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072 弐章 其の弐拾伍 ピアニスの特訓

 瞑想トレーニングを終え、休憩を1時間とり次のトレーニングを始める。

 休憩中もトレーニングをしている者もいた。

 ベルモートがラークとケントと一緒に筋トレを強要されている。


 沢山持ってきたバナビアを責任持って消費しろと回復魔法で超回復筋トレを行っている。

 責任持てと言っているわりにラークも一緒に筋トレするところが彼のいいところである。


 筋トレする。バナビアを食べる。ケントが回復魔法をする。を繰り返し行っている。

 ケントとベルモートの胸や腕がみるみる大きくなっているのを見て、セッターとガラムが興奮しながら聞き、内容を知った2人も参加しだした。


 部活化している。

 ここに筋トレ大好き野郎五人衆が誕生した。


 この中ではケントだけが回復魔法を使えるのでエネルギー補給のバナビアを沢山食べている。

 消化吸収が早いためお腹いっぱいで苦しくなる事はないが、口の中が甘ったるくて気持ち悪いようである。


 犬娘三姉妹は筋トレ大好き野郎五人衆が汗臭くて離れていた。

 何をしているかと思うと3人で瞑想していた。

 ホープが感じた感覚は少なからずピースとラッキーにも伝わったみたいである。

 三つ子同士何かを感じるらしい。


 だが、ホープは首を傾げている。

 先程の感覚を再現できないようだ。

 そんな簡単に再現されては困る。

 悟りの極地に近い状態なのだ。易々と再現出来る訳がない。

 ひょっとすると2度と辿り着けないかもしれないが、人生を変えるきっかけになれば幸いである。


 マルボは紙の束に色々と何かを書いている。

 瞑想後に色々感じた事を書き込んでいるようである。

 ムサシは興味深そうに眺めてはみたものの、文字が読めないのでよくわからなかったようだ。


 ムサシは黙って見ていたが「ふふ、気になるかい?」とマルボの方から声を掛けてくれた。

 マルボは瞑想中に魔力に意識を集中させていたらしい。

 今までも魔力には意識していたが、より深い部分で魔力を感じようとしていた。


 マルボはそもそも魔力とは何なのかを知りたいようである。


 実は魔力は量子よりはるかに小さい《クオン》という物が動いたり集まったりすることで生じる力である。

 その事をマルボが知るのは少し後の事である。


 マルボは、魔力は光の濃淡と色は別々のように、魔力にも根本的に違う二系統が存在する。そしてこの世界には《色》が存在すると言っている。


 ムサシは聞いても分からなかった。


 マルボも共有できる人が欲しいらしく、光がどうとか、色は存在しないとか、一生懸命説明する。

 ムサシも真摯に聞くのだがには理解できない。

 ムサシが理解できないと他に理解してもらえる人は皆無なので、マルボは孤独に絶望した。


 ピアニスは見よう見まねで瞑想を続けている。


「みーつけたっ!」

「ひゃっ!」


 後ろからキャメルが抱きついてきた。


「もー、びっくりするじゃない」


 振り向くと笑顔のキャメルがいた。

 ピアニスとキャメルは暫くキャッキャする。


「お姉ちゃんも、ばつじゅーしよー」

「ばつじゅー?」

「重心を自ら崩して、その力を利用した体捌きという感じでしょうか」


 一緒にいたワカバが解説してくれる。


「この後やるから、一緒にやろー」


 キャメルはムサシの修行を一緒にやろうと誘っているのだ。

 ピアニスはキャメルと一緒に修行するのは魅力的だが、どうしてもムサシから直接教わるのは嫌なようである。


「私はいいわ。キャメルちゃんに教えて欲しいな」


 しばらくキョトンと考えるキャメルだが、「うん。いいよー」と言いその場で反復横跳びをはじめると言い出した。


「ふふふ」と子供の遊びを見る大人目線で見ていたピアニスである。


「こうやるんだよー」

「!?!?」


 キャメルの反復横跳びの異常な速さに驚愕する。


「ちょ、ちょっと!どうなってるのこれ?」


 キャメルはキョトンと考える。


「ゆっくりやるねー」


 キャメルの動きを目で追ってみると確かに動き自体は速いが、身体強化をしている様子はない。

(重心を真ん中に。足を抜く。重心が崩れる。それを利用して横に移動。反対の足を引き付けまた足を抜く。反復する時は逆の足を抜く。あいつの初動が速いのはそういうこと?)

