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061 弐章 其の拾肆 最恐の仮初の姿

「説明は後よ。あいつを倒す事に集中しないと」

「本体じゃないけど倒すしかない。あんなの放置してたらアルファトが壊滅する」


 ラーク達の質問の嵐に、ピアニス・セッターが答える。


 蛇の皮が破れ中から4メートル程の巨人が出現した。

 両手には大きな剣を持ち、身体には黒い鎧をまとっているようにも見え、鱗のようにも見える。

 頭部も角の生えた兜を被っているようだ。

 鮮麗されたフォルムの巨体は美しささえ感じる。

 体から発する覇気は凄まじく、その圧倒的な存在感は魔神というより闘神といったほうがいいかもしれない。


「なんだよ、これ。これで仮初?本体ならどんな化け物だよ。ラスボスなんてレベルじゃないぞ」


 ラークは冷や汗を流しながらアンラ・マンユを見ている。


 アンラ・マンユは、ゆっくりと歩き出した。


『この姿で精神攻撃は不可能だ。正面からかかってこい』

「むかつく!何その自信満々な態度!」


 ピアニスが叫ぶ。


「マルボ、何か策は思いついたか?」

「何も分からないから、今のところは」

「拙者が正面から行くでござる。みんなは援護を頼むでござる」


 そう言ってムサシはアンラ・マンユに向かって駆けていく。


『愚かな…』


 アンラ・マンユが右手の剣を振り下ろしてくる。

 ムサシが右に飛び避ける。

 振り下ろされると同時に左からもう一本の剣が襲ってくる。

 それを木刀で受ける。

 ぶつかり合った衝撃波が辺りに広がる。

 そのまま鍔迫り合いになる。

 力はほぼ互角の様だ。

 お互いの力が拮抗している。


 仮初とは言えアンラ・マンユと互角の力を持つムサシに一同は驚愕した。


「すげぇ!ムサシ君すげぇっ!」


 セッターは驚きの声をあげるが、ピアニスが「感心してる場合じゃ無いでしょう!」と叱咤する。


 そのままピアニスは前に出て剣を縦に構え何かを唱えはじめた。


「千の刃に刻まれよ!サウザンドブレード!」


 無数の剣が空中に現れ、アンラ・マンユ目掛けて飛んでいく。


 アンラ・マンユは右手の剣で全て防ぎきる。


 ラークが目を丸くしてマルボを見る。

「何あれ?」と訴えるが、マルボは「分かるよー。でも後にしようねー」と目で合図を送る。


 セッターが少し下がりキャメルに話かけた。


「キャメル、君はムサシの為にかなり力を使っている。自分では気付いていないと思うけど、あまり無理はしちゃダメだよ」


 先輩勇者であるセッターの言葉にキャメルは頷いた。


 マルボは魔法陣を拡げ上空に超高熱領域を作り始めた。


「森、火事にならないか?」

「後で消化すればいいでしょ」

「お二人はこの状況でも普段通りですね」


 ラーク、マルボ、ケントはいつも通りのやり取りを行って、ラークは前に出ていった。


 セッターも前に出て行く。

 アンラ・マンユは右手でピアニスが出す無数の刃を防ぎ左手でムサシと斬り結んでいる。


 ピアニスは自らも攻撃を仕掛けるが、アンラ・マンユは右手の剣で弾き飛ばしていた。


 後方に周り込みラークが攻撃を繰り出すが、それを右足で蹴り飛ばす。

 ラークは飛ばされた先で体勢を整え着地する。


 すかさず上空からセッターがブレイブハートを振り回して叩き込む。

 ブレイブハートは黄金に輝いている。

 土の精霊ノームの力を使い強化した渾身の一撃である。


 だが、アンラ・マンユはそれを頭部の角で受け止める。


 アンラ・マンユは仁王立ちとなると体が光り、辺り全体に衝撃波が広がった。


 前衛4人は吹き飛ばされる。

 4人はなんとか踏み留まったが、アンラ・マンユとの距離は開く。


「だぁぁぁっ!」


 ケントがアンラ・マンユに向けてヘイトスキルを繰り出した。


 アンラ・マンユはケントを見ずに、そのまま右手の剣を振り下ろす。

 斬撃が空を切りケントを襲う。

 ケントは盾でそれを防ぐが、衝撃で後ろへと後退する。


「マジかよ」


 その様を見てラークが呟いた。

 ケントのヘイトスキルに意識を向けず即攻撃で合わせたのだ。


