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071 弐章 其の弐拾肆 瞑想

「消化促進魔法とか吸収促進魔法も考えないとなー」


 マルボは胡座をかいて独り言を呟いていた。

 昼食を終えて皆はトレーニングをする為にデッキに出ていた。

 だが、食後すぐの急な運動はよくないので、瞑想を皆で行う。


 ラーク、マルボ、ケント、ムサシはもちろん、ワカバとキャメルも一緒である。

 キャメルが皆と一緒に参加したいと言うのでワカバも参加した。


 ワカバは船に乗ってから元気が無い。

 アーサーヴィルを置いてきた為、ワカバはこの先、自分が戦力になれる自信がないのである。

 人は中々変われない。

 何度も自分に言い聞かせてもダメだった。

(私はやっぱり足手まといなんじゃないだろうか)(強くなるって覚悟を決めなきゃ)その葛藤を繰り返して気持ちが落ち込んでいたのである。


 ベルモートも参加。だが肉体派のベルモートは瞑想に自信はなさそうだ。

 犬娘三姉妹もベルモートに強制され参加。

 満腹で眠気マックスのため瞑想は睡眠になる事間違いないだろう。


 ピアニスパーティからセッターが参加した。

 他パーティのトレーニングに興味があるようで、取り敢えずやってみよう派のようだ。

 ガラムは見学。

 長年やっていた自身のトレーニングを変えるのも抵抗があるため、取り敢えず見学してみる事にした。

 見学ならとりあえず瞑想すればいいのだが、ガラムは瞑想とは何なのかわかっていないのである。


 メビウスはまたも行方不明である。


 そしてピアニスは、ムサシ主体のトレーニングは嫌と不参加。

 しかし、隠れて覗いて見ている。

 相変わらずバレバレなのだが。

 素直になれないツンデレラであった。


 皆で円になり胡座をかいて座っている。


「瞑想は意識を1つに集中するものでござる。呼吸に意識を集めるのも良い。体内の魔力に意識を集めるのも有効でござろう」

「なるほど。魔力に集中か」


 ラークが納得した。


「つまり意識の操作でござる。ワカバが一番うまく出来るかも知れぬでござるな」


 ムサシの言葉にワカバがハッと顔を上げる。

 ワカバの落ち込みを理解してムサシは言葉を掛けたのであった。


 ワカバは瞑想して何になるのだろうと思ってはいたが、操作が得意なマニュピレーターだからと前向きに考えることにした。


「では、目を閉じてゆっくり呼吸をするでござる」


 皆がムサシの言葉にしたがって目を閉じた。


「呼吸は口でも鼻でも楽な方で構わぬ。息を吸ったり吐いたりを意識するでござるよ。一点集中でござる。呼吸を整えたら頭頂部の筋肉を和らげるでござる。そのままこめかみの筋肉を和らげ、頭の後ろを和らげ、顎の筋肉を和らげるでござる。口が開いても楽な状態で気にしないで。首の力を抜いていくでござる。」


 一同はムサシの言葉に誘導され、全身の筋肉を上から順に力を抜いて行った。


「そのまま、どこかに意識を集中させるでござる」


 しばらく静寂が流れる。

 揺れる船の振動は心地良く感じられる。


 離れたところでピアニスも真似ている。


 その様を見てガラムが「ブッ」と吹いてしまった。

 皆が目を開いてしまい、集中が途切れた。


「おい!親父!」


 ラークの突っ込みが冴える。


「すまん」とガラムは謝った。


「瞑想は周りの雑音を気にせず、自分の中にだけ意識を向けるのが目的でござる。敢えて気が散る環境で瞑想する者もいるでござる。周りの事には反応しないように心掛けるのも大切でござる」


 そう言うと再び目を瞑り、深呼吸を始めた。


 皆も続いて目を瞑った。


 暫くすると、「ブゥッ」と音が鳴った。

 臭い匂いが辺りに漂う。

 ガラムがオナラをしてしまった。


「誰だーっ!」


 目を瞑っていたため誰が犯人か分からない。

 ラークも瞑想中は感知スキルを使っていないので犯人は分からず、つい突っ込む。


「す、すまん」


 ガラムが謝った。


「おい!ダメ親父ぃっ!」


 突っ込まずにはいられないラークに瞑想は難しいのかもしれない。


 マルボがラークに声を掛けた。


「ラーク、今は突っ込みとかいらないから」


 真顔で言われた。

 いつもは突っ込みを待っているくせに……と思うラークではある。

 しかし、自分が間違っているようなので素直に従うことにした。


 しばしの静寂が流れた。

 キャメルが何かをつかんだようである。


 そしてキャメルが空中に浮かびゆっくりと空へ向かっていく。


(!?!?!?!?)

 ガラムは 空に浮き上がっていくキャメルに驚く。

 音を出してはいけない。

 でも、飛んでるんだけどー?

 とパニックと葛藤で慌てふためいている。


 この世界でも空を飛ぶ人間はいない。

 風魔法で理論としてはあるのだが、実際に空を飛ぶ人間を見るのはベテランのガラムでも初めてであった。


 感知スキルは使っていなくても、感覚の鋭いラークは何か感じ取り目を開ける。


「うおおおっ!!飛ぶんじゃねーーっ!!」


 ハッとしたキャメルは「あれ?」と言い床に戻った。

 ワカバに精霊のマントを預け瞑想を再開した。

 ラークの声に目を開けた皆も瞑想を再開する。


「おい」


 マルボに鋭い目つきで睨まれたラーク。

 そして、無言の圧力を掛けてくる。


「すいません。静かにやります……」


 今度は誰も何も言わなかった。

 ただ静かに深呼吸をしている。


 くぅーっくぅーっくぅーっ

 寝息が聞こえる。

 犬娘三姉妹の誰かであろう。

 想定内である。

 皆は気にしないように心がけた。


 だが、ベルモートがホープを叩いた。

 パシンッ!


