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062 弐章 其の拾伍 ベルモートの絶望

 現地に戻ったマルボ達3人はギムレットから感謝の言葉を掛けられた。

 事情聴取を行なってからにはなるが、大犯罪を犯した雑貨屋主人を捕まえた功績は大きいらしい。


「本気で警備保障ギルドを辞めようと思ったけど、話に乗って良かったウガ」


 何の事かよく分からないが、とりあえず辞めないようだ。


 エリニュス達を運んでいる最中、分前は半分ずつだよ!とセッターが言って、人数比率おかしくね?とラークが突っ込んでいた。

 笑いながら話ているので、2人とも実際はどうでもいいようだ。

 エリニュス達の亡骸は冒険者ギルドに運ばれる。

 この街アルファトは大都市の為、冒険者ギルドは24時間営業である。

 なお、この世界も1日は24時間である。

 ラーク達はこの世界の1時間は、前世の1時間に比べて少し長い気がしているのだが、確認のしようも無いので特に気にしていない。


 エリニュス達の亡骸を冒険者ギルドに引き渡し仮手続きのみ済ませた。

 エリニュスは討伐クエストも無ければ、魔神認定もされていない。しかし、明らかに魔神としか思えない容姿をしている為、討伐した事には報酬を支払うという事になった。

 報酬額は支部長が出勤してから決めるとの事。


 なお、その間、ピアニスはあんな別れ方をしてしまった為、表立って出てこれず、コソコソ隠れて後をつけていた。

 バレバレだったので皆笑いを堪えるのが大変だった。


 セッター達から色々と話を聞きたいので昼食を一緒にする約束をして解散した。


 ラーク達は少し早いが、全員揃ってるので朝食を摂る事にした。


 ピアニス達が神の神殿に訪れているようなので、話を聞かない事には今後の方針も決めかねる。


 昼前まで、暇潰しも兼ねてハンターギルドに赴く事にした。

 ベルモートと犬娘三姉妹をどうするか聞きに行かないといけない。


 キャメルは今朝からムサシの肩車から離れようとしない。

 ケントがジェラる(ジェラシーを燃やす)のだが、少し感じていたムサシとキャメルの壁が取り払われたようで、暫くはこのままで良いかなとラークは思っていた。


「師匠じゃーん!」


 ハンターギルドに到着して早々、ホープがムサシを見つけ抱きつこうとしたが、キャメルを肩車しているのを見てピタッと止まった。

 凄く仲の良いカップルに割り込めない乙女のような反応を見せた。

 ラークとマルボはそれを見て吹き出しそうになった。


「こらっ!ホープ!勝手に抜け…あ!皆さんおはようございます!」


 後からベルモートがやって来た。

 ちょうど支部内の会議室でカンパーリとベルモート、犬娘三姉妹と話し合っていたようである。


 ベルモートの案内で一同は会議室に通された。

 カンパーリは昨日ハンターギルドのリゾット支部長と連絡を取り合っていたようだ。

 この世界には、まだ電話がないので当然国際電話などない。

 だが、近年大都市の各ギルドには魔石を使った魔法通信機なる物が導入されていて、各地のギルド同士は通信が行えるようになっていた。

 通信と言っても電報のようなもので、一回の文章も短く時間も掛かる。

 それでも、この世界の文明レベルからすれば画期的な発明であった。


 やり取りは以下の様なものだった。

・ベル、犬3人ラークに着いていきたい

・ダメだ

・冒険者に移籍すると

・任せる

 カンパーリとリゾット支部長のやり取りは、このようなものでも半日掛かったらしい。


「そこで4人は長期研修という形でラークさん達に同行させたいのですが、如何でしょうか?」

「……」


 ベルモートと犬娘達は希望の眼差しでラーク達を見つめている。


 ラークは俯いてしまった。

 マルボは明後日の方向を向いている。

 ケントとワカバは苦笑いをし、ムサシとキャメルはキャッキャキャッキャ遊んでいる。

 見た目は10歳の子と5歳の子が遊んでいるようだが、ムサシ君、君は中身は大人だ。しかも犬娘達は君に着いて行きたいのだ。話に加わりたまえ。とラークは心の中で呟いた。


「命の保証は無いぞ」


「はい!覚悟の上です」


 ベルモートが力強く答えた。

 若干、犬娘達は引いている。


「後、経費はどうする?」


 ハッとするカンパーリ。

 おい、考えてなかったな。


「え、えっと……」


 目が泳ぎまくっている。


 ベルモートが口を挟んだ。


「あの、行く先々の町のハンターギルド支部でクエストを受けるというのはどうですか?」

「ハンターは拠点固定だから、他の支部でクエスト受けられないだろ?」

「それできたら確かに大きいけどね」


 ラークとマルボが口々に言う。


 依頼者は特例を除き、冒険者ギルドとハンターギルド両方に依頼を出せない決まりがある。

 その為、冒険者ギルドとハンターギルドのクエストは全て別のものである。

 もしハンターギルドの依頼をラーク達が受けられるのであれば、1つの町で多くのクエストを同時に受注可能となる。

 それは現金貧乏になりがちなラーク達にとっては、かなり魅力的な話だった。


「私の紹介状とベルモートを特Aにすれば可能です。ベルモートは特Aの条件は満たしていますし、私の推薦があれば問題ありません。この場で筆記試験を行えばいいでしょう。筆記が合格基準に満たなければ不合格となりますが」


