱まっていてな。息子と嫁と孫を亡くしたんだ。無理もない」

「そうか……」


 泣いて抱きつく老婆に、ワカバは複雑な気持ちになっていた。


「おばあちゃん、ワカバにライトの日記を読ませてあげたい。読ませている間に俺達がこれまでの話しをするから、本人とは後程ゆっくり話さないか?」


 ガラムの提案に、老婆はワカバから離れ、涙を拭くと笑顔になった。


「そうだねぇ、そうしようかね。案内するよ。こっちに来ておくれ」


 老婆は家の方へと戻っていった。


「ワカバ、行くでござるよ」

「あ、うん……」


 ムサシに促され、ワカバ達は老婆の後を追った。

 家は質素だが綺麗に片付けられていた。

 リビングのテーブルに着き、全員椅子に座った。


「ワカバ、ライトの書斎に案内するよ。ついておいで」


 老婆は席を外すとワカバを連れて部屋を出ていった。

 残された者達は何とも言えない空気の中、暫く沈黙が続く。


 最初に口を開いたのはガラムだった。


「君達のおかげでワカバをこの家に連れてこれた。本当にありがとう」


 深々と頭を下げた。


「ガラム、頑なに先にワカバに日記を読ませたいと言い続けてきたが、その理由を教えてくれないか?何故、そこまでするのか気になってな」


 ラークの問いに、ガラムは答える。


「日記はライトとレインが最後の旅に出る直前まで書かれている。ワカバが生まれた後の約一年間に関しては毎日のようにな。日記を読めばワカバはどれだけ両親に愛されていたか分かるだろう。受け入れてくれるといいんだが」

「孤児である事を恨んだ事もあるかもしれないからな。両親の愛を受け入れられないかもしれないって事か」

「ワカバは大丈夫でござるよ」

「私もそう思います。ワカバさんは優しい人です」


 ケントがキャメルの頭を撫でながら言うと、キャメルも笑顔になる。

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