 意識を向けなかったというより、いくつもの意識が同時に存在していて、その内の一つがケントに意識を向け続けている感じであった。


「マルボ・ビィィーームッ!」


 シャウト効果を乗せたマルボの放つ熱線がアンラ・マンユを襲う。

 だが、アンラ・マンユは2本の剣を交差させ中央で受け止めて空に受け流す。


「くそっ!」


「ケント!後ろにキャメルがいるんだ!ヘイトスキルはいいっ!キャメルを守る事に専念してくれ」


「ってか、マルボビームって何?だざっ」

「うん、俺ならマルボ・サンドブラスターとか名付ける」


 この場でピアニスとセッターが突っ込んでいる。


 マルボはその言葉に膝から崩れ落ちる。


「ちょっとマルボさんっ!」


 ケントがマルボに声を掛ける。


「マルボ殿!此奴が蛇なら熱はいかんでござる」

「!! 熱感知能力って事?」


 ムサシの言葉にマルボは立ち上がる。


「そういう事でござる。熱を感じているでござる。だから熱線は避けやすいでござる」


 そう言ってムサシはアンラ・マンユに向かって駆け出した。


 アンラ・マンユは左手の剣を横薙ぎに振るう。

 ムサシは数センチで見極めしゃがみ避ける。

 その瞬間に右手の剣が上から振り下ろされた。

 ムサシは木刀で受け流す。

 返し刀でアンラ・マンユの胴を払った。

 アンラ・マンユは木刀が当たる直前に胴体に力を込めた。

 胴体が黄金に輝き木刀を受け止める。

 アンラ・マンユは衝撃で後方に下がるが、ダメージは殆ど無いように思える。


 だが、アンラ・マンユはその場で片膝を付く。


『ほう、やるな』


 アンラ・マンユはニヤリと笑うと、ムサシに話しかけてきた。


「御主とは会話はしないでござる」

『心配するな。この体で精神攻撃はできない』


 後方に下がったアンラ・マンユをムサシが追う。

 アンラ・マンユは立ち上がりながら、左の剣を振り下ろした。

 ムサシは一度後ろに飛んで避け、すぐに前に跳ぶ。

 前後の動きの切り替えが速い。

 アンラ・マンユは右の剣を横に振った。

 ムサシは跳んで身を屈ませ避けるや剣の上に乗る。


「せやぁぁぁぁっっ!!」


 掛け声とともにアンラ・マンユの頭にめがけ木刀を振る。

 アンラ・マンユは頭部の角で受け止める。

 拮抗した衝撃は辺りに衝撃波を放った。

 足元が不安定なムサシは弾かれ距離を取る。

 アンラ・マンユは少し驚いたような顔をする。


『素晴らしい。ここまで強いとは。だがどうする?この体を倒せても仮初の姿。本体の力は更に強大だ。諦めた方が良いのではないか?』

「拙者も本気では無いでござるよ」


 ハッタリか本当か、ムサシの表情からは読み取れない。


『フハハハハ!面白い!本気は出して貰えないのか?』

「仮初と申す者相手に手の内は見せるはず無いでござろう?」


 そう言うとムサシはアンラ・マンユに駆け寄り木刀を横薙ぎに振るう。

 アンラ・マンユは木刀を左手の剣で受け止めた。


「私だって、まだ本気じゃないわよ!」


 ピアニスも負けじとアンラ・マンユに向かって走り出す。

 ラーク、セッターも攻撃を始めた。


 戦いは拮抗する。


 3分ほど戦い続けているだろうか。

 アンラ・マンユに全員で攻撃を仕掛けるが、時折ムサシの攻撃が当たるくらいで、他の攻撃は全て受け流している。


 アンラ・マンユ独自の能力であろうか。

 1つの体にいくつもの意識があるかのように、複数で同時に攻撃してもそれぞれに対応するのである。


「何か、何か手は無いのか!?」


 マルボが焦った声を上げる。


『素晴らしい戦士達だ。私とここまで戦えた人間は久しく居なかったぞ』

「褒められても嬉しかねぇーんだよ」


 ラークが叫ぶ。


『私は嬉しい。だが、残念だ。もう時間が無い様だ』


 アンラ・マンユの体は黒い影で覆われていく。


『人間共よ。私は滅ぼす為に遣わされた者。全ての悪を生み出した者。アンラ・マンユ。また会える時を楽しみにしているぞ』


 そう言い終わるとアンラ・マンユの体は崩れ落ち塵となった。

 後にはエリニュス達3体の亡骸が残った。


◆◆◆◆


 ラークは辺りを感知スキルで探るが何も感じない。


「ふぅーっ」


 警戒を解いて息を吐きその場で座り込んだ。