「筆記試験!」


 珍しくベルモートは真っ青になった。


「ラークさん達と一緒に行動したいなら、筆記くらい出来て当たり前ですよね?ラークさんのパーティは世界最高峰ですよ」

「え、あ、はい……」


 ベルモートは更に顔色が悪くなったように見えた。


「大丈夫、俺が教えるから!」


 ラークが優しく声を掛けた。


「はい、頑張ります!」


 ベルモートは目に涙を浮かべながら笑顔を見せた。


◆◆◆◆


 特別指示管理権限

 緊急事態において同ランクに指示等を優先的に行える権利である。

 大型クエスト等大多数のライセンサーが連携を取る必要がある場合に行使される事が多い。

 リーダーに不慮の事故等が発生し、代わりに指揮を執る場合や大規模戦闘等の指揮官を任じられる場合もある。

 指示をするには管理もついて回るので指示管理権限となる。

 場合によってはギルドの支部長以上の権限を持ち合わせる事すらあり得る。

 この『特別指示管理権限』のA級ライセンスを通称『特A』と呼ぶ。

 通常、実技と筆記の試験で取得出来る。

 実技に関しては実績と推薦で免除も出来るが、筆記試験だけは受ける必要があった。

 冒険者は基本自由人なので、あったら便利くらいの認識だが、縦横の繋がりが強いハンターギルドでは重要視されるため、特別指示管理権限の筆記試験は冒険者のそれより難しい。


 内容は主に戦略や戦術の問題となる。

 ラークは特Aを持っている。

 ラークは過去に冒険者の特Aを簡単に合格しているのだが、ハンターの試験であっても簡単だと思っており、ベルモートには「俺が教えてやるから」と言ったのだった。

 何故なら、この世界は基本脳筋だからである。

 転生者のラークにとっては余裕であった。

 引っ掛け問題も無いし、考えれば当たり前の事が出題されているからだ。

 

 試験は1時間後に行われる事になり、それまでギリギリ勉強する事になった。

 折角なので、メンバー全員勉強会に参加する事にした。


 まずはベルモートの現状把握のため、過去問で模擬試験を行う。

 時間が無いので制限時間10分だけで行った。


 マルボ、10分で98点! 流石天才。


 ケント、75点!10分でこれなら通常の1時間の試験なら合格点の85点は余裕だろう。


 ワカバ50点、新米冒険者でこれなら素晴らしい。


 ムサシは読み書きが出来ないので、ラークが口頭で説明しながらの解答だ。


 ムサシ、100点満点。

 口頭で説明しながらの時間のロスは大きいのだが・・・

 考えてみれば宮本武蔵は兵法家だ。

 戦略や戦術を考える事に長けている。

 次元が違った。


 キャメル、お絵描きだった。

 うん、知ってた。


 犬娘三姉妹、開始5秒で睡眠モード突入!

 だよねー。


 そして肝心のベルモートである。

 解答用紙を見てラークは膝から崩れ落ちた。


 3点……。


 えぇ……。マジか……。


 ラークは頭を抱えた。

 ベルモートが泣きそうな顔をしている。


「こ、これは……」

「絶望的でござるな」


マルボとムサシが解答用紙を覗き込みながら言った。


「どうするの?ラーク」

「どうにもなんねーよ、これ」

「困ったでござるな」


 3人は小声でコソコソ話をしている。


「ベルモートだけ駄目で犬娘達だけついてくるとか、最悪の展開だけは避けたいんだけど」

「うむ、拙者もベルモート抜きは正直厳しいでござる」

「俺だって勘弁して欲しい。犬娘達だけの同行は論外だ」


 ふとカンパーリを見ると、こちらを見てニヤリと笑って部屋を出て行った。


「あの野郎!計ったな!」

「経費をこっち持ちにするか、ベルモート達を連れて帰る策略って事?」

「解せぬ!あやつ小悪党でござる」


「やるしかないね」

「致し方ないでござる」

「俺達の本気を見せる時のようだな」


 ラーク、ムサシ、マルボの3人は不敵な笑みをこぼし怪しく目を光らせた。


 どう見ても悪人の顔にしか見えない。

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