070 弐章 其の弐拾参 バナビア
前回のあらすじ
この世界は12,000年に及ぶ神々の戦いの舞台であった。
戦いの中で善神達は神の神殿を作り、神が宿る場所とした。
神の島と呼ばれるテプラン島には神の神殿が2つあるという。
テプランの勇者ライトと勇者レインは魔神タルウィと魔神ザリチュを討伐し英雄となる。
2人は結婚して子供を授かった。
ワカバである。
テプラン王国は《虚偽》の魔神と因縁がある。
《虚偽》の魔神達に勇者ライトと勇者レイン、王太子妃が殺されエスという少女は廃人となってしまった。
テプラン王国は、保管しているタルウィ・ザリチュ・インドラの心臓を囮にして《虚偽》の魔神達を一掃しようと作戦を発動する。
姫であるピアニスが《正義・真実の神アシャ》との会話で導き出した作戦。
テプラン王国第50回記念武闘大会にて魔神達を誘き寄せ討伐するというのだ。
男女の大会が交互に行われる武闘大会。
50回記念大会は女子の部で5人団体戦にするそうだ。
ピアニスはメンバーとしてワカバと犬娘三姉妹を参加させたいと言う。
ラーク達はテプラン王国《虚偽》討伐作戦に参加する事となった。
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ピアニス達との話し合いを終え、翌日の朝食の時間であった。
食事はセルフサービス形式になっているので、自分で取りに行くスタイルだ。
果物コーナーでベルモートがセッターとガラムと何か話しをしている。
しばらくするとベルモートはバナナのような果物をトレイいっぱい山盛りにして持ってきた。
「お前、それ……」
ドン引きする量であった。
「栄養補給に優れていて、高タンパク低カロリー、かつ甘くて美味しいらしいです。高タンパク低カロリーの意味は分かりません!」
分かってないのに持って来たのかよ!
そして犬娘三姉妹がトレイ山盛りのスペアリブを持って来た。
あ〜犬だから……人間の血の方が濃いんだから、ちゃんと野菜食べろ!
「あれ?バナビア何処にあったの?」
ピアニスがベルモートに聞いた。
このバナナのような果物はバナビアというらしい。
場所を聞いてピアニスはバナビアを取りに行った。
「うっ」
ベルモートがバナビアを口にすると眉間にシワを寄せた。
「甘い……」
どうやら口に合わなかったようだ。
「いや、味見してから持ってこいよ。どうすんだこんなに!」
「すいません。皆さん食べませんか?」
早々にギブアップして仲間に配って歩いた。
「これで低カロリー?」
バナビアを貰ったマルボが不思議そうな顔をしている。
ラークも食べてみると、甘過ぎて口に合わないようだ。
「レインが精霊の力を使って無理矢理品種改良したバナナよ。テプランの特産品なの」
バナビアを持ってきたピアニスが言った。
「無理矢理って?」
「バナナにステビアの甘さをドライアドとノームの力を使って無理矢理加えたんだって。理由は分からないけど、糖分は少なくて甘い女子の夢をかなえたフルーツよ」
ステビアの葉には、甘みを生み出す分子(ステビオール配糖体)が含まれている。
甘さは砂糖の200~300倍なのにカロリーは砂糖の90分の1程度なのだ。
そしてフルーツの王様と呼ばれるバナナは体内の塩分を排出し、むくみを解消するカリウムが豊富に含まれている。
また食物繊維が豊富なのでお腹の調子を整えてお通じもスムーズになる。
さらに必須アミノ酸のメチオニンやリジンがビタミンB6・C・ナイアシン(B3)・鉄にはたらきかけることで、カルニチンという脂肪燃焼を促進する成分を合成するのだ。
さらにさらにバナナは消化酵素アミラーゼも含まれているため、消化が良く消化に必要とするエネルギーも少なく吸収が早いのでエネルギー補給も早い。
このバナナの特長を最大限に高め、ステビアの甘さを加えたのがバナビアである。
夢のフルーツどころか、奇跡のフルーツなのだ。
だが、そんな難しい事は、この世界の住人に理解される訳がない。