「凄いな、ラーク。今の戦いの後でも警戒を解かないなんて」


 先に警戒を解いて座り込んだセッターが感心したように言う。


「まぁ、苦い経験があるからな」


「それにしても、アンラ・マンユ。強いね。普通の魔神なら僕とピアニスで倒せるんだけど」

「あれで本体じゃないってんだから、頭の痛い問題だな」

「そしてムサシ君も凄かったね。噂以上だ」

「ふんっ」


 セッターがムサシを褒めてピアニスが少しむくれる。

 セッターはしまったという顔をした。


「ムサシ、ピアニス、僕達には大事な仕事が残ってる」


 すくっと立ち上がりマルボは二人に声を掛けた。


「そうだね。ジン達のところに戻らないと」

「義両親2人の浄化もでござるな」


 キャメルの着いて行きたそうな表情をしているのに気付いたケントが抱き抱えようとした時であった。

 ムサシがキャメルを肩車した。


「キャメル。一緒に行くでござるか?」

「うん!」


 一瞬ケントがジェラシーの目でムサシを見るが、ラークにエリニュスの亡骸を運ばないといけないからと諭され、しぶしぶエリニュスの亡骸を運ぶのを手伝うのだった。


 小走りでジン達のところに戻るムサシ達。

 ムサシは何とも無いようだが、ピアニスとマルボは少し息が上がってるようだ。


「さすがにピアニスでも息が上がるんだね」

「あのねっ!サウザンド・レイ・アローとサウザンドブレードを連続で使ってるの!凄い体力使うんだからね!」

「そうなんだ…」


 この世界と別の異世界の技を使ったピアニスの言動に納得するしかないマルボであった。


「わたしは、あいつに負けてないから」


 ムサシを見ながら呟くピアニス。


「ライバル認定?」言おうと思ったが、口に出すと大変な事に成りそうなので、心の中で思うだけに留めておいた。


「あ!ムサシ達だっ!」


 ジンが指差す。


 小さめ広場。

 墓石があり、墓地のようである。

 ジン達3人とワカバがいる場所に戻ってきた。

 ギムレットが来ていて犯人の雑貨屋主人を縄で縛っていた。


 駆けつけて早々にジン達に浄化魔法を掛けるマルボ。

 ジン達の服の埃汚れが消えた。

 呪いが解除されている。


 すぐにピアニスが走り出した。


「早く行くんでしょ?」


 ジン達3人もピアニスを追いかけて行く。

 マルボと、キャメルを肩車したムサシも後を追った。

 皆、笑顔である。

 目指すはジン達の家だ。


 ジン達の家につき皆が2階に駆け上がって行く。

 夜が明けるか明けないかの早朝。

 ドタドタ駆け上がる音は近所迷惑ではあるが、そんな事はお構い無しだ。


 義両親のところに駆けつけるや否やマルボは義両親2人に浄化魔法を掛ける。

 すると、2人の呪いの病は消え去り、元気になった。

 2人は起き上がりジン達に声を掛ける。


「ジン、カルア、ウォッカ…」

「心配掛けてごめんね…」


 ジン達3人は顔をくしゃくしゃにして溢れる涙を拭いながら、ただひたすら首を横に振った。


 マルボはジンの、ピアニスはカルアの、ムサシはウォッカの背中を押した。

 そのまま前につんのめるようにして義両親2人に飛びつく。

 ぎゅうっと抱きしめ合う。


「お父さん…お母さん…」

「うぅ、うあーっ…」

「良かった。本当によかったよぉ…」


 3人が泣き続けている間に、マルボ、ピアニス、そしてキャメルを肩車したムサシは静かに家を後にした。

 外に出ると、空が明るくなり始めていた。

 朝日が昇り始めている。

 朝日に照らされる4人。


「これで、ひとまず一件落着でござる」


 ピアニスが声を掛けて来た。


「キャメルちゃん。また遊びましょうね」

「マルボ、今日はありがとう。ジン達を助けられたのは、あなたのおかげだわ」

「……」


 キャメルにはデレデレ、マルボとは普通に喋れるのだが、ムサシには相変わらずツンケンしている。


「あなたとはいずれ決着を付けるからね。私が絶対勝つから!まぁ、あなたが強いのは認めてあげるわ」


 そう言って駆け出して行った。


 この後、また一度現地に戻るのではないのだろうか?

 疑問に思うマルボであった。

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