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074 弐章 其の弐拾漆 レヴィアタン

 セッターをボートに引き上げ、ラーク達は辰の方位に向かう。


「シャイターンの用事は済んだの?」

「なんかねー、そっちの竜さんに用事があるんだって」

「水竜の方に?」

「近いぞ!」


 ラークが叫ぶ。

 ラークの感知スキルの範囲に水竜が入ったようだ。

 海面が盛り上がり、中から巨大な物体が現れる。


 その大きさは50メートルを軽く超えていた。

 近づくにつれて、その巨大さが実感できる。


 辺りには船の破片が多数浮かんでいて、多くの人がそれに捕まっている。


「おい、アレか?」


 ラークが呆然としながら呟く。


「ご主人様、しばし精霊石から離れてよろしいでしょうか」


 シャイターンが精霊石から半身を出してキャメルに話しかけた。

 了承を経たシャイターンが水竜に向かって飛んで行く。


「シャイターンが何の用事があるのか分からないけど、今の内に戦い方を考えないと」

「マルボも連れてくるべきだったな。セッター何か良い案ないか?」

「うーん、思いつくのは、キャメルから俺が精霊のマントを借りるか、俺のシルフをキャメルに貸すか」

「精霊の力を使う作戦ならキャメルとセッターしか無理だ。俺とムサシは援護に回ろう」

「いや、ベストはムサシ君にも協力してもらう方法かな」

「もう任せる」


 セッターは自分の風の精霊シルフとキャメルのドライアド、ウンディーネ、そしてムサシと相談している。


「じゃ、ドライアド、ウンディーネ、そしてシルフ、頼むよ」

「シーちゃん、よろしくね」

「は、はい〜お任せくださいませ!」


 一時的に宿主をセッターからキャメルに移した風の精霊シルフは大喜びで返事をする。


 ムサシの短い木刀が大きくなって形を変えてキャメルを包む。

 更に大きな翼を生やす。

 そしてムサシの上半身を鎧のように纏っていく。


 ムサシとキャメルは合体して空を飛んで行った。


「ええええぇぇぇ!?何あれ??」


 ラークは驚きながら空を見上げる。


 木の精霊ドライアドの能力は、木を自由自在に操り変化させる事が出来る。

 ムサシの木刀を使い、木刀の形状を変化させムサシとキャメルを包み翼を生やした。

 ウンディーネは水の力で木刀の体積を増やした。

 増えるワカメの原理のようである。

 そして風の精霊シルフの力で飛んでいったのだ。


 その頃、マルボは何かを悟ったかのように呟いた。


「しまった!」

「どうしたんですか?マルボさん?」


 隣にいたケントが問いかけた。


「何か!何か凄く面白い事が起きてる気がするっ!くそっ!僕も行くべきだった!」

「……」


◆◆◆◆


「俺達はどうするんだ?」

「シルフ渡しちゃったから漕いで行くしか無いね」

「……」


 ラークとセッターはボートを漕いで向かった。


「うおりゃぁぁぁぁっ!!」


 ラークとセッターがオールで漕ぐボートはそこそこ速かった。


 ムサシとキャメルは水竜の近くまで来ていた。

 シャイターンが水竜と会話をしているようだが、水竜の尻尾に弾かれた。


「あ!シャイたんが!」


 キャメルの意思でシャイターンの近くに飛んで行く。


 シャイターンはダメージは無いようだったが、驚いた表情をしていた。


「大丈夫でござるか?」

「大丈夫……フオオオオオッ?」


 シャイターンはムサシとキャメルの合体状態に驚いている。


「ご主人様、その姿は……」

「カッコいいでしょーっ」


 ムサシの木の鎧の後ろに木に包まれた翼の生えたキャメル。

 あまりフォルム的にはカッコいいとは言えないのだが、キャメルはとても嬉しそうだ。


「はい!とても素晴らしいです!」

「シャイたん、状況を説明してくれるでござるか?」


 ムサシの問いに若干嫌そうな顔をするシャイターンだが、キャメルの精霊石に戻り説明をはじめた。


「あの水竜はレヴィアタン。私の比較的近い分体だ。分かりやすく言えば違う異世界では仲間である。近付けば意思の疎通が出来るはずだが、それが出来ない」


 レヴィアタン

 旧約聖書に登場する海の神獣。巨大な海蛇、もしくは竜の姿をしている。 「リヴァイアサン」「リバイアサン」とも表記する。

 あらゆる武器を跳ね返す程に硬い鱗を持ち、鼻や口から火炎を噴くという規格外の生物である。


「正気に戻せるでござるか?」

「おそらく無理である。この世界に魔神として召喚された時点でもう元々の自我はないであろう。あれが正気だ。倒すしかないのだ」

「左様でござるか……」


 レヴィアタンが動いた。

 口を大きく開けて、火炎を吐こうとしている。


「キャメル!口に向かって飛ぶでござる!」

「うん!」

「待てー!あの火炎は……」


 シャイターンの叫び声が終わる前に急加速でレヴィアタンの口に向かって行く。


「フオオオオオッ!」


 キャメルの精霊石に戻っているシャイターンは急加速によるGで悲鳴を上げている。