「いった〜あちきじゃないじゃん!」

「え?ごめん」


 ベルモートは思わず謝ってしまった。


「もう、何かあったのに消えたじゃん」


「静かにしろよ」


 ラークが突っ込む。


「お前もな」


 マルボにガチで言われた。


 ラークは生まれて初めて心の底から震え上がった……

 真の恐怖と決定的な挫折に……

 恐ろしさと絶望に涙すら流した

 これも初めてのことだった……


「ラーク殿、感知スキルを自身の何か一つに集中して使ってみてはどうでござる?」

「おぉ……」


 ラークは言われて気づいたようだ。


 ついにラークは静かになった。


 ムサシは一人目を開き皆の状況を伺う。


 感知スキルを絞ることに専念しはじめたラークの集中力は素晴らしかった。


 マルボは苦戦しているようだ。常に思考を働かせているマルボは意識が拡散してしまいがちで表情がよく動く。だが、向き合い方が素晴らしい。近いうちに会得できるであろう。


 ケントは微動だにしない。ケントはヘイトスキルを自分の意識に向けて放っていた。そして嫌悪感と向き合っている。地味だが凄いことをやり続ける男である。


 キャメルは何かを感じ取りはじめているようである。やはり勇者。才能が溢れていた。もうしばらくすれば完全に習得するだろう。


 ワカバは時折ハッとなって目を開けては、また目を瞑るを繰り返しているのである。

 何かを感じ取って、驚いてまた瞑想をはじめるを繰り返しているのだ。


 人間には意識と無意識がある。表層意識と潜在意識とも言われる。

 人間は一つの事にしか意識が出来ない生物である。

 この一つの意識をより鋭く一点に、そして無意識の領域に焦点を当てる事がムサシ流の瞑想のようだ。


 この異世界では瞑想という行為は存在しない。

 12,000年に及ぶ魔物達との戦いに追われて余裕が無いのである。

 また、ジョブやスキルが存在するため意識が拡散しがちである。


 ただ、瞑想に近い行為は存在していた。

 何か一つに集中する事は瞑想に酷似している。

 職人などは己を追い込み、極限まで高めて作業に没頭し、他の雑念を捨て、ただひたすらに極めた技術を駆使する。

 戦闘系のジョブでも戦いや訓練に集中する事も瞑想に近い。


 だが、その極意を知るものはそうはいないのである。

 瞑想を技術として体現出来るほどの修練を積んだ者が存在しないのだ。

 ムサシは前世の修行方法を基にこの世界に合う形を模索していた。

 そして編み出したものが今ラーク達が行っているものである。


 ワカバは悩みがちな少女である。

 だが、変わろうとする志を持っている。

 悩む事に時間を使うのであれば、自分をみつめる時間にして欲しい。

 どんな異世界であっても、人間は一緒なのだ。

 悩み迷い苦しみながらも進もうとする葛藤こそが生きるということなのだから。


 ベルモートに目を向ける。

 ピクピク動いてしまっている。

 やはり、ベルモートには向いていないのだろうか。彼は動きながら何かに集中させた方がいいかもしれない。


 セッターは何かを掴みかけている気がする。セッターもさすが勇者である。


 さて、犬娘三姉妹達の様子である。


 ラッキー、寝ている…

 想定内だ。


 ピース、何かニヤニヤしている。

 美味しい物でも思い出しているのだろうか。

 それは妄想でござる。

 だが、それはそれでいいのだ。


 ホープは……


「!!」


 ムサシは思わず口に出して驚きそうになった。

 閉じている目から薄っすらと涙が出ているのだ。


 ホープは昨日ピアニスが部屋で泣いている事に心を動かされた。

 何故あんなに泣いているのだろう?

 ムサシ相手では誰も勝てるはずがないのに。

 それは本気でムサシに勝つつもりだったから。

 負けて悔しいのは、それだけ本気で取り組んでいる証拠。


 自分は何か本気で取り組んだことがあるだろうか?

 自分の意思で努力したことはあるか?

 本気とはどこまですることだろうか?


 もちろん言語化できるほど思考をまとめている訳ではなく、漠然と感じ取ったようである。

 そして、折角ムサシが教えてくれるのだから、たまには何かを真剣にやってみようと思ったのであった。


 瞑想をしてしばらくするとホープは自分の中に小さな光を見つけたような気がした。

 最初は(何かいいものあったじゃん)程度の感覚であった。

 一つに集中すること。

 言われた事を思い出し、ホープはその光に集中することにした。

 ただただ、これはとてもいいものだと思い必死で集中した。


 それは《愛》そのものだった。

 ホープを含め犬娘三姉妹は愛を知らずに生きてきた。

 はじめて《愛》をホープは感じ取ったのであった。


 こんな奇跡は瞑想を始めて行った者が到達できる事ではない。

 だが、この場には勇者が2人もいるのだ。

 ありのままの命を愛し愛される勇者。

 同じ場所で瞑想を行う事で起きた奇跡である。


「うぅっ。うわーーーっ」


 ホープが号泣しだした。

 嗚咽が止まらない。


 流石に皆も目を開けて驚き、どうしたのか聞こうとするところをムサシが制した。

 ホープは、もう1分以上号泣し続けている。

 嗚咽でまともに息が出来ないほどに。


 それでもホープの号泣は止まらない。

 悲しくて泣いているわけでもなく、嬉しさや幸せという言葉では表せない膨大な《愛》を感じ取ったのだ。


 キャメルが後ろからホープを抱きしめた。

 優しく微笑みながら包み込まれ、そのままホープは泣き続けた。

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