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007 壱章 其の漆 ムサシ仲間になったでござる

「ぬおーっ、宍戸梅軒は創作でござるかーっ」

「うむ、鎖鎌の宍戸梅軒という男は知ぬんでござる」


 酔っ払って叫ぶラークに、変な言葉で答えるムサシ。


「ねぇ、ムサシの口調までおかしくなってきたよ」

「このまま変な口調が定着したらどうしましょう……」


 4人は、魔神討伐の後始末を終えて夕食をとっていた。


 魔人は太い鎖で捕縛され牢に閉じ籠められた。

 後は仲間だった冒険者達と冒険者ギルド、教会で決めてもらうことになる。

 食事を始めるやいなや、ラークはムサシと話しかけた。

 これからの旅の話や目的ではなく、ムサシの前世“宮本武蔵”について。


 人と会話をあまりしてこなかったムサシは、この世界の言語をあまり知らない。

 会話をしていくにつれどんどん言葉を覚えていくのは地頭が良いのだろうか。


 だが、酔いが回ってきたラークは変な言葉を使いはじめた。


 『ござる言葉』で。

 その言葉を覚えはじめ、ムサシの口調まで『ござる言葉』になってきてしまったのだ。


「お通は?お通は?」

「お通とは誰でござるか?」

「お通は武蔵の永遠の恋人だ!」

「拙者に永遠の恋人などおらんでござるよ」

「なんてこった!お通も創作でござったかーっ!」


 横で聞いているマルボは頭を抱え出した。


◆◆◆◆


 ラークは完全に泥酔。

 普段ここまで酔い潰れることはないのだが、ムサシが仲間になった事、宮本武蔵の本当の話が聞けた事がよほど楽しかったのであろう。


 マルボももちろん嬉しい。

 歴史的なヒーローが仲間になれば嬉しいのは当然だろう。


 ラークはケントに背負われ4人は宿屋に引き上げた。

 