 何度もキャメルの技を見続けるうちに何となく理解できるようになってくる。


「キャメルちゃん!ありがとーっ!!」


 ピアニスはキャメルを抱きしめ、頭を撫でまくった。


「えへへ」


 その後ムサシ達のトレーニングが始まった。

 ピアニスは陰に隠れ見ている。

 ムサシの動きを観察し続けた。

(重力と筋力を合理的に最大限に活用してるのよね?無駄が無いっていうか……悔しいけど、あいつ凄いわ……)

 ムサシの動作を一つ一つ確認していくピアニスだった。


 ピアニスは負けず嫌いである。

 負けず嫌いとは、負けを認めない、負けを受け入れないという事ではない。

 認めない、受け入れないではただの現実逃避である。

 現実は変わらない。

 受け入れなければならない。

 受け入れた上でどうするかだ。


「必ず、追い抜いてやるわ」


◆◆◆◆


「メビウス、ちょっといい?」


 ピアニスがメビウスに話しかけた。


「どうしたのぉ〜?」


 ピアニスはお姫様であるが、ピアニス自身が普通に喋って欲しいと言うので、タメ口で話す事にしている。


「私の修行に付き合ってもらえる?」

「あなた、私より強いじゃなぁ〜い」

「メビウスの力を貸して欲しいの。剣と魔法を同時に使え回復魔法も使えるあなたしか頼める人がいないの」

「うーん、私チョパイアクセンツのネックレス欲しいのよねぇ~」

「分かったわよっ!買ってあげるからっ!」

「一番高いやつよぉ〜」

「分かりましたっ!早速トレーニングルームに行くわよ!」

「んもぉ〜。せっかちさんねぇ〜」


◆◆◆◆


「本気ぃ〜?あなた死ぬわよぉ〜」


 トレーニングルームに来たピアニスとメビウス。

 ピアニスがメビウスに頼んだ修行方法は正気とは思えないものだった。

 メビウスには本物の剣を使わせ身体強化魔法も使わせる。

 ピアニス自身は練習用木剣に魔力も魔法も極力使わない、異世界魔法も使わないという縛りを設ける。


「これくらいやらないと、集中力を高められないわ」

「回復魔法は掛けてあげるけどぉ〜せめて刃の無い剣にすればぁ〜?」

「今用意できないし、緊張感を保たせるためよ」

「そぉ〜。では行くわよぉ〜」


 メビウスは身体強化魔法を掛けた。

 戦闘系ジョブの者なら殆どが使える身体強化魔法であるが、魔法剣士のメビウスのそれは常人の域を超えている。


 ピアニスは大きく深呼吸をすると、その場でピョンピョーンと軽くフットワークを刻みながら構えた。

 以前より跳躍の高さは低くしてある。

 そして跳ばずに膝の屈伸のみの場合がある。

 跳んだり跳ばなかったりと、タイミングが一定では無い。


「あらぁ?構え変えたのぉ?」


 ピアニスは口では答えずニヤリと笑う。


「いくわよ!」


 ピアニスは真っ直ぐ突っ込む。


「!!」


 初速が速い。

 一瞬で間合いに入る。


「っ!」


 ピアニスの木剣が一閃する。


「あっぶなぁい」


 メビウスは上体を反らして避けた。


「まだまだぁ!」


 ピアニスの連撃が続く。

 左右の移動も以前の比ではない。


「ふぅん。動きが変わったわねぇ」

「はっ!はっ!」


 ピアニスは攻撃の手を休めない。


 ビシッ!


 メビウスの突きがピアニスの頬を掠めた。

 鮮血が流れる。


「っ……」


 ピアニスは一旦距離を取る。


「ほらぁ〜、当たったじゃないのぉ〜。いくらあなたでもぉ、身体魔法使った私に勝てるわけないでしょぉ」

「まだよ」

「えぇ?」


(飛び跳ねるより膝を使うだけの方がいいかしら。しゃがむより落ちる力を使うように……あっ!)

 ピアニスは自分なりの抜重を会得しようとしていた。


「ふうぅぅぅっ」


 考えをまとめると大きく深呼吸をする。


 その瞬間、ピアニスの姿が消えた。


「えっ!?」


 次の瞬間、メビウスは背後に気配を感じた。


「くっ……!」


 振り向きざまに剣を振る。


 ガキンッ!

 メビウスの剣とピアニスの木剣がぶつかり合う。


 すぐさまメビウスは後方に跳び、ピアニスと距離を取った。


「まさかぁ〜、そんな隠し玉があったなんてねぇ〜」


(風魔法を推進力に使う方法はあるけど、この使い方は今まで無いはず。これが会得できれば、あいつのスピードに追いつく!)


「魔法は使わないんじゃなかったのぉ〜」

「極力って言ったでしょっ!それにどちらかというとこれは技術よ!」

「へぇ〜、まぁいいけどねぇ〜」

「次っ!行くわよっ!」

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