 レヴィアタンが火炎を吐き出した。


「ぬんっ!」


 炎の前で木刀を大きく振ると炎は衝撃波で拡散していく。


「フオオオオオッ」


 シャイターンはムサシの一撃に恐怖を感じ泣き叫ぶ。


「キャメル、今度は水竜の首の周りを旋回でござる」

「うん!」


 キャメルが首の周りを回ろうとするとレヴィアタンが口を開けた。

 ムサシ達にまたも炎を吐こうとする。


 ムサシが察知し、この一手は避けたいと思った瞬間、呼応するかのようにキャメルが旋回した。

 そのまま水竜の頭上に飛び上がると、回転しながら木刀を叩きつける。

 あらゆる武器をはね返す硬い鱗を持つと言うが、流石にムサシの攻撃はダメージがあったようだ。


「今、拙者の思った通りに動いたでござる」

「あのね、ムサシ君の考えてる事分かるの」

「何と!」


 ムサシが左に旋回したいと思うと、それに呼応し左に旋回するキャメル。

 上昇と思えば上昇し、下降と思えば下降する。

 まるで一つの体の手足を動かすが如く、シンクロして動いている。


 セッターはこのシンクロまでは考えていない。


 精霊のマントで空を飛べるキャメルに、風の精霊シルフの力でより速く空を駆けられるようにした。

 それにドライアドとウンディーネの力で、最強の攻撃力を持ったムサシと繋げた。

 攻撃はムサシ、飛行はキャメル別々の物だった。


 今、この状態で攻撃と飛行が連動し始めている。


「ムサシ君の意識に集中するね」


 キャメルは目を閉じて集中し始める。


「拙者、キャメルを信じるでござる」


「フオオオオオッ!ご主人様!おやめください!」


 シャイターンは泣きながらキャメルに訴える。


 飛行機の操縦士が目を瞑り、砲撃主の意識を感じ取って動かすなど正気ではない。


 ムサシの意思通りに動けなければ、2人はレヴィアタンの攻撃に直撃する。

 ムサシも自分の意思をキャメルに感じ取ってもらい、意思通りに動いてもらう事を信じるというのだ。

 いかにムサシでもレヴィアタンの攻撃を直撃すれば無事ではいられない。


 だが、今の二人は、まさに一つの生命体の様に動き出している。


「ブォォォォーッ!」


 レヴィアタンの口から水流が発射される。

 だが、キャメルは右へ左へと移動して回避する。


「拙者は、ここでござる」


 キャメルがムサシの思う通りの動きをすると、ムサシはレヴィアタンの首を木刀で叩きつけた。

 レヴィアタンの体が揺れた。

 だが、致命打には及ばない。


「せめて木刀が長ければ……」


 そうムサシが思うと、ドライアドの力で木刀が伸びて数メートルの木刀になった。

 キャメルがムサシの思いを感じとり、ドライアドの力を使ったのである。


「どうなってるんだ。あれ……」


 ボートを漕いでここまで来たラークとセッターは、ムサシ達を見上げ呆然としている。


「俺とキャメルは同じ勇者だけど、キャメルは俺以上の何かを持っている気はしてた」

「そうなのか?」

「ああ、それは確信してた。でもそれがこんな事になるとは思ってなかったよ。完全に一つの命のように動いてる」


(キャメルはムサシ君の事を何一つ疑いを持っていない。ムサシ君もキャメルの事を信じきっている。いくらありのままの命を愛せる勇者でも、人として現実世界に生きる以上100パーセント受け入れられるわけじゃない。キャメルはただの勇者じゃないんだ)


「もしくは同一体だったりして……」


 セッターが聞こえない程度に呟く。

 ラークは感知スキルでセッターの呟きは聞こえていたが、聞こえなかった振りをした。


「フオオオォッ!フオオオオオッ!」


 振り回されるシャイターンだけが泣き叫んでいるが、ムサシとキャメルは集中しているため、全く気にしていない。


「これはいけるか……」


 ラークがそう思ったところで、ムサシの強烈な一撃がレヴィアタンの頭部を捉える。

 バキッと鈍い音が鳴り響き、一瞬の静寂が訪れる。そして、次の瞬間、ドウッと水飛沫を上げ、レヴィアタンは沈んでいった。


「やったか!?」


 ラークとセッターが見守る中、水面から顔を出すレヴィアタン。


『光の子達よ、ありがとう。サタンよ、私は危うく魂の繋がりを切られるところであった。私が知っているのは、ここに呼ばれ、この付近で暴れさせられたというだけだ。また別の世界で会おう』


 そう言ってレヴィアタンは光に包まれ消えていく。


「よしっ!」


 ラークとセッターはハイタッチを交わす。

 力加減を間違えてセッターが海にドボンと落ちる。

 ムサシとキャメルがボートに降りて、合体が解けた。


 ボートに着地するキャメル。

 ビシッ!と腕を組みムサシと共にセッターポーズを決める。


 ボートに這い上がってきたセッターもそれに呼応しビシッと決める。


「だからそれはいいっ!」


 ラークの突っ込みが入った。

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