 ベッドに転がるラークを見てムサシは言う。

「拙者ももう少し身丈があれば、一緒に酒を交わしたかったでござるな」


「その、“ござる”言葉、普通の言葉じゃないよ……」

「なんと!この喋り方は間違っているでござるか?」

「いや、もうそれでいいんじゃないかな……ある意味似合ってるし……」


 半分呆れ顔で答えるマルボを、苦笑いしながらケントは見る。


「でも、仲良く出来そうでよかったです」


 ケントはニコニコ笑いながら話す。


「拙者もこの世界の事、日本の未来の事、色々聞けて非常に楽しいでござる」


 ムサシもラークもマルボも同じ日本人から転生してこの世界に来たが、ラーク達はムサシよりもずっと未来からの転生者である。

 ムサシの知らない日本の話。いくら時間があっても足りない。


「じゃあ、寝る前にもう少し日本の話をしようか」

「うむ、かたじけない」

「私も興味あります」


 ケントは随分過去の世界から転生してきたようで、田舎暮らしだったらしく、当時の世界の事もよく知らない。

 いつもマルボとラークの話を聞き、日本への憧れを持っていた。



「それで、その逆刃刀の剣士はどうなったでござる?」

「その奥義は超神速の抜刀術!ついに完成させて倒すんだ!」

「おおおっ!」


 漫画の話をあたかも史実のように嘘の歴史を教え、ムサシに『ござる言葉』をより定着させてしまうマルボであった。


◆◆◆◆


「さて、出発は二日後の予定だったがどうする?」

「早く港町に着いても船を待たねばならないですからね」

「滞在費考えるとこの街の方が物価安いけどね」

「拙者には解りかねるので任せるでござるよ」

「……」


 すっかり『ござる言葉』に慣れたマルボとケントだが、記憶が無いラークはムサシの口調の変化に朝から戸惑っている。


「なぁ、ムサシの口調どうなってるんだ?」

「ずっとあんな感じだよ」


 こそこそとラークはマルボに話すが適当にあしらわれる。


「所持金に困ってはないけど、何かクエスト受けるか」


 朝食を終えたら冒険者ギルドに行く事にした。


 ギルドとは商工業者の間で結成された各種の職業別組合てある。

 商人ギルド・木工職人ギルドなどに区分される。


 冒険者とは冒険をする者のことだが、職業としては何でも屋である。

 魔物が多いこの世界では素材集めから護衛と様々な需要があり依頼も多い。


 冒険者登録をしていないムサシはクエストを受けられないのだが

「3人で受けて黙ってりゃわかりゃしねーよ。バレたところでムサシならギルドも文句言わないだろうし」


「そういうものでござるな」


 勝てば官軍、常識にとらわれない。

 宮本武蔵はそういう人物であったと言われていたのでラークに同調するのは不思議ではない。


 ただ、言葉を覚えようとするため、無理に相槌を打ってくるムサシに違和感を覚えマルボは吹き出してしまった。


◆◆◆◆


 ギルドに到着して、クエストが貼られている掲示板を眺める。

 ラークは一つのクエストカードが気になり手に取った。


【魔物増加原因調査依頼】

 最近この街グリーンヴィル周辺の森で凶悪な魔物が増加している。

 増加の原因の調査を願う。


「それは一日二日で結果を出すのは難しいのではありませんか?」


 カードを覗き込みケントが告げた。


「そうなんだけど気になってな」


 この世界で凶悪な魔物が増加する事はよくある事だし原因も様々である。


 一々気にしてはいられないというのが通常だが、気になる点がいくつかあった。

 魔物は『強き者』を本能的に避ける。

と、言われている。


 この森にはアマルテアとムサシがいる。

 凶悪な魔物の増加は不自然である。


 もう一つは昨日オーガジェネラルが単体で討伐された事。

 ジェネラル=将軍・司令官・大将といった意味であり、オーガを数匹率いているのが常である。

 代替り等で引退したオーガジェネラルが一匹でうろついている事もあるが、不自然というのが妥当な判断である。


「達成型だから他のクエストついでに探してみるのはどう?」


 気にしているラークを見てマルボが口を挟む。


「それがよいでござるな」


 状況を理解していないのにムサシは口を挟む。


 そのムサシのセリフを聞いて皆苦笑するのだが気にしない事にした様だ。

 言葉を覚えるため会話に混ざろうとしているのが分かっているからである。


 ラークは数枚のクエストカードを剥がし受付に持って行った。


「ラーク殿は随分カードを持って行ったようだが、あんなに持って行くものでござるか?」


「普通受理されないけど、ラークなら大丈夫じゃないかな」

「ふむ」


 興味を持ったムサシはラークの様子を見に行った。


「いや、こんなに沢山のクエストは受付られません」


「あーこれ冒険者カードね」


「特A!!失礼いたしました。早急に手配いたしますので待合室で少々お待ちください」


 受付嬢は慌てて奥へ引っ込んだ。


「なんでござるか?あの慌てようは」

「ラークの冒険者ランクは特別枠なんだよ。A級でも特別」

「ほう、それは凄いでござるな」


 冒険者ギルドのライセンスは最高A級である。

 A級を越えてしまった実力者のライセンサーにはAA(ダブルA)やAAA(トリプルA)といった

特別なライセンスが与えられる事もある。

 ただし、AAA(トリプルA)であってもA級の一部である。


 それとは別に『特別指示管理権限』という特殊な権利も存在する。

 緊急事態において、同ランクに指示等を優先的に行える権利である。

 大型クエスト等、大多数の冒険者が連携を取る必要がある場合に行使される事が多い。

 また、リーダーに不慮の事故等が発生し、代わりに指揮を執る場合や、大規模戦争等の指揮官を任じられる場合もある。


 場合によってはギルドの支部長以上の権限を持ち合わせる事すらあり得る。

 ただ、基本的に冒険者は自由人なので、持ってると便利程度の認識しかない。


 ラークは、その『特別指示管理権限』のA級ライセンスを持っている為、ラークの申し出は融通が利くのである。


 ラーク達4人は受付嬢に言われた通り、待合室にて待つことにした。

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