ただの甘くてモチモチの果物だった。
せめて、説明を残しておけば良かったのだが。
ラークは感知スキルでバナビアを調べた。
ラークの感知スキルは優秀すぎるほど優秀である。
これだけでチートスキルと言っていいだろう。
自分を中心に最大500メートル以内の事を把握できる。
知覚情報を絞る事で精度を上げたり、複数の情報を同時に確認することも出来る。
更に敵対する相手に絞ると、些細な変化でも反応できるようになる。
元々反射神経のいいラークにこの感知スキルが加わる事で回避能力が劇的に上がるのだ。
ラークは今まで戦いや探索にしか感知スキルを使っていなかった。
《鑑定》というスキルが存在する。
商人等が持っているのだが、トレジャーハンターのラークは持っていなかった。
特に必要性を感じていなかったのだが、そもそもトレジャーハンターに鑑定スキルが無いのはおかしい。
トレジャーハンターとは遺跡や迷宮、古代都市等から宝を探すジョブなのだから。
そこでラークは感知スキルは鑑定スキルを兼ねるのではないかと思いバナビアに感知スキルを絞って使ってみたのである。
「バナビアに感知スキル使ってるの?」
マルボがラークを見て言う。
さすがに鋭い。
「ああ、鑑定スキルとは違うようだが、どんな物か情報は得られるみたいだ。マルボ、レインはとんでもない果物を残してくれたよ」
ラークが笑いながら答えた。
「なに?なに?教えて」
マルボの知的好奇心が刺激されたらしい。
ラークの横に寄ってきた。
「エネルギーの問題がこれで解決するかもしれない」
マルボが目を見開いた。
この世界の住人は身体能力が高い。
個人差もあるが、鍛えればどんどん身体能力は上がる。
だが、ラーク達はエネルギーの問題を抱えていた。
この世界の超人と前世の地球の超人と比較してみよう。
仮に、この世界の超人が10倍の身体能力を持つとする。
マラソンで比較すると地球の超人は40キロメートルを2時間程で走る。(フルマラソン世界記録は42.195キロを2時間1分39秒)
分かりやすく1時間で20キロで計算しよう。
この世界の超人が10倍の身体能力を持っていた場合。
スピードが10倍、1時間で200キロ走る。
持久力が10倍で10時間走り続ける。
掛けて10時間で2,000キロメートル走れる。
わけでは無い。
エネルギー、もしくはエネルギー効率も10倍なので、200キロメートルまでしか走れないのである。
スピードが10倍か持久力が10倍のどちらかしか選べないという感じだ。
そして、昨日のトレーニングである。
ケントは回復魔法を使いながらトレーニングをした。
回復魔法で超回復を促し一日で筋力を高めたのだが、最後にはエネルギー不足でかなり危ない状態だった。
エネルギーはトレーニングそのものに使う。
回復魔法に使う。
筋肉の超回復にも使う。
回復魔法を使いながらトレーニングする方法は画期的だが、エネルギーが課題となっていた。
それが解消するかも知れないというのだから驚かずにはいられない。
ラークはガラムの所まで行って話しをした。
まだ、両親の事をワカバに知られたく無いので、詮索されるリスクを減らすためである。
「ガラム、昔レインは、このバナビアを旅や戦いに持って行ったか?」
「あぁ、必ず持って来ていた。いつも食べろと言われたが、甘すぎて、あまり口には合わなくてな。だが、筋肉はつくのでトレーニング後には食べるようにはしていたよ」
タンパク質は筋肉の素である。
ラークはマルボを見て頷いた。
「ピアニス、このバナビアはいくらくらいするんだ?」
バイキング形式食べ放題のため単価は分からない。
「お店とか種類にもよるけど、一本50ゴールドくらいかな」
ラークは手頃な価格にニヤリと笑った。
「どうしたの?気に入った?」
「あぁ、正直甘過ぎて口には合わないが、これは最高に気に入ったぜ」
言っている意味が分からなくてピアニス一同は首を傾げる。
「まぁ、説明は後だ。何本か持っておくといい」




